更新ノード 事業承継・M&A支援
経営承継円滑化法の3つの支援措置、事業承継税制、遺留分民法特例、所在不明株主特例、事業承継・M&A補助金を包括的に習得する
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このページは、事業承継とM&Aを支える法制度と補助金 を包括的に整理する更新ページです。試験では、経営承継円滑化法の3つの支援措置(税制支援、金融支援、遺留分の民法特例)を区別でき、法人版と個人版の事業承継税制の要件を正確に読めることが重要です。
このページの読み方
- まず
経営承継円滑化法の3つの支援措置(税制、金融、民法)を頭の中で分ける - 次に
事業承継税制の法人版と個人版の違い、特例措置と一般措置の差を押さえる - 最後に
遺留分民法特例と所在不明株主特例を「株式分散を防ぐ仕組み」として整理する - 相談・補助金は別ページで、ここは法制度に絞って習得する
学習のポイント
経営承継円滑化法は「3つの支援措置」で承継環境を整える事業承継税制は、「対象株式」「猶予割合」「継続要件」「計画提出期限」の4つのテーブルで整理する遺留分民法特例は、「除外合意」「固定合意」の2つが承継後の紛争を防ぐ仕組み特例措置は時限立法であり、計画提出期限と適用期限を区別すること
試験で何が問われるか
経営承継円滑化法の3つの支援措置を個別に説明できるか事業承継税制(特例措置)の猶予割合、対象株式、後継者数、雇用維持要件を正確に言えるか除外合意と固定合意の違い、および手続きの流れを追えるか所在不明株主特例で株式買取期間が5年から1年に短縮される理由を理解できるか- 事業承継継続要件の「猶予取消事由」と「免除事由」を区別できるか
経営承継円滑化法の3つの支援措置
経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律) は、事業承継を支えるために3つの支援措置を用意しています。
なぜこの法律が必要なのか
日本の中小企業では、経営者の高齢化と後継者の不足が急速に進んでいます。経営者平均年齢が60歳を超える中、以下のような問題が生じます:
- 税負担問題:後継者が非上場株式を相続・贈与される際、贈与税・相続税の負担が経営を圧迫する
- 資金問題:株式の取得、設備投資、運転資金が必要だが、金融機関の融資が受けにくい
- 相続紛争:複数の相続人がいる場合、株式の扱いで相続人同士が対立し、経営支配権が分散するリスク
経営承継円滑化法はこれら3つの課題を個別に解決するための法律です。試験では、まずこの3つを切り分けることが最初のステップです。
①税制支援——非上場株式の贈与税・相続税納税猶予
問題:後継者が親から株式を相続・贈与される際、贈与税・相続税の負担が莫大になり、経営資金を圧迫する。
解決策:事業承継税制 として、税の支払いを一時的に猶予し、一定条件を満たせば完全に免除する仕組みです。詳しくは後の節で解説しますが、ここでは「承継時の税負担を減らす」という役割を押さえます。
特徴:
- 贈与時と相続時の両方で適用可能
- 「猶予」(一時的に税を払わない)→「免除」(条件を満たせば納税義務が消滅)の2段階メカニズム
- 後継者が一定期間株式を保有し続けることが条件(これが「事業を真摯に継続する」という証拠)
②金融支援——都道府県知事認定による低利融資
問題:事業承継には多くの資金が必要(親からの株式買取、設備投資、運転資金など)だが、金融機関は後継者の経営実績がないため融資に消極的になる。
解決策:都道府県知事が「この承継は円滑に進む」と認定した企業に対し、日本政策金融公庫などが低利融資を提供する仕組みです。認定を得ることで、後継者でも有利な条件で資金調達ができます。
手続き:
- 現経営者と後継者が承継計画を立案(いつまでに、どのようにして、どのくらいの規模で承継するか)
- 都道府県知事が承継計画を認定(計画が実現可能か、経営基盤は安定しているか)
- 認定を受けた企業が日本政策金融公庫等の融資を申請
- 認定企業は通常より低い利率で融資を受ける
③遺留分の民法特例——株式の承継で相続人同士の争いを防ぐ
