会社類型と設立手続
株式会社、持分会社、設立手続を包括的に解説
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このページは、中小企業診断士試験において頻出の 4つの会社類型 と 株式会社の設立手続 を体系的に理解するための解説です。単なる定義ではなく、責任、譲渡可能性、意思決定の仕組みなどの観点から比較し、試験問題で求められる「判断力」を養成します。
実務での位置づけ
企業診断の現場では、起業支援時に「どの形態の会社にするか」を判断し、設立時のチェックリストを提供する場面が多くあります。このページで押さえた知識は、診断報告書に「推奨される会社形態の理由」を書く際の根拠となります。
学習のポイント
- 4つの会社類型 の責任と特徴を比較する
- 持分会社(合名会社、合資会社、合同会社) の違いと出資者責任
- 株式会社と持分会社 の根本的な違い(持分譲渡、業務執行、意思決定)
- 組織変更 の要件(同意、債権者保護)
- 株式会社の設立手続 の流れと各段階での要件
- 変態設立事項 と 検査役調査 の例外
- 定款の記載事項 の3分類(絶対的、相対的、任意的)
試験で何が問われるか
- 会社類型の選択基準(責任、譲渡、意思決定)を判断できるか
- 持分会社の社員の退社事由と予告期間を区別できるか
- 株式会社の設立手続を時系列で説明できるか
- 定款認証、検査役調査、変態設立事項の関係を理解しているか
- 設立無効の訴えの要件と期間を正確に覚えているか
4つの会社類型と出資者責任
会社類型の基本分類
日本の会社法では、会社を4つの型に分類します。この分類の基軸となるのが「出資者の責任」です。
| 会社類型 | 出資者責任 | 最低人数 | 業務執行 | 計算書類公告 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | 有限責任 | 1人 | 取締役が執行 | 義務あり |
| 合名会社 | 無限責任 | 1人以上 | 社員全員が執行 | 義務なし |
| 合資会社 | 無限+有限 | 2人以上 | 無限責任社員が執行 | 義務なし |
| 合同会社(LLC) | 有限責任 | 1人 | 社員が業務執行 | 義務なし |
責任の基本概念
会社法における責任とは、会社が倒産した場合に、出資者がどこまで個人資産を失う可能性があるかという問題です。
有限責任 とは、出資額を限度として責任を負うという意味です。例えば、100万円を出資して500万円の負債が生じた場合、株式会社の株主は失う金額が100万円で止まります。個人資産の400万円については保護されます。この特徴により、株式会社は多くの零細企業や中小企業で選択されます。
無限責任 とは、出資額を超える負債についても個人資産から責任を負うという意味です。同じく100万円の出資で500万円の負債が生じた場合、合名会社の社員は個人資産から400万円を負担する可能性があります。この厳しさがある一方で、合名会社は社員の信頼関係に基づいており、社員が経営に直接関わることで経営責任を自覚しやすいという特徴があります。
持分会社の共通特徴
合名会社、合資会社、合同会社は総称して「持分会社」と呼ばれます。これらは株式会社とは異なる経営哲学に基づいており、以下の共通特徴を持ちます。
持分の譲渡に制限がある 理由は、持分会社が「人的結合型」だからです。株式会社では、株主が誰かという問題は重要ではなく、株式の自由な譲渡によって資金調達を実現します。一方、持分会社は社員個人の信頼関係を基盤としているため、新しい社員が加入する際には、既存社員全員の同意を要求します。
出資の目的の広さ も持分会社の特徴です。株式会社では原則として金銭による出資のみですが、持分会社では金銭に加えて動産(機械、自動車など)、不動産(土地、建物)、さらには信用や労務(特に合名会社)も出資の対象となります。これは、持分会社が個人事業に近い形態であり、社員が自分たちの資産や能力を柔軟に会社に提供できることを反映しています。
計算書類の公告義務がない ことも、持分会社が「非公開型」であることを示しています。株式会社では、広く投資家に情報を提供する義務があるため、決算情報を官報に掲載しなければなりません。持分会社は、社員が直接経営に関わり、会社の情報を十分に把握しているため、決算情報を非公開にできます。
