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株式と株主

株式の基本原則から種類株式9種類、自己株式、譲渡制限株式、株主の権利、少数株主権、株主代表訴訟まで、試験頻出論点を教材型で完全網羅

このページの役割

株式と株主は会社法の中核分野です。このページでは「株式とは何か」という基本原則から、9種類の種類株式、自己株式、譲渡制限株式の複雑な承認手続、そして株主が行使できる様々な権利まで、試験に出題される全論点を体系的に整理します。

各論点について「定義」「なぜそうなっているのか(メカニズム)」「具体例」「つまずきやすい点」を順序立てて解説することで、単なる条文暗記ではなく、試験で応用できる理解を目指します。


学習のポイント

  1. 株式の5つの基本原則 — 平等・有限責任・自由譲渡・一株一議決権・株券不発行が「デフォルト」であり、これら以外は種類株式で「例外設定」することを理解する
  2. 公開会社 vs 非公開会社 — 譲渡制限の有無で区分されることと、公開会社での厳しい種類株式規制を押さえる
  3. 9種類の種類株式の分類 — 「差をつける対象」(配当・残余財産・議決権など)と「制約をつける方法」(請求権・条項・拒否権など)で体系的に理解する
  4. 自己株式 — 取得方法・財源規制・権利内容・処分方法の4つの視点で統合的に把握する
  5. 株式の変動(併合・分割・無償割当) — 決議要件と買取請求権の有無を対比させて正確に区別する
  6. 譲渡制限株式の手続 — 2週間・40日・10日という「期間」と「みなし承認」が頻出ポイント
  7. 株主の権利体系 — 自益権と共益権、単独株主権と少数株主権(3%・10%)を分類で整理する
  8. 株主代表訴訟 — 提訴請求→60日待機→代表訴訟という「順序」と「60日の意義」が試験のコア

試験で何が問われるか

  • 株式の基本原則を説明できるか(平等・有限責任・自由譲渡・一株一議決権のそれぞれの意味)
  • 種類株式の名称と「差をつける対象」を正確に対応させられるか(例:配当優先株式=配当に差、議決権制限株式≠配当に差)
  • 公開会社での議決権制限株式の「2分の1以下」制限を把握しているか
  • 譲渡制限株式の承認手続で「2週間」「40日」「10日」「みなし承認」を正確に操作できるか
  • 株主の権利を「自益権 vs 共益権」「単独株主権 vs 少数株主権」で分類できるか
  • 少数株主権の保有比率を正確に述べられるか(帳簿閲覧・総会招集・役員解任=3%、解散請求=10%)
  • 株主代表訴訟の提訴請求→60日→代表訴訟の流れを説明できるか

セクション1:株式の基本原則と公開会社の区分

1-1 株式の5つの基本原則

株式は会社法において次の5つの基本原則に基づいて設計されています。重要なのは、これらはあくまで「デフォルト」であり、会社は種類株式を通じてこれらの原則に「例外を付加する」ことができるということです。

原則1:株式平等の原則

同じ種類の株式は、すべて同じ権利内容を持ちます。例えば100株の普通株式を持つ株主と50株の普通株式を持つ株主は、一株当たりの配当額、残余財産分配額、議決権数が完全に同じです。

この原則がある理由は、「株主の公平性」を守るためです。仮に同じ種類の株式でも個々の株主によって権利が異なれば、一部の株主だけが得をするなど、不公正が生まれるからです。

原則2:株主有限責任

株主の責任は、その出資額に限定されます。例えば100万円を出資した株主が対象になった場合、その責任は100万円が上限であり、個人資産の差押えなどは起こりません。これは株式会社の最大の特徴であり、株式会社が多くの投資家から資金を集められる理由です。

原則3:株式自由譲渡の原則

株主は、自分の意思で自由に他の者に株式を譲渡できます。これにより株式の流動性が確保され、投資家は必要に応じて株式を売却して現金に換えられます。

ただし重要な例外があります。会社は定款で「譲渡に会社の承認が必要」と定め、譲渡制限株式を設定できます。これは特に非公開会社で、経営権の外部流出を防ぐために使われます。

