組織再編と事業譲渡
合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡の全体像と違い、手続、簡易・略式手続を網羅したノード
学習の入り口
このページでは「会社の組織や支配関係をどう変えるか」という経営判断における法的な枠組みを整理します。企業が成長、統合、事業整理を行う際、どの手段を選ぶかで、対価の形、自動で移る権利義務、必要な手続が大きく異なります。試験では、複数の再編方法の違いを正確に区別し、それぞれの法的効果を説明できることが求められます。
このページが扱う範囲
- 組織再編の7つの類型(合併・分割・株式交換・株式移転・株式交付)の定義とメカニズム
- 事業譲渡の個別承継の構造と特徴
- 包括承継 vs 個別承継の違いと実務的な帰結
- 簡易手続・略式手続の要件と適用場面
- 反対株主買取請求権と債権者保護手続の設計思想と適用範囲
- 試験で頻出の誤認パターンとその解き方
試験で何が問われるか
- 類型の区別:組織再編7種類を対価・新設/既存・包括承継の軸で正確に分類できるか
- 法的効果の予測:各方式で「何が自動で移り、何が移らないか」を判定できるか
- 手続判定:簡易手続・略式手続・債権者保護手続の要件を満たすか計算・判定できるか
- 反対株主対応:買取請求権が発生する場面としない場面を区別できるか
- 事業譲渡の特殊ルール:競業避止義務、労働契約の自動移転なし、許認可の新規申請が必要という制約を理解しているか
組織再編とは:定義と背景
組織再編の定義
組織再編(organizational restructuring) とは、会社の組織形態や支配関係を変更する行為全般を指します。会社法が定める組織再編には、以下のような共通の特徴があります:
- 会社の存続に関わる重要な変更:単なる営業活動ではなく、会社の法人格や支配関係そのものが関係する
- 株主権の変動:既存の株主の地位が変わる、または新たな株主が加わる
- 包括承継の原則(ただし株式交換・移転・交付は除く):権利義務が個別の契約手続を経ずに、一括で移転する
会社法は、この重要性から、株主総会の決議や債権者保護手続を厳格に定めています。
組織再編7つの類型
組織再編は、以下の7つに分類されます。各々の特徴を「対価」「新設有無」「包括承継の有無」で理解することが学習の鍵になります。
合併系(2つ):複数会社の統合
吸収合併:
- 既存の2社(以上)が関与
- 一方が他方を吸収する形で統合
- 消滅会社の権利義務が存続会社に自動で移転(包括承継)
- 対価:金銭、株式、社債など、形態は自由
- 法的効果:消滅会社は存在しなくなる、存続会社がその地位を承継
新設合併:
- 複数の既存会社が関与
- 新設会社を設立して、すべての既存会社が統合される
- 既存会社のすべての権利義務が新設会社に移転(包括承継)
- 対価:通常は新設会社の株式
- 法的効果:既存会社がすべて消滅、新設会社のみ存続
分割系(2つ):会社内の事業部門の分離
吸収分割(新設分割の既存会社版):
- 1つの会社が対象
- その会社の事業の一部を分割し、既存の別会社に承継させる
- 分割された事業部分の権利義務が承継会社に移転(包括承継)
- 分割会社は存続し続ける(消滅しない)
- 対価:分割会社は、承継会社から株式・金銭など受け取ることもある
新設分割:
- 1つの会社が対象
- その会社の事業の一部を分割し、新設会社に承継させる
- 分割された事業部分の権利義務が新設会社に移転(包括承継)
- 分割会社は存続し続ける
- 対価:通常は新設会社の株式
株式方式(3つ):支配権の取得で子会社化
株式交換:
- 既存の2社が関与
- 一方(親会社)が他方(子会社)の全株式(100%)を取得
- 対価は株式・社債・金銭等(形態は自由)
- 被交換会社の株主は完全に入れ替わる
- 被交換会社は完全子会社化(支配権が親会社に移る)
- 法的効果:被交換会社の権利義務は被交換会社に留まる(包括承継なし)。子会社の法人格は独立したまま
株式移転:
- 複数の既存会社が関与
- 新設会社が設立され、すべての既存会社の株式を100%取得
- 対価は新設会社の株式
- すべての既存会社が完全子会社化される
- 法的効果:既存会社の権利義務は各会社に留まる(包括承継なし)
株式交付:
- 既存の2社が関与
- 一方(親会社)が他方の株式を50%以上取得して支配権を得る
- 完全子会社化は不要(支配権取得で足りる)
- 対価は親会社の株式のみ
- 被交付会社は親会社の配下に入るが、他の株主も残ることがある
- 法的効果:被交付会社の権利義務は被交付会社に留まる(包括承継なし)
組織再編7種類の比較表
| 項目 | 吸収合併 | 新設合併 | 吸収分割 | 新設分割 | 株式交換 | 株式移転 | 株式交付 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 対象会社数 | 2社 | 2社以上 | 1社 | 1社 | 2社 | 2社以上 | 2社 |
| 新設会社 | なし | あり | なし | あり | なし | あり | なし |
| 対価の形態 | 金銭・株式・社債等 | 金銭・株式・社債等 | 金銭・株式・社債等 | 金銭・株式・社債等 | 自由(金銭・株式・社債等) | 株式のみ | 株式のみ |
| 包括承継 | あり | あり | あり(分割部分) | あり(分割部分) | なし | なし | なし |
| 消滅会社 | 消滅会社あり | 既存会社すべて消滅 | 消滅会社なし | 消滅会社なし | 消滅会社なし | 消滅会社なし | 消滅会社なし |
| 権利義務の動き | 消滅会社から存続会社へ一括移転 | すべての既存会社から新設会社へ一括移転 | 分割部分が既存会社へ移転 | 分割部分が新設会社へ移転 | 支配権のみ移転(法人格独立) | 支配権のみ移転(法人格独立) | 支配権のみ移転(法人格独立) |
| 試験頻度 | 極高 | 中 | 高 | 中 | 中 | 低 | 低 |
覚え方のコツ:
- 金銭対価を含むか:合併・分割は「何でもOK」(金銭、株式、社債等)。株式交換も金銭・株式・社債等が対価として認められる。株式移転・株式交付は「株式のみ」に限定