問題:承継予定者が全株式を相続しても、民法の「遺留分」ルールにより、配偶者や他の相続人から「私たちにも相応の財産をください」と請求されるリスクがある。これが株式の分散や経営支配権の喪失につながる。
解決策:経営承継円滑化法の民法特例により、「この株式は相続人間の紛争対象にしない」または「株式の価値を現在の額で固定する」という合意を法的に有効にする仕組みです。
特徴:
- 承継予定者と推定相続人全員の合意が必須(全員が同意しなければ成立しない)
- 経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る(単なる私的合意では効力がない)
- 株式が相続紛争の対象外になる(遺留分侵害額請求を受けない)
事業承継税制(法人版)— 最頻出
事業承継税制(法人版) は、非上場株式の贈与税・相続税を猶予・免除する制度です。
なぜ「猶予」と「免除」の2段階か
この制度は「いきなり税を免除する」のではなく、2段階のメカニズムを採用しています。
- 猶予フェーズ:後継者が株式を受け取ったときに「税金を一時的に払わない」(例:相続税100万円の支払いを先延ばし)
- 免除フェーズ:後継者の死亡・次世代への株式承継など「免除事由」が生じたときに「もう支払わなくていい」(本来の納税義務が消滅)。5年間の特例承継期間を経過しても自動的に免除されるわけではなく、その後も3年ごとの届出継続が必要
狙い:後継者が「本当に事業を継続する気があるのか」を5年間で見極める。もし途中で株式を売却したり、経営を放棄したら、猶予は取り消されて税金を支払わなければならない。
試験で最もよく出るテーマなので、以下の4つのテーブルを軸に整理します。
対象株式と猶予割合
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株式 | 発行済み株式総数の2/3まで | 全株式 |
| 猶予割合(相続) | 80% | 100% |
| 猶予割合(贈与) | 100% | 100% |
| 対象企業の条件 | 中小企業(資本金1億円以下など) | 同上 |
読み方:
対象株式の違い:
- 一般措置は「全株式の2/3」という上限がある代わり、手続きが比較的簡素で、期限制限がない
- 特例措置は「全株式」を対象にできる(経営支配権を完全に承継できる)代わり、計画提出期限(2027年9月30日)と適用期限(2027年12月31日)の厳しい条件がある
猶予割合の意味:
- 「猶予割合80%」とは「相続税の80%を納税猶予する」という意味。残りの20%は期限内に納める必要がある
- 例:相続税が100万円の場合、一般措置なら80万円を猶予し、20万円は期限までに支払う
- 贈与は両方とも100%猶予(納税を完全に猶予するため、期限内の支払いなし)
- 相続は一般措置で80%、特例措置で100%猶予
後継者と雇用維持要件
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 後継者数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用維持要件 | 5年平均で80%以上の雇用維持(未達で取消) | 実質撤廃(届出のみ) |
読み方:
後継者数:
- 一般措置は「後継者は1人」という限定
- 特例措置は「最大3人」まで認める(同族会社で兄弟が共同経営する場合、または複数部門の責任者を後継者として認定する場合など)
雇用維持要件の違い:
- 一般措置は雇用を厳しく監視:5年間の平均雇用数が80%以上の維持を求める。例えば、以前100人いた企業が、5年の平均で80人未満に削減されたら、猶予が取消される
- 特例措置は雇用維持要件が実質撤廃:単に「毎年、雇用状況を税務署に届け出るだけ」で足りる。リストラしても猶予が取消されない(2020年改正の大きな緩和ポイント)
計画提出期限と適用期限
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 計画提出期限 | なし(随時受付) | 2027年9月30日まで(令和8年度税制改正により延長) |