原則4:一株一議決権の原則

1株=1議決権です。株主は株主総会で、保有株式数に応じた議決権を行使できます。この原則により「1株主=1票」の民主的な意思決定が実現されます。

ただし、議決権制限株式や自己株式など、例外があります。

原則5:株券不発行の原則

現代の会社法では「株券を発行しない」がデフォルトです。全ての株式は電子的に管理されます。株券を発行する場合は、定款に明記する必要があります(相当レアケース)。

1-2 公開会社と非公開会社の区分

定義

会社法は「譲渡制限の有無」で会社を2つのカテゴリーに分けます。

  • 公開会社:発行株式のうち「一部でも」譲渡制限がない株式がある会社
  • 非公開会社:発行株式の「全部が」譲渡制限株式である会社

具体例で考えるとわかりやすいです。もし会社が「普通株式は譲渡制限なし、優先株式は譲渡制限あり」と定款に定めたなら、その会社は「一部でも譲渡制限がない」ので「公開会社」になります。

なぜこの区分が重要か

公開会社には「厳しい種類株式規制」が課せられます。これは、譲渡制限がない株式がある=株式が市場で自由に取引される可能性がある=外部の投資家が増える可能性がある、という背景があるからです。外部投資家の保護と、買収防衛策の濫用防止のために、公開会社では種類株式に制限が付けられるわけです。

公開会社への規制

公開会社では、次の2つの重要な規制が適用されます:

  1. 議決権制限株式の発行数制限(会社法115条):議決権制限株式の数が発行済株式総数の「2分の1」を超えるに至ったときは、直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならない。例えば、発行済み普通株式が1000株ある会社が議決権制限株式を発行する場合、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1以下になるよう管理する必要があります。
  2. 役員選任権付株式の発行禁止(会社法108条1項後段):公開会社および指名委員会等設置会社は、種類株主総会で取締役・監査役を選任できる役員選任権付株式(第9号)を発行することができません。これは、公開会社での特定株主による支配権の固定化を防ぐためです。

上場会社 vs 公開会社の違い

混同しやすい概念です。整理します:

観点公開会社上場会社
定義一部でも譲渡制限がない金融商品取引所に上場している
根拠法会社法2条5号会社法 + 金融商品取引法
譲渡制限が一部のみ外された未上場企業東証、大証などに上場している企業
規制内容種類株式の設定に制限情報開示、コーポレート・ガバナンス

重要な点:上場会社はほぼ全て公開会社ですが、公開会社が全て上場しているわけではありません。


セクション2:種類株式の全体像と9つの分類

2-1 種類株式とは何か

種類株式とは、配当、残余財産分配、議決権などの「内容が異なる複数種類の株式」を発行する仕組みです。会社法108条で「9種類の内容の異なる株式」が明示的に列挙されています。

なぜ種類株式が必要か

例えば、ベンチャー企業が資金調達をするとします。初期投資家には「配当を優先してほしい」という要望があり、創業者には「経営権(議決権)は失いたくない」という要望があります。両方の要望を満たすには、「配当優先株式(投資家向け)」と「普通株式(創業者向け)」の2種類を発行する必要があります。

このように、異なるステークホルダーのニーズを満たしながら資金調達や経営権の設計をするために、種類株式が活用されます。

2-2 種類株式の9つの分類

会社法108条に列挙されている9種類を、「差をつける対象」で分類すると理解しやすいです。

対象種類株式の名称
配当に差をつける①配当優先株式・配当劣後株式
残余財産分配に差をつける②残余財産分配優先株式・残余財産分配劣後株式
議決権に差をつける③議決権制限株式
譲渡に条件をつける④譲渡制限株式
株主の取得請求権⑤取得請求権付株式
会社の取得条件⑥取得条項付株式、⑦全部取得条項付株式
経営判断への拒否権⑧拒否権付株式(黄金株)
役員選任権⑨役員選任権付株式

セクション3:9つの種類株式の詳細と公開会社での制限

3-1 配当に関する種類株式(①②)

配当優先株式

配当の金額に差をつけた株式です。例えば「普通株式は1株当たり50円配当、配当優先株式は1株当たり100円配当」のように設定します。

  • 用途:投資家から資金調達する際に「配当を優先的に受け取ることができる」という保証を与えることで、投資を引きつける
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 公開会社での制限:なし(配当に関する種類株式は、公開会社でも設定可能)
  • 具体例:ベンチャー企業が優先株式投資家から1000万円を調達する際に「毎年5%の配当を優先的に受け取る権利」を約束

残余財産分配優先株式

会社が解散したときの「残余財産の分配」に差をつけた株式です。例えば「配当優先株式の株主から先に資産を返す」と定めます。

  • 用途:投資家が「万が一会社が潰れた場合、自分の出資金を優先的に回収したい」という要望に応える
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 公開会社での制限:なし