- 理由:株式対価は株主地位の交換を意味する。金銭対価は金銭提供による支配権取得で、法的効果が異なる
- 注意:株式交換は会社法768条で金銭等も対価として認められる(現金対価株式交換も可能)
- 包括承継があるか:合併と分割は「権利義務ごと」自動移転。株式方式は「会社ごと」は子会社化(権利義務は子会社に留まる)
- 合併・分割→労働契約、許認可も自動で移る
- 株式交換・移転・交付→子会社の労働契約、許認可は変わらず。親会社の支配下に入るだけ
- 消滅する会社があるか:合併は消滅会社が生じる。分割は分割会社が残る。株式方式は会社は消滅しない(支配関係が変わるだけ)
- 新設会社が登場するか:新設合併と新設分割は新会社を立ち上げる。株式移転も新会社が必要。その他は既存会社の再編
事業譲渡:個別承継の構造
事業譲渡の定義とメカニズム
事業譲渡(sales of business) とは、会社が営んでいる「営業」(営業資産、営業取引、営業上の地位)を、個別に他の会社に譲り渡す行為です。
「営業」とは、単なる物理的な資産ではなく、営業活動を営む一体としての経済的地位を指します。飲食店の譲渡であれば、店舗・設備・在庫だけでなく、常連客との関係、従業員、仕入先との契約などが含まれます。
個別承継の本質
事業譲渡は 個別承継 という仕組みで行われます。これは、合併・分割の「包括承継」と対照的です。
個別承継とは:
- 譲渡される権利義務が「個別の契約」で一つ一つ移転される方式
- 自動で移るのではなく、譲受会社が「新規契約」として結び直す必要がある
- 譲渡会社の法人格は存在し続ける(消滅しない)
具体例:ラーメン店の営業を譲渡する場合
- 旧オーナーが所有していた店舗→新しい譲受会社名義で新規契約(これまでの契約は終了)
- 従業員との雇用契約→新しい譲受会社と個別に契約し直す
- 仕入先との買掛契約→従来の取引は終了、新しい会社と新規契約
なぜ個別承継が必要か
法律上、契約の相手方を変更するには、原則として新しい相手方との同意が必要です。これは「契約の自由」という民法の基本原則から来ています。事業譲渡は、この原則に従うため、「個別契約の新規締結」という方式を取るのです。
一方、合併・分割は法定の包括承継であり、法律が自動的に権利義務を移転させます。
株主総会特別決議の要件と判断基準
事業譲渡を行う場合、譲渡会社の株主総会で 特別決議(議決権の過半数以上が出席し、その2/3以上の同意)が必要です。
いつ必要か:全部譲渡と重要な一部譲渡
全部譲渡:
- 会社の全事業を譲渡する場合、常に特別決議が必要
- 理由:会社の存立そのものに関わる重要な決定であるため
重要な一部譲渡:
- 会社の一部の事業を譲渡する場合でも、その事業が「重要」であれば特別決議が必要
- 判断基準:「その事業が会社の経営の中で中核的な地位を占めているか」
判断の観点:
- 売上高に占める比率が大きいか
- 経営戦略上、その事業に経営資源が集中しているか
- 会社の利益の多くをその事業が生み出しているか
- 会社の事業の多様性を失わせるか
例:売上高の30%を占める事業の譲渡→重要と判断されやすい。5%未満の事業の譲渡→重要でないと判断される傾向がある。
債権者保護手続が不要な理由
事業譲渡では、債権者保護手続(官報公告・個別催告・異議申述期間)が不要です。
理由:
- 譲渡会社の法人格は存続する:会社は存続し続けるため、会社の債権者は変わらず譲渡会社に対する請求権を行使できる
- 個別承継のため、承継される債務が明確:すべての権利義務が一括で移るのではなく、個別の契約で何が移るかが決まるため、債権者にとって混乱がない
- 法定の保護手続が不要という判断:民法の一般ルール(契約の相手方変更に同意が必要)で十分保護されるという立法判断
ただし、実務上の配慮:
- 買い手が譲渡会社の一部の債務を引き継ぐ場合、債権者に通知・承諾をもらうことが慣行
- これは法的義務ではなく、信義則や商慣行による配慮
競業避止義務:事業譲渡の買い手を保護する規制
事業譲渡の買い手(譲受会社)が購入した営業価値を保護するため、譲渡会社には 競業避止義務 が課せられます。
競業避止義務の内容と期間
内容:
- 譲渡後、譲渡会社は、譲渡した事業と 同一の事業 を営むことが禁止される(会社法21条1項の条文上は「同一の事業」のみ)
- 同じ地域(譲渡した事業と同じ市町村および隣接する市町村)での営業が対象
期間:
- 20年間(会社法21条)
例:
- ラーメン店を譲渡→同じ地区でラーメン店(同一業種)を営むのはNG、焼肉店・カレー店(異業種)は可能
- 不動産仲介業を譲渡→同じ地域での不動産仲介はNG、不動産投資・管理業(異業種)は可能
目的と法的背景
- 買い手保護:買い手が営業価値を得たのに、売り手がすぐに競合事業を始めるのは不公正だから
- 投資回収の保障:買い手は「ノウハウ」「顧客関係」に代価を払っているため、それが失われないようにする必要がある
違反時の効果
競業避止義務に違反した場合、買い手は損害賠償を請求できます(民法709条)。また、不正の競争の目的をもって競業が行われる場合は、差止請求も可能です(会社法21条3項)。
労働契約と許認可:自動承継されない理由
事業譲渡では、以下のものが自動的には移転されません。
労働契約は個別の同意が必要
原則:
- 労働者個人との雇用契約は自動的には譲受会社に移転されない
- 譲受会社がすべての労働者と個別に新規契約を結ぶ必要がある
- 労働者の同意が必須(強制的に雇用を変更することはできない)
- 労働協約(労働組合との集団合意)も自動承継されない
なぜか:
- 雇用契約は、契約当事者の「人的な信頼関係」に基づく
- 従事者の変更を、当人の同意なしに強制することは許されない(労働法原則)
- 商法や会社法上の包括承継ルールは、労働契約には適用されない(労働法が優先)
実務的対応:
- 事業譲渡の前に、労働者に対して「新しい会社との契約に同意するか」を確認する
- ほとんどの場合、労働者は雇用を継続するために同意するが、同意しない労働者もいるかもしれない
- 同意しない労働者に対しては、譲渡会社が継続雇用する必要がある