| 適用期限 | なし(永続的) | 2027年12月31日まで |
読み方:
計画提出期限の意味:
- 一般措置:「期限なし」つまり、いつでも申請できる(令和7年でも令和10年でも申請可)
- 特例措置:「2027年9月30日まで」という時限制限(令和8年度税制改正で延長)。つまり、この日付までに「事業承継計画書」を提出しないと、以後は特例措置の申請権は消滅する
適用期限の意味:
- 計画提出後、実際の贈与・相続(株式の移転)を「2027年12月31日」までに実施する必要がある
- 例:2027年8月に計画を提出しても、贈与・相続は「2027年12月31日」までに行わなければ、その後の新規申請は不可
継続要件と猶予取消事由
事業承継税制を受けた後の「継続条件」と「取消事由」を理解することも重要です。
| 期間 | 要件と取消事由 |
|---|---|
| 特例承継期間(贈与から5年間) | 後継者が代表者を継続、承継株式を保有、税務署への届出 |
| 特例承継期間後(6年目以降) | 株式保有と届出(3年ごと)を継続。代表者退任は許可申請が必要 |
| 特例承継期間後の要件 | 株式保有と3年ごとの届出を継続(猶予は継続。免除は後述の免除事由が生じた場合のみ) |
| 猶予が取消される事由 | 株式の譲渡、資産管理会社への転換、株式上場、後継者の個人債務が増大 |
| 免除される特別事由 | 後継者の死亡、後継者の破産、次の世代への贈与 |
読み方:
- 「猶予が免除」と「猶予が取消」は全く逆:免除は良いこと、取消は悪いこと
- 5年間の特例承継期間を満たしても、納税義務は自動的には消滅しない(猶予が継続する)
- 特例承継期間後は要件が大幅に緩和され、3年ごとの届出と株式保有継続だけでよい
- 本来の納税義務が消滅(免除)するのは、後継者死亡・次世代への贈与など「免除事由」が生じたとき
事業承継税制(個人版)
個人事業主の事業承継 にも税制支援があります。法人版と同じメカニズム(猶予→免除)ですが、対象資産が限定的な点に注意が必要です。
法人版との比較
個人版は法人版より優遇される面と制約される面があります:
- 優遇点:猶予割合が法人版の「相続税80%」に対して「全額猶予(100%)」
- 制約点:対象が「特定事業用資産」に限定される(不動産、営業権、機械など事業に直結する資産のみ)
- つまり「自宅兼事務所」の場合、事業用部分だけが対象で、居住用部分は対象外
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 個人事業主の特定事業用資産(営業権、土地、建物、器具備品など) |
| 猶予割合 | 100%(贈与税・相続税ともに全額猶予) |
| 計画提出期限 | 2028年9月30日まで(令和8年度税制改正により延長) |
| 適用期限 | 2028年12月31日まで(法人版より1年長い) |
| 継続要件 | 後継者が事業を継続、資産を保有、届出 |
読み方:
- 個人版は「全額猶予(100%)」で法人版より優遇
- ただし対象が「特定事業用資産」に限定される(すべての資産ではない)
- 法人化を検討している場合は、法人版への移行も視野に
- 適用期限は法人版(2027年12月31日)より1年長い(2028年12月31日)
遺留分の民法特例——頻出
なぜこの特例が必要なのか
承継予定者(例:息子)が全株式を相続しても、民法の「遺留分」ルールにより、他の相続人(妻、娘など)から「この株式も遺産の一部だから、私たちにも相応の財産をください」と請求されるリスクがあります。
一般的な紛争シナリオ:
- 父親が単独で全株式(評価額1億円)を息子に相続させたい
- 民法では妻に最低限の相続分(遺留分1/4)を保障している
- すると妻は「2500万円分の財産をください」と遺留分侵害額請求できる
- 株式を現金で分割するのが困難 → 株式が分散 → 経営支配権の喪失
解決策:経営承継円滑化法の民法特例により、「このリスク承継行為(株式の全承継)は承継予定者と推定相続人全員で事前に合意し、家庭裁判所の許可を得たから、有効とする」というルールを使う。