3-2 議決権に関する種類株式(③)

議決権制限株式

議決権の数を制限または排除した株式です。例えば「普通株式は1株1議決権だが、議決権制限株式は1株0.5議決権」のように設定することもできます。議決権がゼロの株式(完全に議決権がない)も含まれます。

  • 用途:創業者が資金調達の際に「経営権を守りたい」というニーズと、投資家が「配当による利益は欲しいが経営判断に口を出したくない」というニーズの両立
  • 具体例:創業者が普通株式1000株を持つ一方で、投資家が議決権制限株式(配当優先)を買収後の株式比率は50:50でも、議決権比率は70:30のままにする、など
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 公開会社での厳しい制限(会社法115条):議決権制限株式の数が発行済株式総数の「2分の1」を超えるに至ったときは、直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならない。例えば発行済株式総数が1000株の会社では、議決権制限株式の数は最大500株以下になるよう管理する必要があります。

3-3 譲渡に関する種類株式(④)

譲渡制限株式

株主が他の者に譲渡する際に「会社の承認」が必要な株式です。詳しくは「セクション4:譲渡制限株式の手続」で解説します。

  • 用途:非公開会社での経営権保護、家族経営での外部への流出防止
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 重要:公開会社では「一部でも譲渡制限がない株式がある」ので、通常は全株式を譲渡制限株式にすることはできません(できれば公開会社ではなくなる)

3-4 株主からの請求権(⑤)と会社からの取得権(⑥⑦)

ここが試験では最も混同しやすい部分です。「誰が主動か」で整理します。

取得請求権付株式(⑤)

「株主が会社に『この株式を買い取ってください』と請求できる権利」がついた株式です。主動権は「株主側」にあります。

  • 用途:ベンチャー投資家に「一定期間後に会社から回収できる」という保証を与える
  • 具体例:「2026年3月末までに上場できなければ、1株500円で買い取ってもらえる」という条項
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 公開会社での制限:なし(公開会社でも設定可能)

取得条項付株式(⑥)

「会社が『一定の条件が起きたら、この株式を取得する』という条項」がついた株式です。主動権は「会社側」にあります。

  • 用途:投資家向けの優先株式を上場後に普通株式に転換したり、退職役員から株式を強制取得する場合など
  • 具体例:「上場から3年後に、会社が1株500円で買い取ることができる」
  • 決議要件:定款変更(特別決議)
  • 公開会社での制限:なし(公開会社でも設定可能)

全部取得条項付株式(⑦)

「会社が『株主総会の特別決議で、全ての株式を取得する』という条項」がついた株式です。取得条項付の強化版です。

  • 用途:親会社が子会社を完全支配下に置くため、少数株主からの全株式を強制取得する場合
  • 具体例:「親会社が子会社の全普通株式を、株主総会決議に基づいて1株500円で買い取る」
  • 決議要件:定款変更(特別決議)+ 取得前の株主総会で特別決議
  • 公開会社での制限:なし(公開会社でも設定・取得ともに可能。上場会社でも少数株主排除の手段として利用される)

取得請求権付 vs 取得条項付の対比

観点取得請求権付取得条項付
誰が主動か株主が請求会社が主動
どの段階で実行されるか株主が選択したとき定款で定めた条件が成就したとき
リスク負担株主側が有利(買い戻し権あり)会社側が有利(任意に取得)
公開会社設定可能設定可能

3-5 経営判断への関与(⑧⑨)

拒否権付株式(黄金株)(⑧)

特定の事項に対して「拒否権」を行使できる株式です。例えば「新規事業の開始」「定款変更」「重要な資産売却」などを「対象事項」と定め、拒否権付株式の株主が反対すれば、その事項は実行されません。

  • 用途:買収防衛。例えば買収者が株式の過半数を取得した場合、既存経営陣が拒否権付株式を持っていれば「買収者の経営方針を拒否できる」
  • 決議要件:定款変更(特別決議)で拒否権の対象事項を明記
  • 実務的な注意:拒否権が強すぎると会社経営が硬直化するため、慎重な設計が必要

役員選任権付株式(⑨)

特定の役員(例:社外監査役)を、その株式の株主が選任できる権利がついた株式です。

  • 用途:投資家に「監視機能を持つ役員を会社に送り込める」という権利を保証する
  • 決議要件:定款変更(特別決議)で選任対象の役員と権限を明記

セクション4:自己株式(金庫株)