許認可は新規申請が必要
原則:
- 許認可(飲食店営業許可、建設業許可、医療機関の認可など)は自動的には譲受会社に移転されない
- 譲受会社が改めて申請し、許可庁の許可を得る必要がある
なぜか:
- 許認可は、その会社の「経営能力や信頼性」を行政が判断した上で与えられるもの
- 新しい会社の経営体制、財務状況、適格性などを改めて審査する必要がある
- 旧会社が失格になったから許可が取り消されるかもしれず、自動承継は不適切
実務的な期間:
- 許認可の新規申請には時間がかかるため、事業譲渡前に申請をスタートするのが慣行
- 許可取得までの間、事業の継続性に影響が出る可能性がある
対比:組織再編では自動承継される
このことが、事業譲渡と組織再編(合併・分割)の 最大の違い です。
合併や分割の場合:
- 労働契約→自動で新しい会社に引き継がれる(労働者の同意不要)
- 許認可→自動で新しい会社に引き継がれる(再申請不要)
- 営業許可、各種免許なども権利義務一式が移転される
これが、事業譲渡より合併・分割を選ぶ理由の一つになります。
組織再編 vs 事業譲渡:大型比較表
| 項目 | 吸収合併 | 会社分割 | 株式交換 | 事業譲渡 |
|---|---|---|---|---|
| 何が移るのか | 消滅会社の全権利義務 | 分割会社の一部分 | 支配権のみ | 営業活動一体 |
| 承継方式 | 包括承継 | 包括承継(分割分) | 非承継(支配のみ) | 個別承継 |
| 効力発生日 | 効力発生日に一括自動 | 効力発生日に一括自動 | 効力発生日に一括自動 | 契約締結後、個別に進行 |
| 消滅する会社 | あり(消滅会社) | なし(分割会社は存続) | なし(子会社化) | なし(法人格は存続) |
| 労働契約 | 自動承継(労働者の同意不要) | 自動承継(労働者の同意不要) | 変わらず(子会社で維持) | 新規契約(労働者の同意必須) |
| 許認可 | 自動承継 | 自動承継 | 変わらず(子会社で維持) | 新規申請 |
| 取引契約 | 自動承継 | 自動承継(分割分) | 変わらず(子会社で維持) | 新規契約(相手方の同意必須) |
| 債権者保護手続 | あり(官報公告・個別催告・異議申述期間) | あり | あり | なし(法人格が存続) |
| 反対株主買取請求権 | あり | あり | あり | あり(全部譲渡のみ) |
| 簡易手続 | あり(対価が純資産1/5以下) | あり(対価が純資産1/5以下) | あり(対価が純資産1/5以下) | なし |
| 略式手続 | あり(90%以上保有) | あり(90%以上保有) | あり(90%以上保有) | なし |
| 対価の形態 | 自由(金銭・株式・社債等) | 自由(金銭・株式・社債等) | 株式のみ | 自由(金銭・株式等) |
| 株主総会決議 | 特別決議(両方) | 特別決議(両方) | 特別決議(両方) | 特別決議(全部・重要一部のみ) |
この表の読み方のコツ:
- 承継方式で「包括承継」か「個別承継」か決まる
- 包括承継→労働契約・許認可・契約が自動で移る
- 個別承継→全部新規契約。相手方や労働者の同意が必要
- 事業譲渡だけ「債権者保護手続がない」 → 法人格が存続するため
- 株式交換と事業譲渡は「対象が異なる」
- 株式交換→「会社の支配権」を買う(子会社の権利義務は子会社に留まる)
- 事業譲渡→「営業活動」を買う(個別に契約を新規締結する)
簡易手続と略式手続:手続の簡略化
簡易手続:対価の規模で判定
定義と趣旨
簡易手続 は、組織再編のうち、買い手(対価を支払う側)の負担が小さい場合に、買い手側の株主総会決議を不要にする仕組みです。
立法趣旨:
- 組織再編は通常、両当事者に株主総会決議が必要
- しかし、買い手にとって対価が小さい場合、株主の権利が大きく変動しない
- 株主総会という重い手続を要求する必要がないという判断から、手続を簡略化
適用要件
対価が存続会社(買い手)の純資産の1/5以下の場合:
- 対価 ≤ 存続会社の純資産 × 1/5
対価に含まれるもの:
- 金銭
- 株式
- 社債
- その他の財産上の価値
すべてを合計で評価します。
適用される場合の効果
- 存続会社(買い手)側の株主総会決議が不要
- 存続会社は取締役会決議のみで進められる
- 売り手側(消滅会社・分割会社等)の手続は変わらず、株主総会特別決議が必要
計算例
例1:簡易手続が適用される場合
存続会社Aの純資産:150億円 対価:25億円
計算:150億円 ÷ 5 = 30億円
対価25億円 < 30億円 → 簡易手続が適用される → A社の株主総会は不要
例2:簡易手続が適用されない場合
存続会社Bの純資産:100億円 対価:25億円
計算:100億円 ÷ 5 = 20億円
対価25億円 > 20億円 → 簡易手続は適用されない → B社の株主総会特別決議が必要
簡易手続が適用されない側
簡易手続は買い手側のみの軽減措置です。
- 売り手側(消滅会社・分割会社等):簡易手続は適用されず、常に株主総会特別決議が必要
- 理由:売り手にとっては、対価の規模に関わらず、会社の存亡や事業の一部喪失に関わる重要な決定であるため
略式手続:支配関係で判定
定義と趣旨
略式手続 は、親会社が既に子会社を完全にコントロールしている場合に、子会社側の株主総会決議を不要にする仕組みです。
立法趣旨:
- 親会社が90%以上の株式を保有していれば、少数株主の意思は経営判断に影響しない
- 少数株主の利益を保護するため買取請求権は残されるが、株主総会を開く形式的必要性は無いという判断
適用要件
親会社が子会社の株式の90%以上を保有していること
- 90%以上の基準は、法律上の「完全子会社化」の基準と一致
- 親会社が99%保有しても、89%保有でも基準は同じ(90%以上で適用)
適用される場合の効果
- 子会社側の株主総会決議が不要
- 子会社は取締役会決議のみで進められる
- 親会社側の手続は通常通り必要(簡易手続の対象外なら特別決議が必要)
- 少数株主には反対株主買取請求権は残される(手続簡略化は手続だけ)
具体例