定款の認証が不要 という点は、持分会社の設立手続が簡易であることを示しています。株式会社では、公証人による定款認証を経ることで、定款の真正性を確保し、会社の目的が適法であることを確認します。持分会社では、この手続を省略して、より簡便に設立できるように配慮されています。
株式会社と持分会社の徹底比較
なぜこれほど違うのか
株式会社と持分会社の違いを理解する鍵は、両者の経営思想の違いにあります。
株式会社 は「資本市場型」の会社です。この型では、経営権(取締役)と所有権(株主)を分離することで、会社は多くの出資者から効率的に資金を調達できます。株主は経営に参加する必要がなく、ただ株式を保有して配当を受け取るだけで良いのです。そのため、株式の譲渡は自由である必要があり、持分会社よりも情報公開が求められ、定款認証による厳格な設立手続が用いられます。
持分会社 は「人的結合型」の会社です。この型では、社員が経営に参加することが前提とされており、社員と経営者は事実上同じ人物です。信頼できるパートナーと一緒に事業を進めることを重視し、新しい社員の加入には全員の同意を要求します。決算情報も社員間で共有できれば足り、定款認証の厳格な手続も必要ありません。
| 比較項目 | 株式会社 | 持分会社 |
|---|---|---|
| 持分の譲渡 | 譲渡制限なしが原則(公開会社) | 社員全員の同意が必要 |
| 出資の目的 | 金銭が原則 | 金銭、動産、不動産、信用、労務等 |
| 業務執行 | 取締役が専門的に執行 | 社員が執行(定款で定める) |
| 意思決定 | 1株1議決権(株主総会) | 1人1議決権(社員総会) |
| 計算書類の公告 | 官報に掲載が義務 | 義務なし(非公開可能) |
| 定款認証 | 公証人認証が必須 | 認証不要 |
| 意思決定の機動性 | 機動性が低い(フォーマル) | 機動性が高い(インフォーマル) |
| 税務上の扱い | 法人税(二重課税) | 法人税(株式会社と同様) |
社員の交代と会社の本質
株式会社では、新しい株主が加入するときは株式を買い取るだけで足ります。既存の取締役や従業員は、誰が株主かをほぼ意識することはありません。会社の本質は「資本」であり、人の入れ替わりは会社の性質に影響を与えません。
持分会社では、新しい社員が加入するたびに、全体の経営体制が変わります。新しい社員の経営能力、信頼性、財務状況は、すべての既存社員に影響を与えるため、全員の同意が必要とされるのです。会社の本質が「人的信頼」である以上、社員の交代は会社の本質を変える出来事なのです。
持分会社の社員の加入・退社
任意退社(自発的な退社)
持分会社の社員は、特別な理由がなくても自由に退社することができます。ただし、突然に退社されると会社の経営が混乱するため、一定の予告期間が法律で定められています。
予告期間は6か月前 です。社員は退社の予定を6か月前に通知しなければなりません。この6か月間は、社員としての地位を保持しながら、会社は後任を探す時間を確保できます。6か月経過後、社員の退社は自動的に成立します。
重要な点として、この6か月の予告期間は会社法の規定(第606条第1項)によるものですが、定款で別段の定めをすることができます(第606条第2項)。つまり、定款で「予告期間を3か月にする」「予告期間なしで退社できる」といった変更が可能です。なお、やむを得ない事由があるときは、定款の定めや6か月の予告にかかわらず、いつでも退社できます(第606条第3項)。
法定退社事由(強制退社)
社員が6か月前予告をしない場合でも、一定の事由が発生すれば、その時点で退社が成立します。これを「法定退社」と呼びます。
社員の死亡 が最も基本的な法定退社事由です。社員が亡くなれば、その人は会社の社員たり得ません。遺族が後を継ぎたいとしても、新たな社員加入の手続を踏む必要があります。
社員が後見開始の審判を受けた場合(会社法第607条第1項第7号)、法的行為能力を失ったことにより、退社が成立します。
社員が破産宣告を受けた場合、個人の経済破綻は会社の経営に直結するため、自動的に退社が成立します。
定款に定めた事由、例えば「定款で『年間売上が100万円未満になったら退社』と定めた」というような場合です。