4-1 自己株式とは

自己株式(金庫株)とは、会社が自らの株式を取得・保有している状態です。例えば、ある会社が自分の株式を市場で買い戻して保有するシーンです。

なぜ自己株式を取得するのか

主な理由は3つあります:

  1. 株価対策:市場が低迷しているときに、会社が株式を買い戻すことで株価を支えることができます。
  2. 資本政策:従業員ストック・オプション計画の実行や、M&Aの対価として株式を使用する準備。
  3. 経営権の安定化:敵対的買収に対抗するため、自社株式を保有することで発行済株式数に対する持分を高める。

4-2 自己株式の4つの特徴

特徴1:取得財源の規制

会社が自己株式を取得するためのお金は「分配可能額」の範囲内に限定されます。これは会社が債権者の利益を害しないようにするための保護規制です。単純に言えば「会社の利益から自由に使える額」という意味です。

特徴2:議決権がない

自己株式は「議決権を持ちません」。これは合理的です。もし自己株式に議決権があれば、会社自身が株主総会で投票できることになり、経営陣が自分たちに都合の良い決議を強行することが可能になるからです。

特徴3:配当請求権もない

自己株式の保有者は自分たち(会社)なので、配当を支払う必要もありません。

特徴4:処分方法

自己株式を取得した後、会社は2つの選択肢があります:

  1. 消却:株式を消滅させる。発行済株式数が減少します。
  2. 処分:第三者に売却して、現金に換える。

セクション5:株式の変動(併合・分割・無償割当)

株式の併合・分割・無償割当は、決議要件と買取請求権の有無で頻出です。ここでは「なぜ異なるのか」というメカニズムから理解します。

5-1 株式の併合

定義と仕組み

複数の株式を1つに統合する手続です。例えば「2株を1株に併合する」という設定です。

なぜ決議要件が異なるのか

株式の併合は「株主の権利内容を変える」ため、慎重な判断が必要です。例えば、100株を保有していた株主が「2株を1株に併合」されると50株になり、議決権が半分になります。この変化は株主にとって不利益なため、特別決議(高いハードル)が必要とされています。

さらに、併合による「端数」が生じることもあります。例えば「3株を1株に併合」する場合、98株を保有していた株主は「32株+2株の端数」となり、端数は消滅します。その結果、株主が株主の地位を失うこともあります。

決議要件と買取請求権

  • 決議要件:株主総会の特別決議(会社法309条2項4号)
  • 買取請求権:あり。反対株主は会社に株式の買取りを請求できます(会社法116条)

5-2 株式の分割

定義と仕組み

1つの株式を複数に分割する手続です。例えば「1株を10株に分割する」という設定です。

なぜ決議要件が異なるのか

株式の分割は「株主の権利内容を変えない」という点が重要です。1株を10株に分割されたとしても、全体の議決権の総数は変わりません。例えば、100株を保有していた株主が分割後に1000株を保有しても、全議決権に占める割合は全く変わらないのです。

つまり「株主に不利益がない」ため、低いハードル(取締役会決議)で足ります。

決議要件と買取請求権

  • 決議要件:取締役会決議のみ(会社法183条)
  • 買取請求権:なし。理由は「株主に不利益がないから」

5-3 株式の無償割当

定義と仕組み

既存の株主に対して、その保有比率に応じて新株を無償で付与する手続です。例えば「1株保有者に対して10株を無償で配分」という設定で、その結果保有比率は変わりません。

これは旧来の「株式配当」と呼ばれていた仕組みです。

なぜ決議要件が分割と同じか

分割と同じく、保有比率が変わらないため「株主に不利益がない」。したがって取締役会決議で足ります。

決議要件と買取請求権

  • 決議要件:取締役会決議のみ
  • 買取請求権:なし

5-4 3つの変動の比較表

項目株式併合株式分割無償割当
方向複数→11→複数既存保有比に応じて付与
決議要件特別決議取締役会決議取締役会決議
買取請求権ありなしなし
権利内容の変化あり(比率が上がる)なし(権利は薄まらない)なし(保有比率不変)
実務的用途株価調整、資本再編上場準備、流動性向上配当の代わり、資本政策

セクション6:譲渡制限株式の譲渡承認手続

譲渡制限株式の手続は、試験でも毎年のように出題されます。重要なのは「期間」「みなし承認」「買取り」の3つのセットです。

6-1 譲渡制限株式とは

譲渡制限株式は、株主が他の者に譲渡する際に「会社の承認」を得なければならない株式です。

なぜ必要か

非公開会社では、経営陣が限定された人物のみで構成されていることが多いです。もし誰でも自由に株式を譲渡できれば、突然「見知らぬ投資家が株主になった」という事態が起こり得ます。これを防ぐため、譲渡制限株式が活用されます。