例1:略式手続が適用される場合
親会社Cが子会社Dの株式100%を保有→90%以上 → 略式手続が適用される
吸収合併の手続:
- D側:株主総会不要(略式手続で簡略化)
- C側:対価の規模に応じて、簡易手続の対象か、特別決議が必要か判定
例2:略式手続が適用されない場合
親会社Eが子会社Fの株式80%を保有→90%未満 → 略式手続は適用されない
吸収合併の手続:
- F側:株主総会特別決議が必要(少数株主の利益保護のため)
- E側:対価の規模に応じて判定
簡易手続 vs 略式手続:判定ロジック
| 項目 | 簡易手続 | 略式手続 |
|---|---|---|
| 判定基準 | 対価の規模 | 支配関係 |
| 数値基準 | 純資産の1/5以下 | 90%以上の株式保有 |
| 適用される側 | 買い手(存続会社) | 売り手(子会社) |
| 判定順序 | 金額で判定(計算が必要) | 支配率で判定(比較が必要) |
| 適用例 | 「大手企業が小規模企業を買収」 | 「親会社が完全支配下の子会社を合併」 |
試験での判定法:
- 問題文に「対価○円」「純資産△円」が出ていたら→簡易手続を考える
- 問題文に「○%の株式を保有」「子会社」が出ていたら→略式手続を考える
反対株主の株式買取請求権:少数株主保護
制度の目的とメカニズム
反対株主買取請求権 とは、組織再編や事業譲渡に反対する株主が、会社に対して自分の株式を公正な価格で買い取るよう請求できる権利です。
立法目的:
- 株主総会で多数派の意思が決定されれば、会社の重要な決定は進む
- しかし少数派の株主は、事業価値が損なわれると考えても、その決定に従わざるを得ない
- この「支配の濫用」から少数株主を保護するため、買取請求権という「脱出ルート」を用意
仕組み:
- 少数株主は、組織再編に反対する場合、「株式を公正価格で会社に売却する」という方法で、その事業から脱出できる
- 会社側は、少数株主の反発を買収することで、組織再編を円滑に進められる
発生要件:対象となる行為
反対株主買取請求権が発生する場合は法定されている。以下のいずれかに該当する場合のみです。
対象となる行為
吸収合併:
- 消滅会社の反対株主→対象
- 存続会社の反対株主→対象
- 理由:消滅会社の株主は会社が消滅し、存続会社の株主は対価によって地位が変わるため
新設合併:
- すべての既存会社の反対株主→対象
- 理由:すべての会社が消滅し、新会社に統合されるため
会社分割(吸収分割・新設分割):
- 分割会社の反対株主→対象
- 承継会社(既存または新設)の反対株主→対象外
- 理由:分割会社の株主は事業の一部を失い、地位が変わる。承継会社の株主は新たに株主が加わるだけで、地位は基本的に変わらない
株式交換:
- 被交換会社(100%買収される側)の反対株主→対象
- 交換会社(買収する側)の反対株主→対象外
- 理由:被交換会社の株主は完全に入れ替わる。交換会社の株主は新しい子会社を得るだけで、地位は基本的に変わらない
株式移転:
- すべての既存会社の反対株主→対象
- 理由:すべての会社が新設会社の完全子会社化される
全部事業譲渡:
- 譲渡会社の反対株主→対象
- 理由:会社の全事業が失われ、事業価値が激減するため
対象にならない行為
株式交付:
- 被交付会社(子会社になる側)の株主:対象外(完全子会社化が不要であり、被交付会社の独立性が保持される)
- 株式交付親会社の反対株主:会社法816条の6で買取請求権あり(ただし簡易株式交付の場合を除く)
- 試験頻度が低い制度のため、「被交付会社の株主には買取請求権なし」という点を押さえれば十分
部分的事業譲渡(全部譲渡以外):
- 対象外
- 理由:会社の一部事業が移るが、会社の法人格は存続し、経営陣も残る。組織再編ほどの急激な変化ではないと判断
手続の流れ
ステップ1:事前通知
- 組織再編を実施する会社が、株主総会実施の2週間前までに 株主に対して、組織再編の内容と買取請求権があることを通知
- 通知がなければ、株主は買取請求権を行使できない
ステップ2:反対通知
- 株主が「反対する」旨を、株主総会までに会社に通知
- この通知がなければ、後の買取請求権は行使できない
ステップ3:株主総会決議
- 株主総会で組織再編の承認が決議される
- 反対票を投じた株主(または反対通知をした株主)が対象者となる
ステップ4:買取請求
- タイミング:効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(会社法785条3項)
- この期間内に買取請求書を会社に提出
ステップ5:価格決定
- 当事者協議:会社と株主が話し合いで買取価格を決定
- 協議不調の場合:効力発生日から30日以内に協議が調わない場合、その後30日以内に地方裁判所(商事非訟手続)に価格決定の申立てをする(会社法786条・868条)
買取価格の算定:「適正価格」の意味
価格決定の原則
買取価格は 株式の適正価格 で決定されます。
適正価格とは:
- 株主総会直前の市場価格(上場株式の場合)
- または専門家(株価評価士)による評価額(非上場株式の場合)
- 組織再編による「シナジー効果」や「企業価値の上昇」は反映されない
「適正価格」に反映されない要素
- 買い手が組織再編後に得られるシナジー(相乗効果)
- 事業統合による効率化
- 新規事業への進出による成長機会
理由:これらは買い手側が得る利益であって、少数株主が本来得るべき利益ではないから。適正価格は「組織再編がなかった場合の株式価値」に基づく
評価方法
上場企業の場合:
- 株主総会前の市場価格(直近数日間の平均が一般的)
非上場企業の場合:
- 純資産法:会社の純資産を株数で割った価格
- 利益法:将来利益を基に評価した価格
- 比較法:類似企業と比較した価格
- これらを総合的に判定
債権者保護手続:権利義務移転時の債権者への通知と保護
制度の目的
組織再編において、会社の権利義務が別の会社に移転される場合、債権者の利益を保護する必要があります。
保護が必要な理由:
- 組織再編により、債権者の「返済相手」「契約相手」が突然変わる可能性がある
- 新しい承継会社の経営が不安定であれば、債権回収が危ぶまれる