これらの事由が発生すれば、6か月の予告期間を待たずに、その時点で退社が成立するのです。
退社時の権利と責任
社員が退社した場合、その持分は誰に帰属するでしょうか。通常、社員の持分は残存社員に帰属します。あるいは、定款で「退社時に会社が当該社員に持分を返金する」と定めることもできます。
重要な法的帰結は、退社後も当該社員は会社の債務について責任を免れない場合がある ということです。持分会社、特に無限責任社員が退社した場合、その社員の責任がすぐに消滅するのではなく、退社時点で存在した債務については、一定期間は責任を負う可能性があります。これは、無限責任社員のリスクが退社時点で終わるのではなく、過去の負債に対しては継続的に責任を負う可能性があることを示しています。
組織変更(株式会社と持分会社の相互転換)
組織変更の意味と必要性
既に存在する会社が、別の種類の会社に転換することを「組織変更」と呼びます。これは、設立時に持分会社を選んだ会社が、成長に伴って上場を視野に入れて株式会社へ転換するといった場面で発生します。
株式会社から持分会社へ の転換は、逆に経営体制を簡潔にしたい場合です。例えば、オーナーシップを強化し、意思決定を迅速化し、決算の非公開化を望む場合に選択されます。
持分会社から株式会社へ の転換は、資本調達の自由度を高める場合に選択されます。株式の自由な譲渡により、外部投資家から資金を調達でき、やがて上場を目指すことも可能になります。
組織変更に必要な同意
組織変更は、出資者の権利内容に大きな変化をもたらすため、全員の同意が必須です。
株式会社から持分会社への変更 は、株主が無限責任を負うことになる場合もあるため、総株主の同意 を要求します。これは、単なる普通決議ではなく、反対株主がいれば成立しません。株主保護の観点から、最も厳格な要件となっています。
持分会社から株式会社への変更 は、社員が無限責任から有限責任に転換される場合があるため、やはり総社員の同意 を要求します。この場合、既得権を失う可能性のある社員の同意を必要としているのです。
債権者保護手続の必要性
組織変更には、会社の債権者に対する保護手続が求められます。なぜなら、組織変更によって会社の法人格は変わらなくても、経営形態が大きく変わり、債権者の回収条件が悪化する可能性があるからです。
例えば、株式会社から合名会社に変更されると、それまで有限責任のみだった経営者が、急に無限責任を負うことになります。一方、会社が経営危機に陥った場合、これまでは有限責任で逃げられたのに対して、無限責任社員の個人資産を差し押さえられる可能性が生じます。債権者の回収可能性は向上するかもしれませんが、経営者の個人資産が会社の負債に充当される可能性が高まることもあります。
この変化を事前に債権者に知らせ、異議がある場合は対応する機会を与えるのが「債権者保護手続」です。具体的には、官報に組織変更の予定を公告し、その後の1か月以上の期間(会社法第779条)に異議を唱えた債権者に対して、会社が弁済または弁済供託をしなければなりません。この手続を経ることで、債権者は自分たちの権利が侵害されることを事前に知ることができます。
株式会社の設立手続
発起設立と募集設立
株式会社の設立方法には、発起設立と募集設立の2つがあります。
発起設立 は、発起人(設立者)が全ての株式を自分たちで引き受ける方法です。例えば、3人の起業家が各自1000万円ずつ出資して株式会社を立ち上げる場合が該当します。この場合、発起人以外から株式の募集をしないため、設立手続は比較的簡潔です。試験では、ほぼ全ての問題が発起設立を前提としており、実務でも90%以上が発起設立です。
募集設立 は、発起人が全ての株式を引き受けるのではなく、発起人以外にも株式を募集する方法です。例えば、100人の投資家から資金を集めて大規模な会社を立ち上げる場合に用いられます。この方法では、創立総会を開催して、募集した株式の引受人を確定させるプロセスが必要になるため、手続が複雑です。試験ではほぼ出題されないため、ここでは発起設立を中心に説明します。
株式会社設立の7段階
株式会社の設立は、以下の7つの段階を経て進みます。各段階がなぜ必要なのか、どのような役割を果たすのかを理解することが重要です。
1. 定款の作成(会社の根本規則を文書化)