2つの特例方式
| 特例 | 内容 | 使い分け |
|---|---|---|
| 除外合意 | 承継予定者と推定相続人全員で「この株式は遺留分の計算から除く」と合意 | 株式の評価額が現在も将来も大きく変わらない場合、または成長可能性を抑制したくない場合に有効 |
| 固定合意 | 承継予定者と推定相続人全員で「株式の評価額を今の価額で固定する」と合意 | 高成長が予想される企業で、将来の株式価値上昇を見越して、遺留分請求額を抑制したい場合に有効 |
読み方:
- 除外合意:株式を「遺留分の計算に入れない」→ つまり「この株式はあなたたちには関係ない」と全員で合意
- 固定合意:株式を「今の値段で固定」→ つまり「将来値上がりしても、今の価額のままで計算する」と全員で合意
- どちらも「推定相続人全員の合意」が前提(全員が同意しないと成立しない)
手続きの流れ
- 承継予定者と推定相続人全員で合意書を作成
- 「この株式を除外する/固定する」という内容を明記
- 経済産業大臣の確認を申請
- 中小企業庁に所定の書類を提出
- 大臣が「これは適切な承継計画だ」と確認
- 家庭裁判所に許可を申立て
- 大臣の確認書を添付して家庭裁判所に申し立て
- 家裁が許可を出すと、民法の特例が適用される
- 遺留分侵害額請求を受けにくくする
- 許可後は、株式を他の相続人から守ることができる
注意点:全員の同意がなければ成立しないため、相続人が多い場合や相続人の所在が不明な場合は手続きが複雑になります。
所在不明株主の株式買取特例
なぜこの特例があるのか
事業承継時に「かつての少数株主が亡くなり、その相続人の所在が不明」という問題が発生することがあります。通常の民法では、こうした株主の株式を買い取るまでに長い手続き期間が必要です。
例:
- 親が創業した企業で、初期段階で外部投資家が少数株式を保有
- その投資家が亡くなり、相続人の所在が不明になった
- 現経営者(親)は、全株式を統一して後継者に承継したい
- でも「不明株主の株式」が邪魔になる → 買取手続きが長くなる
通常のルール:会社法(第197条)では「5年間、通知等が到達せず、かつ継続して5年間剰余金の配当を受領しない株主」については、株式の競売・売却手続きが可能。ただし5年は長い。
特例の仕組み
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 通常の会社法ルール(第197条) | 所在不明株主の株式買取:5年間の期間を待つ必要がある |
| 経営承継円滑化法の特例(会社法特例) | 都道府県知事の認定を受けた企業:1年に短縮される |
読み方:
- 経営承継円滑化法の「会社法特例(令和3年8月施行の第4の支援措置)」の認定を受けた企業は、不明株主の株式を1年で買い取ることができる
- つまり「この承継は計画的で信頼できる」と知事が認定したから、買取手続きを加速させる
- 後継者にとって、株式の統一を急ぎたいときに有効(5年→1年で統一可能)
事業承継税制の継続要件と免除・取消事由
税制支援を受けた後、「本当に事業を続けているか」「株式を保有し続けているか」を定期的にチェックされます。
免除事由——本来の納税義務が消滅する場合
以下のいずれかに当てはまると、納税猶予の対象となっていた税金は全額免除されます。
| 免除事由 | 説明 |
|---|---|
| 次の世代に猶予継続贈与をした | 後継者が次の後継者に本制度を適用して株式を贈与した → 最も一般的な免除パターン(この時点で前の後継者の納税猶予が免除) |
| 後継者が死亡した | 後継者が承継後に亡くなった場合、その時点で免除 |
| 後継者が破産した | 後継者が個人破産した場合、免除 |
| 次の世代への贈与 | 後継者が孫など次の後継者に株式を贈与した場合、贈与税に関する部分は免除(ただし条件あり) |
取消事由——納税猶予が失効し、本来の税金を払う必要が生じる場合
以下のいずれかに該当すると、納税猶予が取り消され、本来の相続税・贈与税を払う必要が出ます。