実際、非公開会社の多くは「全株式を譲渡制限株式」に設定しており、これが非公開会社の定義そのものです。

6-2 譲渡承認の手続フロー

ステップ1:承認請求

株主が「〇〇さんにこの株式を譲渡したい」と書面で会社に請求します。通常は会社の取締役会に請求します。

ステップ2:承認機関の判断

  • 取締役会設置会社の場合:取締役会が「承認するか、しないか」を決議します
  • 取締役会を置かない会社の場合:株主総会で判断します(定款で別段の定めも可)

ステップ3:重要な通知期間(2週間)

会社は「請求日から2週間以内に」株主に対して「承認するか、しないか」を通知しなければなりません(会社法139条2項)。

この2週間が超過すると、みなし承認が発生します。つまり会社が2週間以内に通知しなければ「自動的に承認した」とみなされます。この制度は「会社側の放置を防ぐ」ための制度です。

ステップ4:承認の場合

通知により、譲渡が有効に成立します。譲受人が新しい株主として登録されます。

ステップ5:不承認の場合

ここから複雑になります。会社が「不承認」を通知した場合、会社には「2つの対応義務」が生じます:

対応1:会社が買い取る(会社法140条1項・145条2号)

  • 会社が「当社が買い取ります」と通知した場合
  • 決議要件:株主総会の特別決議で買取り条件を決める
  • 期間:不承認通知から「40日以内」に株式を取得しなければならない
  • 買取価格:定款で定めたものがあればその価格。なければ当事者協議で決定

対応2:指定買取人に買い取らせる(会社法140条4項・145条2号)

  • 会社が「この者に買い取らせます」と指定した場合(例:他の株主、外部の投資家)
  • 決議要件:取締役会決議で買取人を指定
  • 期間:不承認通知から「10日以内」に売却しなければならない
  • 効果:株主の株式は指定買取人に移転

6-3 みなし承認の重要性

仕組み

会社が譲渡承認請求を受けた後、2週間以内に通知しない場合、自動的に「承認した」とみなされます(会社法145条1号)。

実務的な意味

  • 会社側の「意図的な放置」を防止する
  • 株主の権利を守る制度
  • 会社が不承認予定なら、確実に期間内に通知する必要がある

6-4 買取価格の決定

譲渡不承認後、買取価格が問題になります。

価格決定の優先順位

  1. 定款に定めた価格:「譲渡不承認時の買取価格は1株◯◯円」と定款で定めてあれば、その価格
  2. 当事者の協議:定款に定めなければ、会社と株主が話し合いで決定
  3. 裁判所への価格決定申立て:協議が整わなければ、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができる(会社法144条)

実務的な工夫

買取価格の紛争を避けるため、非公開会社では「買取価格は直近決算期の純資産を発行済み株式数で除した額(1株当たり簿価純資産)」といった算定方法を定款に明記することが多いです。

6-5 期間の整理表

譲渡制限株式の手続で出題される「期間」は、次の3つです。これは頻出です:

対象期間内容
通知期間2週間会社が「承認 or 不承認」を株主に通知する期限。超過でみなし承認
会社買取り期間40日不承認後、会社が買い取る場合の取得期限
指定買取人買取り期間10日不承認後、指定買取人が買い取る場合の売却期限

セクション7:株主の権利体系

株主の権利は「何を目的とするか」で大きく2つに分けられます。この分類が理解の鍵です。

7-1 自益権と共益権の区分

自益権(じえきけん)

会社から「直接的な経済的利益」を受ける権利です。配当金がもらえる、会社が解散した時に資産がもらえる、など。

典型的な自益権:

  • 配当請求権(定款で定められた配当を受け取る権利)
  • 残余財産分配請求権(会社が解散した時に、その資産を受け取る権利)

共益権(きょうえきけん)

会社の「経営に関与・監視する権利」です。議決権で経営判断に投票する、役員を選任する、帳簿を閲覧して不正がないか確認する、など。

典型的な共益権:

  • 議決権(株主総会で投票する権利)
  • 役員選任・解任権
  • 帳簿閲覧請求権
  • 議案提案権

7-2 単独株主権と少数株主権

単独株主権(たんどくかぶぬしけん)