↓
2. 定款の認証(公証人による真正性の確認)
↓
3. 出資金の払込み(発起人全員による資金の払い込み)
↓
4. 役員の選任(発起人会による取締役等の決定)
↓
5. 設立時監査(検査役による出資の適正性調査)
↓
6. 設立登記申請(法務局への登記申請)
↓
7. 設立完了(登記完了で会社成立)第1段階:定款の作成と3つの記載事項分類
定款とは 会社の根本的な規則です。会社法では、会社は定款に基づいて運営されることが大原則です。定款に記載すべき事項は、その重要度によって3つに分類されます。
絶対的記載事項(これがないと定款全体が無効)
絶対的記載事項とは、記載がなければ定款そのものが無効になる項目です。これは、会社法が強制する最小限の要件を定めているのです。
商号(会社の名前) は、「○○株式会社」という形で必ず記載しなければなりません。この商号により、その会社が識別されます。
目的(事業内容) は、会社が何を生業とするか、すなわち事業目的を明記しなければなりません。例えば「建設業、不動産販売」といった形です。後にこれ以外の事業を行いたい場合は、定款変更が必要になります。
本店の所在地 は、会社の本社がどこにあるかを明記する必要があります。都道府県名と市町村名の記載は必須ですが、ビル番号の記載までは定款には記載せず、登記簿に記載することもあります。
設立に際して出資される財産の価額 は、資本金をいくらにするか、あるいは「最低○○万円」といった形で記載しなければなりません。これにより、会社の基礎財産の規模が定まります。
発起人の氏名・住所 は、誰が会社を設立するのかを明記する必要があります。発起人がいなければ、会社の設立者が不明確になるからです。
これら5つのいずれかが定款から漏れていると、定款全体が無効になり、会社の設立が成立しません。
相対的記載事項(定款に記載してこそ初めて有効)
相対的記載事項とは、定款に記載されることで初めてその内容が有効になり、記載されなければ法定の内容が適用される項目です。定款の定めがない場合は、会社法が定めた規則が自動的に適用されるという意味です。
取締役の員数と任期 は、相対的記載事項です。定款に「取締役は3人とする」「任期は1年とする」と記載すれば、その記載に従います。記載がなければ、会社法の規定により「取締役の数は定款又は株主総会で決定、任期は2年」という法定内容が適用されます。
剰余金の配当に関する事項 も相対的記載事項です。定款で「配当の基準日を決算日とする」と定めれば、その日現在で株主である者に配当が支払われます。定款の定めがなければ、会社法の法定規則に従うことになります。
公告方法 も相対的記載事項です。定款で「官報に掲載する」「会社のウェブサイトに掲載する」など、会社が公告をどの方法で行うかを定めます。定款の定めがなければ、法定の方法が適用されます。
任意的記載事項(記載の有無は自由)
任意的記載事項とは、定款に記載しても記載しなくても、会社の有効性に影響を与えない項目です。会社が独自の経営方針を反映させたい場合に、定款に記載します。
事業年度 を記載して、「4月から3月までを事業年度とする」と定めることで、会社全体の経営計画が立てやすくなります。記載がなければ、会社法の法定規則が適用されます。
役員の報酬規定 を記載して、「取締役の報酬は株主総会で決定する」という仕組みを定めることで、恣意的な報酬支給を防ぐことができます。
自己株式の買戻し条件 を記載して、株主に買取請求権を付与することで、株主保護を強化できます。
第2段階:定款の認証
定款が完成したら、公証人による認証を受ける必要があります。これは、株式会社の設立に共通する要件であり、発起設立・募集設立を問わず必要です。
認証の本質 は、公証人による「証明」です。公証人は、定款の署名や日付が本物であることを確認し、公的な証拠力を与えます。これにより、将来、定款の内容について紛争が生じた場合でも、「この定款は確実に作成されたものである」という証明が得られます。
認証のプロセス は以下の通りです。発起人が公証役場に定款を提出すると、公証人が定款の内容をチェックします。チェックの対象は、会社の目的が違法でないか、記載事項が不足していないかといった基本的な事項です。違法な事業(無許可の金融業など)が記載されていれば、認証を拒否されることもあります。問題がなければ、発起人と公証人が定款に署名し、認証済み定款が完成します。