| 取消事由 | 説明 | 影響 |
|---|---|---|
| 株式を譲渡した | 後継者が株式を売却した → 譲渡益に対する税 | |
| 資産管理会社に転換 | 経営実体を失い、単なる資産管理会社になった → 本来の目的を失ったと判定 | |
| 株式が上場した | 非上場株式という条件を失った | 上場益に対する課税 |
| 後継者の個人債務が著しく増加 | 後継者の経営環境が悪化した場合、取消される可能性 | 要注視 |
| 雇用維持要件(一般措置)を満たさない | 5年平均で80%未満の雇用を維持できなかった(一般措置のみ) | 当初計画との乖離 |
読み方:
- 「免除」は「納税義務がなくなる」つまり得
- 「取消」は「取消された時点からさかのぼって税金を払わされる」つまり損
- 特例措置は雇用維持要件が撤廃されたため、この点での取消リスクは減った
事業承継・引継ぎ支援センター
この制度ではなく、相談支援です。詳しくは「更新ノード 事業承継・M&A支援(相談・補助金編)」で扱いますが、ここでは簡潔に。
役割:
- 全国47都道府県に設置
- 後継者不在や第三者承継(M&Aによる外部への承継)の相談に応じる
- M&Aマッチングの支援(原則無料)
- 税理士、司法書士などの専門家紹介
事業承継・M&A補助金
やはり別ページ(補助金編)で扱いますが、ここでは概略。
事業承継・M&A補助金:承継やM&Aを契機とした新たな取組(設備投資、デジタル化、人材育成など)を支援- 補助率・補助額は公募ごとに異なる
第三者承継(M&A)の基本実務
中小企業M&Aは「会社を丸ごと売る」だけではない
試験では M&A という言葉が一人歩きしがちですが、中小企業の第三者承継では 何を承継させるか によって手法も注意点も変わります。後継者不在の解決策としてだけでなく、事業の選択と集中、地域雇用の維持という観点でも問われます。
| 手法 | 何を引き継ぐか | 典型的な特徴 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社そのもの(株式、資産、負債、契約関係) | 中小企業M&Aで最も多い。会社の形を維持しやすい |
| 事業譲渡 | 特定の事業、資産、契約を選んで移す | 不要資産や簿外債務を切り分けやすいが、契約移転の手間が大きい |
| 合併 | 法人格ごと統合 | 中小企業一次試験では頻度は低いが、制度比較で出る |
企業価値をどう考えるか
中小企業の価値評価は「唯一の正解が一つある」わけではありません。試験では、評価方法ごとに着目点が違う ことを押さえると解きやすくなります。
| 評価アプローチ | 何を基準にするか | 向いている場面 |
|---|---|---|
| インカムアプローチ | 将来稼ぐ利益・キャッシュフロー | 成長性や収益力を重視したいとき |
| マーケットアプローチ | 類似会社や類似取引の価格 | 市場での相場観を知りたいとき |
| コストアプローチ | 資産・負債の差額 | 資産保有型企業や清算価値を重視するとき |
利益が高い企業ほどインカムアプローチでは高くなりやすい、不動産や現預金が多い企業はコストアプローチで高く出やすい といった違いが、選択肢の判定材料になります。
進め方の基本フロー
相談:事業承継・引継ぎ支援センターや専門家に相談する企業価値の把握:財務内容、強み、弱み、承継希望条件を整理するマッチング:買い手候補を探す基本合意:価格やスキームの大枠を決めるデューデリジェンス:財務・法務・労務などの調査を行う最終契約・引継ぎ:従業員、取引先、許認可の承継まで含めて完了させる
仲介機関・支援機関の役割
事業承継・引継ぎ支援センター:初期相談、マッチング支援、専門家紹介FA / 仲介会社:候補探索、条件交渉、手続き支援税理士・会計士・弁護士:税務、会計、法務の確認
誤りやすいポイント
誤り1:「M&A = 合併」と考える
正しい理解:中小企業では株式譲渡や事業譲渡が中心です。M&A はより広い概念です。
誤り2:「高い価格を付ければ売り手に有利」と考える