- 債権者は、この変化に対して異議を唱えたり、条件を交渉したりする機会を得る必要がある
対象となる組織再編
債権者保護手続が必要なのは、権利義務が他の会社に移転される場合です。
対象となる場合
吸収合併:
- 消滅会社の権利義務が存続会社に移る→消滅会社側で債権者保護手続が必要
- 存続会社の権利義務は存続会社に留まる→存続会社側では不要(消滅会社に吸収されるため)
新設合併:
- すべての既存会社の権利義務が新設会社に移る→すべての既存会社で債権者保護手続が必要
会社分割(吸収分割・新設分割):
- 分割会社の一部権利義務が承継会社に移る→分割会社で債権者保護手続が必要
- 承継会社(既存)では不要(新たに権利義務が加わるだけで、承継会社の権利義務は変わらない)
株式交換・株式移転:
- 被交換会社・被移転会社の権利義務は各会社に留まる(包括承継なし)
- しかし、被買収会社の債権者は、買収企業の経営下に入ることに不安を持つ可能性がある
- 保護の観点から、手続が必要とされる
対象にならない場合
事業譲渡:
- 譲渡会社の法人格は存続する→債権者は変わらず譲渡会社に請求できる
- 手続不要(ただし、実務上は買い手が一部債務を引き継ぐ場合、買い手から債権者への通知・承諾確認が行われる)
手続の内容:3つの段階
1. 官報公告
内容:
- 組織再編が行われることを公に告知する
- 異議申述期間(最低1ヶ月以上)を併せて公告
形式:
- 官報(国の機関誌)に掲載
- 電子公告を採用している会社でも、官報掲載が法定(官報廃止がない限り)
目的:
- 一般の債権者に対して、会社が組織再編を予定していることを知らせる
- 「知らなかった」という言い訳を封じる
2. 個別催告
内容:
- 会社が把握している債権者(金融機関、仕入先、従業員など)に対して、個別に通知を送付
対象:
- 「知れている債権者」→会社が名前や住所を知っている、または記録に残っている債権者
- 官報公告だけでは知り得ない情報を持つ債権者にも通知する必要がある
方法:
- 郵送、メール、電話などで個別に通知
目的:
- より確実に債権者に情報を伝える
3. 異議申述期間
期間:
- 最低1ヶ月以上
異議申述がなかった場合:
- 債権者は組織再編を「承認した」ものと見なされる
- 会社は手続を進めることができる
異議申述があった場合:
- 債権者は「組織再編に異議がある」という意思を表示
- 会社は、その債権者に対して、以下の対応が必要:
- 弁済:組織再編前に、その債務を完済する
- 担保提供:返済を担保する形式的な保証を付ける
事業譲渡で手続が不要な理由
事業譲渡では債権者保護手続が不要です。
理由1:法人格の存続
- 譲渡会社は存続し続けるため、会社の債権者は変わらず譲渡会社に請求権を行使できる
- 「返済相手」が変わらないので、債権者の利益が損なわれない
理由2:個別承継の明確性
- 事業譲渡は個別承継であり、「何が移り、何が移らないか」が明確
- 譲受会社が引き継いだ債務は限定的で、譲渡会社の全債務が移るわけではない
- 従って、どの債権者がどの会社に請求すべきかが明確化される
理由3:民法による十分な保護
- 契約の相手方変更には契約相手方の同意が必要という民法ルールで十分に保護される
- 法定の手続は不要という立法判断
株式交付(令和元年改正で新設)
定義と特徴
株式交付とは、会社Aが他社Bに対して、自社の株式を対価として交付し、Bを子会社化する行為です。
特徴:
- 株式交換に似ているが、Bが完全子会社になる必要がない
- つまり、Aは50%以上の株式を取得すれば足りる(支配権の取得)
- B会社の経営陣が変わらない場合も多い
対価:自社株式のみ(金銭不可)
株式交換との違い
| 項目 | 株式交換 | 株式交付 |
|---|---|---|
| 完全子会社化の要件 | 必須(100%取得) | 不要(50%以上で可) |
| 対価 | 自社株式 | 自社株式 |
| 相手会社の独立性 | 完全喪失 | 部分的に保持 |
| 包括承継 | なし | なし |
| 試験での出現頻度 | 中 | 低(新制度) |
実務的な位置づけ
株式交付は、**子会社化したいが、100%取得は不要(または相手の経営陣を残したい)**という場面で使われます。特にスタートアップ投資や、複数の親会社を持つ経営体制を目指す場合に活用されます。
試験で頻出の誤認パターン:初学者のつまずきと解き方
試験では、これらのパターンが繰り返し出題されます。初学者はここでつまずきやすいため、背景理解と対比学習が重要です。
つまずき1:「合併と分割、どう使い分ける?」
つまずきの原因
合併と分割は両者とも「包括承継」であり、権利義務が一括で移転されます。見た目の特徴が似ているため、初学者は「何が違うのか」を理解できずにいます。
背景にある違い:「会社の消滅」の有無
合併の本質:複数の会社が「融合」して一つになる
- 吸収合併では消滅会社が消滅する
- 新設合併では既存会社すべてが消滅する
- 「一体化」というイメージ
分割の本質:1社の事業を「分割」して別の会社に分け与える
- 分割会社は消滅しない(残される側もある)
- 分割された部分が新しい会社に移転する
- 「スピンオフ」というイメージ
区別のコツ:消滅する会社があるか
問題文を読んだら、まず「消滅する会社があるか」を確認します。
- 「Aが消滅してBに統合される」→合併(吸収合併)
- 「Aが分割され、一部がBに移る」→分割(Aは存続)
- 「複数の会社がすべて消滅して新会社に統合」→合併(新設合併)
試験問題での問われ方
- 正誤判定型:「分割では分割会社は消滅する」→誤り(分割会社は存続)
- 手続判定型:合併による消滅会社の場合の債権者保護手続、分割による分割会社の債権者保護手続(両方必要)
- 過去問例:R4第5問、R5第6問で、合併と分割の区別が出題
つまずき2:「株式交換と株式移転、見分けられない」
つまずきの原因
両者とも「株式を対価に完全子会社化する」という目的が同じであり、制度の名前も似ているため、初学者は条件の違いを見落とします。
背景にある違い:「新設会社」の有無と「対象会社数」
株式交換の構造:
- 既存の2社が関係
- 一方(親会社)が他方(子会社)の全株式を買収して完全子会社化
- 新設会社なし
株式移転の構造:
- 複数の既存会社が関係
- 新しく設立される持株会社が、すべての既存会社の全株式を買収
- 新設会社が設立される
区別のコツ:新設会社があるか
問題文を読んだら、「新設会社が登場するか」を確認します。
- 「AがBの全株式を100%取得」→株式交換(新会社なし)
- 「新設会社CがAとBの全株式を100%取得」→株式移転(新会社あり)
ビジュアルな理解
株式交換:A(親)が B(子)の 100% を買収
└─結果:B が A の完全子会社に
株式移転:新設 C が A と B の 100% を買収
└─結果:A と B が C の完全子会社に(持株会社構造)試験問題での問われ方
- 定義判定型:「株式移転では新設会社が設立される」→正しい
- 手続判定型:「株式交換では被交換会社の反対株主に買取請求権がある」→正しい
- 比較問題:「株式交換と株式移転の場合の手続の違いは何か」
つまずき3:「簡易手続と略式手続、どっちに該当する?」
つまずきの原因
両者とも「手続を簡略化する」という目的が同じであり、名前が似ていますが、判定基準が全く異なるため、初学者は混同しやすいです。
背景にある違い:判定基準
簡易手続:対価の規模で判定
- 「買い手の負担が小さいか」という観点
- 金銭的な計算で判定(純資産 × 1/5 と対価を比較)
略式手続:支配関係で判定
- 「親会社が既に完全にコントロールしているか」という観点
- 支配率の判定(90%以上保有)
区別のコツ:問題文の情報で判定
問題文に「対価○円」「純資産△円」が出ていたら→簡易手続を考える
計算:対価 ÷ 純資産 × 5 で判定
対価が純資産の1/5以下なら簡易手続が適用問題文に「子会社」「○%の株式を保有」が出ていたら→略式手続を考える
判定:90%以上保有しているか確認
90%以上なら略式手続が適用計算練習
例1:簡易手続の判定
- 親会社の純資産:200億円
- 対価:30億円
- 判定:200 ÷ 5 = 40億円。対価30 < 40 → 簡易手続が適用される
例2:略式手続の判定
- 親会社が子会社の株式を100%保有
- 判定:100% ≥ 90% → 略式手続が適用される
試験問題での問われ方
- 計算問題:純資産と対価が与えられて、簡易手続の適用判定
- 判定問題:「簡易手続と略式手続のどちらが適用されるか」
- 過去問例:R4第5問、R5第6問で、簡易手続の計算が出題
つまずき4:「事業譲渡で労働契約・許認可は移るのか」
つまずきの原因
「営業を譲渡する」という言葉から、営業に関わるすべてのもの(従業員、営業許可など)が自動で移ると直感的に考えてしまいます。
実際には、事業譲渡は「個別承継」であるため、合併・分割の「包括承継」とは異なります。この根本的な違いを理解していないため、初学者はつまずきます。
背景にある違い:承継方式
包括承継(合併・分割):
- 法律が自動的に権利義務を移転させる
- 労働契約、許認可、契約上の地位もすべて自動で移る
- 労働者の同意は不要、許認可の再申請も不要
個別承継(事業譲渡):
- 個別の契約で、何を移すか一つ一つ決める
- 労働者との個別同意が必須
- 許認可は新規申請が必要
- 旧契約者との新規契約が必要
問題文での見分け方
問題文で「労働契約が自動で移るか」と聞かれたら:
- 合併・分割の場合→移る(自動移転)
- 事業譲渡の場合→移らない(新規契約と同意が必要)
典型的な誤認と正解
誤認1:「事業譲渡で労働者も営業所有者と一緒に移る」 → 正解:労働者は個別に新しい会社と契約し直す必要がある
誤認2:「飲食営業を譲渡したら、営業許可も自動で移る」 → 正解:譲受会社が改めて営業許可を申請し直す必要がある
誤認3:「事業を丸ごと譲渡したら、すべての債務が譲受会社に移る」 → 正解:原則、譲渡会社に債務が残る。譲受会社が引き継ぐには、債権者の承認が必要
試験問題での問われ方
- 正誤判定型:「事業譲渡では労働契約が自動で移る」→誤り
- 手続判定型:「事業譲渡で従業員を新会社に配置転換するには」→労働者の個別同意が必須
- 比較問題:「合併と事業譲渡での労働契約の扱いの違い」
つまずき5:「反対株主買取請求権が付く場合・付かない場合が分からない」
つまずきの原因
「少数株主を保護するために買取請求権がある」という一般的な理解から、すべての組織再編に付くと過度に一般化してしまいます。
実際には、法定された場合のみ買取請求権が発生します。法律は、「保護の必要性」に基づいて、対象をしぼっています。
背景にある立法判断
買取請求権が付く場合:
- 株主の地位が大きく変わる(消滅、支配権が奪われる など)
- 「脱出ルート」を提供する必要がある
買取請求権が付かない場合:
- 株主の地位が基本的に変わらない
- または、新規性が低い制度と判断される
付く場合・付かない場合の一覧
買取請求権が付く場合:
- 吸収合併(消滅会社と存続会社の両方)
- 新設合併(すべての既存会社)
- 会社分割(分割会社)
- 株式交換(被交換会社の反対株主)
- 株式移転(すべての既存会社)
- 全部事業譲渡(譲渡会社)
買取請求権が付かない場合(被交付会社・部分譲渡の株主については):
- 株式交付の被交付会社の株主 → 完全子会社化が不要であり、被交付会社の独立性が保持されるため(なお、株式交付親会社の反対株主には会社法816条の6で買取請求権あり)
- 部分的事業譲渡 → 会社は存続し、一部事業の喪失程度であり、急激な変化ではないと判断
試験での判定法
問題文に「反対株主買取請求権の対象か」と聞かれたら:
- 株式交付か部分譲渡かを確認 → これなら「付かない」
- その他の組織再編か → 「付く」と判定
試験問題での問われ方
- 正誤判定型:「株式交付の被交付会社の株主には反対株主買取請求権が発生する」→誤り(株式交付親会社の株主には発生し得る)
- 判定問題:「全部事業譲渡の場合、反対株主の権利は」→買取請求権あり
- 過去問例:R6第8問で、株式併合と株式分割での買取請求権の有無を比較
試験問題を解くための4ステップ解法