1株でも保有していれば行使できる権利です。例えば、1株だけ保有している小株主でも、議決権は1票持っています。

  • 議決権
  • 配当請求権
  • 剰余金請求権

少数株主権(しょうすうかぶぬしけん)

発行済み株式の「一定割合以上」を保有する株主のみが行使できる権利です。会社法では「3%」と「10%」の2つの閾値が設定されています。

この制度の背景:少数株主が1株だけで「帳簿を見る権利」「総会を開く権利」「役員を解任する権利」を持つと、会社経営が混乱する可能性があります。そこで「一定以上の株式を保有した株主」に限定しているわけです。

7-3 3%以上の保有で行使できる少数株主権

帳簿閲覧請求権(会社法433条)

  • 内容:会社の帳簿、会計書類、重要な経営情報を閲覧・謄写する権利
  • 目的:自分の投資判断の材料を得る、不正が行われていないか確認する
  • 行使要件:3%以上の株式保有(保有期間の制限はない)
  • 除外:営業秘密や競業避止に関する情報は除外される可能性あり

株主総会招集請求権(会社法297条)

  • 内容:会社に対して「株主総会を開催してほしい」と請求できる権利
  • 目的:経営陣の方針に対して意見を述べたい、重要な決定に投票したい機会を得る
  • 行使要件:3%以上の株式保有、または株主300人以上
  • 手続:書面で請求。会社は「指定期日から8週間以内に招集」しなければならない

役員解任請求権(会社法854条)

  • 内容:無能な取締役や監査役の解任を株主総会で議論してほしいと請求できる権利
  • 目的:不適切な経営陣を交代させたい
  • 行使要件:3%以上の株式保有
  • 手続:書面で請求。会社は「請求から8週間以内に株主総会を招集し、議案として提出」しなければならない

7-4 10%以上の保有で行使できる少数株主権

会社解散請求権(会社法833条1項)

  • 内容:会社の解散を裁判所に請求できる権利
  • 目的:重大な経営方針の対立がある場合など、最終的に会社を解散させることができる
  • 行使要件:10%以上の株式保有
  • 手続:書面で請求後、裁判所に訴訟を提起

この権利は「最終兵器」です。経営陣との対立が解決不可能な場合、少数株主は会社の存続そのものに異議を唱えることができます。

7-5 少数株主権の比較表

保有比率権利対象用途
1株以上議決権会社運営全般経営判断への投票
1株以上配当請求権利益配分配当金の受け取り
3%以上帳簿閲覧権経営情報投資判断、監視
3%以上総会招集請求権総会開催意見表明・投票機会
3%以上役員解任請求権経営陣経営陣交代
10%以上解散請求権会社存続最終的な経営判断

セクション8:株主代表訴訟

8-1 株主代表訴訟とは

株主代表訴訟は「会社の取締役が不正行為や職務怠慢によって会社に損害を与えた場合、株主が『会社に代わって』その取締役を訴える制度」です。

なぜこの制度が必要か

例えば、取締役が会社の資金を私的に流用したとします。通常は「会社が取締役を訴えるべき」です。しかし実際には、その取締役が会社を支配している場合(例:筆頭株主である取締役)、会社は取締役を訴えません。このような状況で、少数株主が「会社の代わりに」取締役を訴える制度が株主代表訴訟です。

訴訟の結果

  • 勝訴の場合:被告役員は会社に損害賠償金を支払う。その金銭は会社の利益となり、全株主が恩恵を受ける
  • 敗訴の場合:株主側の請求が棄却される。提訴株主は訴訟費用や相手方の弁護士費用を負担する可能性があり、これが現実的な課題です

8-2 株主代表訴訟の提訴要件

要件1:原告適格

訴える時点で「株主であること」が必須です。株式を譲渡してしまった者は提訴できません。また非公開会社以外では「6ヶ月以上引き続き株式を保有していること」が要件です(非公開会社は6ヶ月要件なし)。

要件2:提訴請求手続(会社法847条)

これが最も重要です。株主が直ちに訴訟を起こすのではなく、まず「会社に対して提訴請求」をしなければなりません。

ステップ1:請求

株主が書面で会社(通常は取締役会)に対して「この取締役を訴えてください」と請求します。

ステップ2:60日の待機(会社法847条3項)

提訴請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合、株主は「60日が経過してから」代表訴訟を提起できます。