正しい理解:価格だけでなく、従業員の雇用維持、取引先との関係、簿外債務の扱いなども重要です。
誤り3:「価値評価は一つの計算で決まる」と考える
正しい理解:評価方法によって見える価値が違うため、複数の見方を組み合わせて判断します。
典型的なつまずき
- 事業承継税制の「猶予」と「免除」を混同
- 誤り:「5年で税金が免除される」
- 正解:猶予は「一時的に払わない」状態であり、5年の特例承継期間を満了しても自動的に免除にはならない。免除は後継者の死亡・次世代への猶予継続贈与など「免除事由」が生じて初めて成立する
- 法人版と個人版を同じものと見なす
- 誤り:「個人事業主でも法人版の特例措置が使える」
- 正解:個人版は対象資産が限定され、計画提出期限も異なる
- 特例措置の計画提出期限を忘れる
- 誤り:「いつでも申請できる」
- 正解:計画提出は「2027年9月30日」まで(令和8年度税制改正で延長)。適用期限(贈与・相続の実施)は「2027年12月31日」まで
- 対象株式の違い(2/3 vs 全株式)を曖昧にしたまま覚える
- 誤り:「一般措置でも全株式が対象」
- 正解:一般措置は「2/3まで」。全株式を対象にするなら特例措置(期限切迫)
- 雇用維持要件が特例措置で撤廃されたことを知らない
- 誤り:「特例措置でも5年平均80%の雇用維持が必要」
- 正解:特例措置は雇用維持要件が実質撤廃(届出のみ)
- 遺留分の民法特例の手続きを「合意だけで成立」と誤解
- 誤り:「承継者と相続人が合意すればOK」
- 正解:経済産業大臣の確認 + 家庭裁判所の許可が必須
- 後継者数の上限を忘れる
- 誤り:「何人の後継者でも対象」
- 正解:一般措置は1人、特例措置は最大3人
- 猶予取消事由と免除事由を区別しない
- 誤り:「後継者が死亡したら取消される」
- 正解:後継者死亡は免除事由(納税義務が消滅)。取消は株式譲渡など別の事由
問題を解くときの観点
問題文のキーワード読取
- 「相続」か「贈与」か
- 相続:贈与税ではなく相続税。猶予割合が異なる(一般措置は80%)
- 贈与:贈与税。両方とも100%猶予
- 「法人」か「個人事業主」か
- 法人:事業承継税制(法人版)。対象株式や計画提出期限に注意
- 個人:事業承継税制(個人版)。対象資産、計画提出期限が異なる
- 「特例措置」か「一般措置」か
- 特例措置:対象株式が全株式、雇用維持要件なし、後継者最大3人、計画提出期限2027年9月30日
- 一般措置:対象株式2/3、雇用維持80%、後継者1人、期限なし
- 「時限法」という制約を意識
- 計画提出期限2027年9月30日(令和8年度税制改正で延長)
- 適用期限2027年12月31日(実際の贈与・相続の期限、延長なし)
- 「猶予」「免除」「取消」の3状態を区別
- 猶予:税金を一時的に払わない状態
- 免除:納税義務が完全に消滅する状態
- 取消:猶予が失効し、本来の税金を払う必要が生じた状態
数値計算がない場合の読み方
このテーマは数値計算がほとんどなく、「制度の仕組み」「手続き」「条件」を正確に読む問題ばかりです。
- 問題文の条件(後継者数、雇用規模、年度など)を細かく読む
- 「○年以上」「最大○人」などの上限・下限を見落とさない
- 時限法の期限を意識し、「いつまでに何をするべきか」を判定する
確認問題
問1:法人版事業承継税制——一般措置 vs 特例措置
以下のA社とB社について、それぞれ最適な支援措置を判定してください。
A社の状況:
- 発行済み株式総数:1000株
- 現経営者(親)が800株保有し、長男に承継予定
- 全株式を対象にしたい
- 2026年4月に相続予定(計画提出は2026年2月予定)
B社の状況:
- 発行済み株式総数:500株
- 現経営者が400株保有し、3人の息子に共同承継予定
- 全株式の2/3(約333株)までの承継を想定
- 雇用を現在の70%維持する予定
解答:
A社:
- 全株式を対象にしたいので、特例措置 が適切
- 計画提出期限は2027年9月30日(令和8年度税制改正で延長済み)であり、2026年2月提出は問題なく間に合う