認証手数料 は、資本金の額に応じて異なります(令和6年12月1日改定後)。資本金が100万円未満なら3万円(発起人が自然人3人以下・取締役会なし等の要件を満たす小規模会社は1万5千円)、100万円以上300万円未満なら4万円、300万円以上なら5万円というように段階的に増えます。この手数料は、会社の設立費用に含められます。
第3段階:出資金の払込み
定款認証を受けた後、発起人全員が出資金を銀行口座に払い込みます。この段階で重要なのは、認証後でなければならない という点です。もし認証前に払い込んでしまうと、その払込みは有効と認められず、認証後に改めて払い込む必要があります。
払込みの実務 では、発起人が複数いる場合、一人が代表して全発起人の出資金を受け取る銀行口座を開設することが一般的です。例えば、Aさんが1000万円、Bさんが500万円、Cさんが500万円を出資する場合、共有口座に全額を集めて、その通帳のコピーを出資金払込み証明書として保存します。
全員の払込み完了が必須 という点も重要です。発起人の中に一人でも払込みを完了していない者がいれば、会社の設立は次の段階に進めません。これにより、出資金の確保が確実になります。
第4段階:役員の選任
出資金の払込みが完了したら、会社の役員(取締役、監査役など)を選任します。発起設立では、通常、発起人による「発起人会」を開催して、役員を決定します。
発起人会の決議内容 は、以下の通りです。まず、取締役を選任します。複数の発起人がいる場合、発起人の中から取締役を選ぶこともあれば、発起人以外から取締役を選ぶこともできます。ただし、1人の発起人が複数の発起人を兼ねることはできません(専門性と独立性の確保)。取締役の員数は、定款で定めた数に従います。
次に、代表取締役を決定します。複数の取締役がいる場合、その中から代表取締役を互選で決めます。代表取締役は、会社の対外的代表者として、契約締結や債務負担をする権限を持ちます。
監査役(設置義務がない場合が多い)を選任する場合は、監査役も同時に決定します。
役員選任決議録の作成 は、法的に重要です。後日、法務局に設立登記を申請する際に、この決議録を提出しなければなりません。決議録には、開催日時、参加者、議決内容が記載されます。
第5段階:設立時監査(検査役調査)
この段階は、「変態設立事項」がある場合のみ発生します。変態設立事項とは、通常の金銭出資以外の出資や、会社が設立時に支出する特別な費用のことです。
変態設立事項とは何か
現物出資 は、金銭以外の資産を出資する場合です。例えば、発起人が保有する機械を会社に出資する場合、その機械の評価額をいくらとするかが問題になります。評価額が過度に高く設定されていれば、株式会社が損をすることになります。この問題を確認するのが検査役調査です。
具体例では、50万円で購入した中古の機械を「評価額500万円」として出資しようとすれば、検査役調査で「この価値評価は妥当か」が問われるのです。
財産引受け は、会社が設立直後に特定の人(通常は発起人)から資産を買い取る契約を結ぶ場合です。例えば、発起人が保有する土地を、会社設立後6か月以内に1000万円で買い取る契約をあらかじめ定款に記載する場合です。この場合、その買取り価格が相当であるかが問われます。
発起人への報酬支給 は、設立準備で大変だった発起人に対して、会社から報酬を支給する場合です。設立時報酬の金額が相当であるかが検査役により調査されます。
設立費用の会社負担 は、定款認証手数料、登記手数料、弁護士・税理士の相談料などを、会社が負担する場合です。この費用が合理的範囲内であるかが確認されます。
検査役調査が必要な理由
これらの変態設立事項がある場合、検査役(中立的な第三者)による調査が必須とされるのは、株主や会社を保護するためです。設立時は、株主が会社の内部をまだ十分に把握していないため、不正な価値評価や過度な報酬支給から保護する必要があります。
検査役調査が不要な例外
例外1:現物出資が500万円以下 の場合、検査役調査が不要です。少額の出資であれば、相対的にリスクが低いと判断されるからです。