この60日間は「会社に対応の機会を与える」という趣旨です。会社が自ら取締役を訴えるなら、株主の代表訴訟は不要になるからです。

ステップ3:60日経過後

初めて株主は代表訴訟を提起できます。

8-3 60日期間を超過した場合

「回復不能な損害のおそれ」がある場合に限り、60日を待たずに提訴できます(会社法847条5項)。例えば、被告役員が会社の資金を大量に海外に送金しようとしている場合など、直ちに訴えないと損害が確定されてしまう状況です。

8-4 多重代表訴訟

通常の代表訴訟との違い

通常の代表訴訟は「同じ会社の株主が、その会社の役員を訴える」場合です。一方、「親会社の株主が、子会社の役員を訴える」場合は使えません。そこで「多重代表訴訟」という特別な手続があります。

成立要件(会社法847条の3)

  1. 親会社株主が1%以上の株式を保有していること
  2. 子会社株式が親会社の総資産の1/5を超えていること

流れ

  1. 親会社株主が親会社に対して提訴請求
  2. 60日待機
  3. 親会社が対応しない場合、親会社株主が直接に子会社役員を訴えることができる

実務的な例

「大企業(親会社)が子会社の経営陣の不正によって3億円の損害を被ったが、親会社経営陣が何もしないため、親会社の少数株主が子会社役員を訴える」というシーンです。


つまずき対策と誤答パターン

つまずき1:種類株式の名称と機能の誤対応

誤りの例

「配当優先株式は議決権がない」と述べる

正しい理解

配当優先株式と議決権制限株式は「独立した設計」です。配当優先株式は「配当に差をつける」もので、議決権とは無関係です。むしろ配当優先株式は「配当をもらう権利は優先的だが、議決権は普通株式と同じ」というパターンが多いです。

両者を組み合わせることもできます。例えば「配当優先&議決権制限株式」を発行すれば、投資家は「高い配当をもらえるが、経営権はない」という設計になります。

つまずき2:公開会社での議決権制限株式の規制を無視

誤りの例

「公開会社が議決権制限株式で発行済み議決権株式の60%を制限することは可能」と述べる

正しい理解

会社法115条により、公開会社では議決権制限株式の数が発行済株式総数の「2分の1」を超えた場合、直ちに2分の1以下にするための措置をとる義務があります。発行済株式の60%に相当する議決権制限株式を保ち続けることはできません。

この規制がある理由は、公開会社では株式が市場で自由に取引される可能性があり、議決権制限株式を濫用されると困るためです。

つまずき3:取得請求権付 vs 取得条項付の逆転

誤りの例

「取得条項付株式は、株主が会社に『買い取ってください』と請求できる権利がある」と述べる

正しい理解

逆です。「誰が主動か」を軸に区別します:

  • 取得請求権付=株主が主動(「買い取ってください」と請求)
  • 取得条項付=会社が主動(条件成就時に会社が取得)

この対は試験で必ず出題される重要なテーマです。

つまずき4:譲渡承認の期間を混同

誤りの例

「譲渡承認請求後、会社は『40日以内』に承認or不承認を通知する」と述べる

正しい理解

期間を正確に:

  • 2週間:会社が「承認or不承認か」を株主に通知する期間(会社法139条2項)。超過でみなし承認(会社法145条1号)。
  • 40日:不承認後、会社が「買い取る」と決めた場合の買取期間(会社法145条2号)。
  • 10日:不承認後、指定買取人が「買い取る」場合の売却期間(会社法145条2号)。

「通知」「買取り(会社)」「買取り(指定買取人)」の3つのシーンで異なる期間が使われます。

つまずき5:少数株主権の保有比率を誤る

誤りの例

「帳簿閲覧請求権は10%以上の株式保有が必要」と述べる

「役員解任請求権は10%以上必要」と述べる

正しい理解

3%と10%の線引きは明確です:

  • 3%以上:帳簿閲覧、総会招集請求、役員解任請求
  • 10%以上:解散請求権のみ

この比率と権利は「セット」で覚え、特に3%と10%の区別を正確にすることが必須です。試験では「複数の権利から正しいものを選べ」という形式が多いため、各権利の要件を正確に把握していないと落とします。

つまずき6:株主代表訴訟の60日期間を無視

誤りの例

提訴請求をしたその日に、すぐに訴訟を提起してしまう

正しい理解

会社法847条3項により、提訴請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合に、はじめて株主が代表訴訟を提起できます。この期間は「会社に対応の機会を与える」ためのものです。60日が経過する前に訴訟を提起すると、訴えは却下される可能性があります。