組織再編と事業譲渡の問題は、毎回似たパターンで出題されます。以下の4ステップで論理的に解くと、外れにくくなります。
ステップ1:問題文の基本情報を整理する
問題文を読んだ直後に、以下を明確に確認します:
何が起こっているのか:
- 「A社がB社を買収する」「A社を分割する」など、行為の種類を特定
どういう対価か:
- 金銭なのか、株式なのか、株式+金銭の混合か
新設会社があるか:
- 新しく会社が設立されるか、既存会社のみで進むか
会社の消滅があるか:
- どの会社が消滅し、どの会社が存続するか
判定表
| 対価の形態 | 新設会社 | 消滅有無 | 推測される類型 |
|---|---|---|---|
| 金銭・株式・社債等 | なし | あり(消滅会社) | 吸収合併 |
| 金銭・株式・社債等 | あり | あり(既存会社すべて) | 新設合併 |
| 金銭・株式・社債等 | なし | なし(分割会社残存) | 吸収分割 |
| 金銭・株式・社債等 | あり | なし(分割会社残存) | 新設分割 |
| 株式のみ | なし | なし(完全子会社化) | 株式交換 |
| 株式のみ | あり | なし(全社が子会社化) | 株式移転 |
| 株式のみ | なし | なし(支配権取得) | 株式交付 |
| 金銭・株式等 | なし | なし(譲渡会社残存) | 事業譲渡 |
ステップ2:類型を特定したら、手続上の負担を計算する
類型が決まったら、以下の手続要件を確認します:
簡易手続が適用されるか
該当類型:吸収合併、吸収分割、株式交換のいずれか(吸収型のみ。新設合併・新設分割には適用なし)
判定方法:
対価 ≤ 存続会社の純資産 × 1/5 であれば簡易手続が適用効果:
- 買い手(存続会社)側の株主総会決議が不要
- 売り手側は常に必要
略式手続が適用されるか
該当類型:吸収合併、吸収分割、株式交換のいずれか(吸収型のみ。新設合併・新設分割には適用なし)
判定方法:
親会社が子会社の株式を90%以上保有していれば略式手続が適用効果:
- 子会社側の株主総会決議が不要
- 親会社側は通常通り必要
双方が該当する場合
- 簡易手続と略式手続は同時に適用可能
- 例:親会社が子会社の90%以上保有し、かつ対価が純資産の1/5以下なら、両方の条件を満たす
ステップ3:自動で移る権利義務を判定する
これが、事業譲渡と組織再編の最大の差です。
組織再編(合併・分割・株式交換・株式移転)の場合
包括承継の原則:法律が自動的に権利義務を移転させる
移るもの:
- 労働契約(労働者の同意不要)
- 許認可(再申請不要)
- 取引先との契約上の地位
- 会社の全資産・全債務
- 知的財産権、営業権など
結果:譲受会社は、スムーズに事業を継続できる
事業譲渡の場合
個別承継の原則:個別の契約で、何を移すか一つ一つ決める
移らないもの(新規契約が必須):
- 労働契約(労働者の個別同意が必須)
- 許認可(新規申請が必須)
- 取引先との契約(新規契約が必須)
- 債務(原則、譲渡会社に残る)
結果:譲受会社は、契約の相手方の同意を一つ一つ得る必要があり、時間と手間がかかる
ステップ4:「特別なルール」を適用する
反対株主買取請求権の対象か
対象となる場合:
- 吸収合併、新設合併、会社分割、株式交換、株式移転、全部事業譲渡
対象にならない場合:
- 株式交付(保護の必要性が低いと判断)
- 部分的事業譲渡(急激な変化ではないと判断)
債権者保護手続が必要か
必要な場合:
- 吸収合併(消滅会社)
- 新設合併(既存会社すべて)
- 会社分割(分割会社)
- 株式交換・株式移転(被買収会社側)
不要な場合:
- 事業譲渡(譲渡会社の法人格が存続するため)
競業避止義務が発生するか
発生する場合:事業譲渡のみ
- 期間:20年間
- 範囲:同一・隣接業種
- 地域:同じ市町村および隣接市町村
発生しない場合:組織再編(合併・分割・株式交換等)
実践例:過去問類似問題の解き方
問題例: 「X社とY社が吸収合併を実施する。X社の純資産が300億円、Y社からの対価が50億円の場合、X社の株主総会決議は必要か。また、Y社の従業員はどうなるか。」
解き方:
- ステップ1:吸収合併(既存会社、消滅会社あり)を特定
- ステップ2:簡易手続の判定 → 50億 < 300/5(60億)→ 簡易手適用 → X社の株主総会不要
- ステップ3:Y社の従業員の労働契約は自動で移る(包括承継)
- ステップ4:反対株主買取請求権は両方に発生。債権者保護手続も必要
確認問題:学習理解度チェック
これらの問題は、過去問や診断士試験で何度も出題されたパターンです。「なぜそうなるのか」まで理解できているか確認してください。
確認問題1:合併 vs 分割の区別
問題:A社は「ラーメン事業」(利益率高)と「弁当事業」(利益率低)を営んでいます。ラーメン事業をB社に移し、弁当事業はA社に残す場合、どの手段を使うべきか、そしてそれぞれの手段の結果はどうか。
- 事業譲渡により、ラーメン事業をB社に移す
- 会社分割により、ラーメン事業をB社に移す
- 合併により、ラーメン事業をB社に移す
- A社が消滅する
解答:1番と2番が正しい。
理由:
- 1番(事業譲渡):個別承継だが、目的の「事業を移す」は実現可能。ただし労働者と許認可の再契約・再申請が必要
- 2番(会社分割):吸収分割を使えば、ラーメン事業部分をB社に承継させ、A社は弁当事業を残す。包括承継だから労働者も自動で移る
- 3番(合併):×誤り。吸収合併ではAまたはBが消滅し、すべての事業が一方に統合される。「事業を分割して一方に残す」という目的に合わない
- 4番(A社消滅):×誤り。分割では分割会社(A社)は存続し、一部事業が分割される
試験での問われ方:「以下の記述のうち正しいものはいくつあるか」という複数選択問題で、合併と分割の違いを理解しているか確認される
確認問題2:簡易手続の計算と判定
問題:存続会社Cの純資産が150億円、買収対象のD社への対価が25億円とします。Cの株主総会特別決議は必要か。また、D社の株主総会特別決議は必要か。
計算プロセス:
ステップ1:簡易手続の適用要件を確認
├─ 対価 ≤ 純資産 × 1/5 か?