例外2:市場価格のある有価証券 を出資する場合、検査役調査が不要です。株式や債券の価値は、日々の市場価格で客観的に判定できるため、二重に調査する必要がないのです。
例外3:弁護士、公認会計士、税理士、不動産鑑定士などの専門家による証明 がある場合、検査役調査が不要です。例えば、評価額2000万円の不動産を出資するが、不動産鑑定士が「この土地の評価額は2000万円が妥当」と証明すれば、その証明書を検査役調査の代わりにできるのです。
これらの例外を覚えるキーワードは「500万円、市場価格、専門家証明」です。
第6段階:設立登記申請
すべての準備が完了したら、法務局に設立登記を申請します。これは、会社成立の最終段階です。
提出書類 は、以下の通りです。設立登記申請書(法務局の様式)、認証済みの定款、役員選任決議録、出資金払込み証明書、検査役調査報告書(必要な場合)などです。その他に、発起人の印鑑登録証明書も必要になります。
登記の審査 は、通常1〜2週間を要します。不備があれば、法務局から補正通知が届き、指定期間内に不備を解消しなければなりません。例えば、申請書の記載ミスや、必要な添付書類の不足などが補正対象になります。
登記完了 すると、「登記完了通知」が届きます。この時点で、会社は正式に成立したと見なされます。
商業登記事項証明書で確認できること
商業登記は、会社の基本情報を外部に公示し、取引の安全を確保するための仕組みです。試験では「何が商業登記簿で確認できるか」「不動産登記とどう違うか」を問われます。
商業登記事項証明書で確認できる代表例は次のとおりです。
商号本店所在地目的資本金の額代表取締役などの役員設立年月日公告方法
つまり、商業登記は 会社という法人の基本属性 を示すものです。個々の土地や建物の権利関係そのものは、商業登記では分かりません。
| 比較項目 | 商業登記 | 不動産登記 |
|---|---|---|
| 対象 | 会社・法人 | 土地・建物 |
| 何を公示するか | 商号、本店、役員、資本金など | 所在、地番、所有権、抵当権など |
| 主な用途 | 会社の実在確認、代表権確認、信用調査 | 物件の権利関係確認、担保確認 |
| 試験での見分け方 | 会社そのものの情報 | 個別資産の権利情報 |
したがって、「代表者が誰か」「会社の目的は何か」を確認したいなら商業登記、「その会社が持つ土地に抵当権が付いているか」を確認したいなら不動産登記を見ることになります。
第7段階:設立完了と会社成立の法的効果
会社は登記によって成立する というのが、会社法の基本原則です。つまり、定款の認証や出資金の払込みといった手続を経ても、登記完了までは法的には会社が存在しません。登記完了初日が「会社の誕生日」となるのです。
登記完了後、会社は以下の権利義務を取得します。会社として銀行口座を開設でき、金銭を受け入れることができます。会社名義で契約を締結でき、事業を開始できます。会社は法人格を持つ独立した主体となり、株主から独立した権利義務を持ちます。
設立の瑕疵(不正や欠陥)と無効訴訟
設立無効の訴えと設立取消しの訴え
会社の設立手続に重大な欠陥がある場合、裁判所に「この設立は無効だ」と主張することができます。これを「設立無効の訴え」と呼びます。
設立無効が認められる理由 は、会社の存在そのものが無効であるという意味です。例えば、定款に絶対的記載事項が漏れていた場合、定款が公証人の認証を受けずに登記申請された場合、出資金の払込みが確認されていない場合などが該当します。
設立取消しの訴え との区別が重要です。設立無効は、「会社の設立手続に根本的な欠陥がある」という場合に用いられます。一方、設立取消しは、「設立手続は形式的には適正だったが、実質的に不公正な方法が用いられた」という場合に用いられます。
提訴期間は、設立登記から2年以内 です。この期間を超えると、いかに瑕疵があったとしても、設立無効の訴えは提起できません。これは、会社の安定性を確保するためです。2年間無効を主張されなかった会社は、その後は有効な会社として扱われるのです。
原告適格 は、株主、取締役、執行役、監査役、清算人などです。つまり、会社に利害関係を持つ者が訴えを提起できます。一般の債権者が提起することはできません。
つまずきポイントと試験対策
よくある混同