唯一の例外は「回復不能な損害のおそれ」がある場合で、この場合に限り60日を待たずに提訴できます。


問題を解くときの観点

観点1:権利の「種類」か「要件」か、問われ方を読み分ける

「種類」を問う問題:「〇〇権とは何か」「次のうち共益権はどれか」→ 権利の本質的な特徴(自益権か共益権か)を説明

「要件」を問う問題:「帳簿閲覧請求権を行使するには何%以上の株式保有が必要か」→ 複数の権利の要件を正確に区別

観点2:種類株式の設定は「公開会社か非公開会社か」で判断

問題で「A社が以下の種類株式を設定したい」という場面では:

  1. まずA社の区分を確認(公開会社or非公開会社)
  2. 公開会社なら制限(議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1以下で管理、役員選任権付株式は発行不可)
  3. 非公開会社なら制限は少ない(議決権制限株式の数量制限なし、9種類すべて設定可能)

観点3:決議要件と買取請求権で株式の変動を区別

  • 「併合=特別決議+買取請求権あり」
  • 「分割=取締役会決議+買取請求権なし」
  • 「無償割当=取締役会決議+買取請求権なし」

この対比が頻出です。

観点4:譲渡制限株式は「フロー」「期間」「みなし承認」をセットで理解

フロー:請求→判断→通知→不承認の場合→買取り 期間:2週間(通知)、40日(会社買取り)、10日(指定買取人買取り) みなし承認:2週間超過で自動承認

観点5:少数株主権は「保有比率」と「権利の組み合わせ」で判断

問題:「次のうち、3%以上の株式保有で行使できる権利は」 対象:帳簿閲覧(3%)、総会招集(3%)、役員解任(3%)、解散請求(10%)など

複数の権利が列挙されている場合、各権利の要件を正確に把握していないと落とします。


確認問題

確認問題(1):種類株式の設定可能性

次の企業が種類株式を設定することを検討しています。それぞれ設定可能か、また決議要件は何か述べてください。

(a)非公開会社が「配当優先株式」を発行したい場合

(b)公開会社が「議決権制限株式で総議決権の60%を制限」したい場合

(c)非公開会社が「取得請求権付株式」を発行したい場合

解答例

(a)可能。定款変更(特別決議)。非公開会社は配当に関する種類株式に制限がありません。

(b)不可能。公開会社では議決権制限株式の議決権数は「発行済み議決権株式の総議決権数の2分の1以下」に限定されるため、60%の制限はできません。

(c)可能。定款変更(特別決議)。ただし公開会社では設定不可です。本問は非公開会社のため設定可能。

確認問題(2):譲渡制限株式の承認手続と期間

X社は全株式が譲渡制限株式です。A株主が「B氏に100株を譲渡したい」と会社に承認請求しました。次の各場面で正しい回答を述べてください。

(1)会社が2週間(14日目)に「条件付きで承認する」と通知した場合、譲渡は有効か。

(2)会社が3週間(21日目)に「承認しない」と通知した場合、法的効果は何か。

(3)会社が不承認通知後、「当社が1株500円で買い取る」と株主総会の特別決議で決め、A株主に通知しました。A株主はいつまでに株式を売却しなければならないか。

解答例

(1)有効。2週間以内の通知のため有効です。条件付きの承認もあり得ます。

(2)みなし承認が生じます。会社が2週間以内に通知しなかったため、自動的に「承認した」とみなされ、譲渡が有効に成立します。不承認通知は無効です。

(3)不承認通知から40日以内に売却しなければなりません(会社法145条2号)。期間を経過すると承認したものとみなされます。

確認問題(3):少数株主権と代表訴訟

Y社の株主構成:親会社P社(80%保有)、少数株主Q氏(20%保有)。Y社の取締役が会社資金2000万円を私的に流用。

(1)Q氏が代表訴訟を提起する場合、提訴請求から訴訟までの最短期間と手続を述べてください。

(2)P社の少数株主R氏(P社株式1.5%保有)が多重代表訴訟を行いたい場合、成立要件を確認してください。

解答例

(1)最短60日。手続:①Q氏がY社に「取締役を訴えてください」と書面で提訴請求→②60日待機→③60日経過後に代表訴訟を提起。60日は会社に対応機会を与えるための必須期間(会社法847条3項)。

(2)多重代表訴訟の成立要件:①R氏がP社株式を1%以上保有(✓R氏は1.5%保有で該当)、②Y社株式がP社総資産の1/5を超えること。この要件を満たし、かつP社に対する提訴請求と60日期間を経たうえで、P社株主が子会社役員を直接訴えることができます。


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