└─ 25億円 ≤ 150億円 ÷ 5 = 30億円 か?
ステップ2:判定
├─ YES → 簡易手続が適用される
└─ C社の株主総会は不要(取締役会決議で足りる)
ステップ3:D社の手続は?
└─ 簡易手続は買い手側のみの軽減 → D社は常に株主総会特別決議が必要答え:
- C社(存続会社・買い手):株主総会特別決議は不要(簡易手続適用)
- D社(消滅会社・売り手):株主総会特別決議は必要
補足:対価が30億円以上の場合
25億円 > 30億円 は誤り
但し対価が35億円の場合:35 > 30 → 簡易手続は適用されず
→ C社の株主総会特別決議が必要試験での問われ方:「以下の手続のうち、不要なものはどれか」という選択肢で、簡易手続の計算を試される
確認問題3:株式交換 vs 事業譲渡での権利義務の移転
問題:E社がF社を子会社化する場合、以下の2つのシナリオで、労働契約・許認可・取引先との契約がどうなるか。
シナリオA:E社がF社の全株式を取得して完全子会社化する(株式交換) シナリオB:E社がF社の「飲食営業」をすべて譲渡してもらう(全部事業譲渡)
各シナリオで、以下は自動で移るか、新規契約が必要か。
- F社の従業員の雇用契約
- F社の飲食営業許可
- F社の仕入先との買掛契約
- F社の借入金(銀行からの融資)
解答:
シナリオA(株式交換):
- 1〜4番すべて自動で移る(子会社の権利義務は子会社に留まる)
- 実務的には、E社はF社を子会社化するが、F社の組織・労働者・契約は変わらない
シナリオB(全部事業譲渡):
- 1番(労働契約):移らない。F社の労働者とE社が新規契約を結ぶ必要あり。労働者の同意が必須
- 2番(許認可):移らない。E社が飲食営業許可を改めて申請し直す必要あり
- 3番(買掛契約):移らない。E社が仕入先と新規契約を結び直す必要あり(仕入先の同意が必須)
- 4番(借入金):原則、F社に残る。E社が引き継ぐには、銀行の承認が必要
試験での問われ方:
- 「事業譲渡で労働契約が自動で移る」→×誤り
- 「合併と事業譲渡での労働契約の扱いの違いは」→比較問題として問われる
- 「許認可を譲受会社が承継する場合の方法は」→新規申請と答える
実務的な学び:合併よりも事業譲渡を選ぶと「手間」がかかるため、労働者が多い事業や許認可が複雑な事業では、合併・分割の方が効率的
確認問題4:反対株主買取請求権の対象判定
問題:以下の各シナリオで、反対株主買取請求権が発生するか否かを判定し、その理由を述べよ。
- G社がH社の全株式を取得して完全子会社化する(株式交換)
- I社とJ社が経営統合するために、新設会社がI社とJ社の全株式を取得する(株式移転)
- K社が新しくL社と合併する(吸収合併)
- M社がN社の「一部事業」を譲り受ける(部分事業譲渡)
- O社がP社に対して、自社株式を対価として、P社の50%以上の株式を取得する(株式交付)
解答:
| シナリオ | 反対株主買取請求権 | 理由 |
|---|---|---|
| 1(株式交換) | あり | 被交換会社の株主は100%入れ替わるため、保護が必要 |
| 2(株式移転) | あり | 既存会社が新設会社の完全子会社化されるため、保護が必要 |
| 3(吸収合併) | あり | 消滅会社の株主は地位を失い、存続会社の株主も対価が変わるため |
| 4(部分譲渡) | なし | 会社は存続し、一部事業の喪失程度。急激な変化ではないと判断 |
| 5(株式交付) | なし(被交付会社P社の株主については) | 完全子会社化が不要であり、P社の独立性が保持される。なお、株式交付親会社O社の反対株主には会社法816条の6で買取請求権あり |
試験での出題パターン:
- 「株式交付の被交付会社の株主には反対株主買取請求権が発生する」→×誤り
- 「全部事業譲渡の場合、反対株主の権利は何か」→買取請求権ありと答える
- 複数のシナリオを提示して、「買取請求権が発生する場合はいくつか」という個数問題
覚え方のコツ:「被交付会社(子会社になる側)の株主」と「部分譲渡の株主」の2つには買取請求権がない
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