組織変更と組織再編の区別:組織変更は、既存の会社が形態を変える場合(株式会社から合同会社へなど)です。組織再編は、複数の会社が合併や分割を行う場合です。全く別の概念です。
変態設立事項と相対的記載事項の関係:変態設立事項とは、現物出資や財産引受けといった、通常と異なる設立方式のことです。相対的記載事項とは、定款に記載することで初めて有効になる事項のことです。概念は異なりますが、関連性があります。変態設立事項は、相対的記載事項として定款に記載する必要があります。
発起人と株主の関係:発起設立では、発起人が全ての株式を引き受けるため、発起人は設立完了後も株主になります。一方、募集設立では、発起人以外からも株式の募集が行われるため、発起人は必ずしも株主にならない可能性があります。
試験で頻出の計算・判定問題
設立登記からの経過期間判定:「2024年3月に設立登記した会社について、2026年5月に設立無効の訴えが提起された」という問題の場合、2年以上経過しているため訴えは認められません。
検査役調査の判定:「現物出資額が300万円、公認会計士の証明あり」という場合、300万円は500万円以下であり、かつ専門家証明があるため、検査役調査は不要です。
会社類型の選択理由:「社員が直接経営に参加し、信頼関係を重視する」という要件から、どの会社類型が最適かを判定します。持分会社(特に合名会社または合同会社)が答えになります。
確認問題
問1:4つの会社類型の責任
問: 出資者の責任という観点から、以下の会社類型を責任が重い順に並べよ。
ア)株式会社 イ)合名会社 ウ)合資会社 エ)合同会社
解答: イ(全員無限)> ウ(無限+有限混在)> ア・エ(全員有限、同列)
合名会社は社員全員が無限責任を負うため最も責任が重い。合資会社は無限責任社員と有限責任社員が混在するため、合名会社と株式会社・合同会社の中間。株式会社と合同会社は、全員が有限責任であり、責任の重さは同じです。
問2:持分会社の退社手続
問: 持分会社の社員が任意に退社する場合、予告期間は何か。また、この期間を定款で短縮することは可能か。
解答: 予告期間は6か月。定款で変更可能(任意規定)
6か月の予告期間は会社法第606条第1項の規定によるものですが、同条第2項により「定款で別段の定め」をすることができます。つまり、定款によって短縮することも延長することも可能です(例:「1年前予告」や「3か月前予告」)。なお、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社できます(同条第3項)。
問3:株式会社設立の段階順序
問: 以下の設立手続を時系列順に並べよ。
ア)定款の認証 イ)役員の選任 ウ)定款の作成 エ)出資金の払込み オ)設立登記申請
解答: ウ → ア → エ → イ → オ
定款を作成した後、公証人の認証を受け、その後に出資金を払い込みます(認証前の払込みは無効)。出資金の払込み完了後、役員を選任します。すべての準備が完了したら、設立登記を申請します。この順序を間違えると、会社の設立が成立しません。
問4:検査役調査の不要な場合
問: 以下のうち、検査役調査が不要となる場合はどれか(複数選択)。
ア)発起人が土地を現物出資する(評価額800万円、不動産鑑定士の鑑定評価書あり) イ)発起人が評価額200万円の機械を現物出資する ウ)上場企業の株式を現物出資する(市場価格1000万円) エ)発起人に設立時報酬として500万円を支給する予定
解答: ア・イ・ウが不要。エは必要。
ア)不動産鑑定士の鑑定評価書(専門家証明)があるため不要。イ)200万円は500万円以下であるため不要。ウ)上場株式は市場価格が明確であるため不要。エ)報酬の相当性を検査役が判定する必要があるため必要です。
問5:設立無効の訴えの期間
問: 令和4年5月に設立登記がなされた会社について、令和6年7月に設立無効の訴えが提起された。この訴えは認められるか。
解答: 認められない(2年以上経過したため)
設立無効の訴えの提訴期間は、設立登記から2年以内です。令和4年5月から令和6年7月は、2年2か月経過しているため、期間を超えています。したがって、この訴えは認められません。2年経過により、会社の設立は確定的なものとなります。
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