- 相続は2026年4月なので、適用期限2027年12月31日の制約も大丈夫
- 後継者が長男1人なので、人数要件(最大3人)も満たす
- 特例措置なら雇用維持要件の心配もない
B社:
- 3人の後継者が必要なので、特例措置 が必須
- 一般措置は後継者1人のみ、複数人不可
- 全株式の2/3が対象なら、一般措置でも可能だが、複数後継者のため特例措置で申請
- 雇用70%の計画だと、一般措置なら5年平均80%要件に未達するリスク大
- 特例措置なら雇用維持要件が撤廃されるため、この懸念が解消される
- 計画提出期限(2027年9月30日、令和8年度税制改正で延長)を確認し、間に合うよう準備
問2:遺留分の民法特例——除外合意と固定合意
C社の現経営者(父)が息子に株式を贈与しようと考えています。
- 現経営者の家族:妻、息子(後継予定)、娘の3人
- 非上場株式の現在価額:3000万円
- 将来10年で企業価値が6000万円に成長する見込み
息子は「将来の相続紛争を避けたい」と考えています。除外合意と固定合意のどちらが適切か、判定してください。
解答:
除外合意が適切です。理由:
-
除外合意の効果:
- 3000万円の株式を遺留分の計算から除外
- 妻と娘は「この株式は遺産に含めない」という前提で合意
- 息子が将来株式を保有していても、遺留分請求対象にならない
-
固定合意との比較:
- 固定合意なら「株式の評価額を3000万円で固定」という意味
- 10年後に企業価値が6000万円に成長しても、遺留分は3000万円ベースで計算
- ただし父が亡くなったときの相続税計算では、実際の価値(6000万円)で課税される可能性
- つまり固定合意は「遺留分請求額は増えない」が「相続税は増える」という矛盾を生む可能性
-
結論:
- 将来の成長が予想される場合、除外合意で株式を遺留分計算から完全に外す のが最も安全
- 妻と娘の同意と、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可を得た上で契約を結ぶ
問3:事業承継税制の継続要件——免除 vs 取消
D社の現経営者は2023年3月に特例措置の承継計画を申請し、同年5月に長男に全株式2000株を贈与しました(贈与税納税猶予適用)。 以下のシナリオでは、納税猶予が「免除」されるか「取消」されるか判定してください。
シナリオ1:
- 2028年3月(贈与から5年)に長男が代表者を退き、兄の次男に代表者を交代した
- ただし長男は全株式を保有し続ける
シナリオ2:
- 2025年10月に長男が急死した
シナリオ3:
- 2027年7月に長男がD社の全株式を外部のベンチャーキャピタル(VC)に売却した
シナリオ4:
- 2028年3月に長男が、孫である長男の子に株式を贈与した
解答:
シナリオ1:取消される可能性が高い
- 理由:贈与(2023年5月)から2028年3月は約4年10ヶ月。特例承継期間(5年)はまだ満了していない時点での代表者退任は取消事由に該当する
- 特例承継期間(5年)を完全に満了した後(2028年5月以降)であれば、所定の手続きで代表者退任が認められる場合があるが、本シナリオは期間内
- 実務的には事前に税務署に相談が必要
シナリオ2:免除される
- 理由:後継者死亡は免除事由に明記されている
- 2025年10月時点で、特例承継期間(5年)はまだ満たしていないが、後継者死亡は例外的に免除
- 未納の相続税・贈与税は発生しない
シナリオ3:取消される
- 理由:「株式譲渡」は取消事由に明記されている
- VCへの売却で非上場株式という条件も失われる
- 売却益に対する課税の他、猶予されていた相続税・贈与税も支払い義務が生じる
シナリオ4:免除される
- 理由:次世代への贈与(孫への移転)は免除事由に該当
- ただし孫への贈与税計算は別途検討が必要
- 特例承継期間(5年)も満たしているため、この時点で納税猶予は完全に免除される
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