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資金調達・配当・計算書類

新株発行、新株予約権、社債、剰余金配当を整理する包括的解説ページ

このページの役割

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会社がどう資金を集め(新株発行・新株予約権・社債)、どう利益を配るか(配当)を一貫して理解するページです。会社法的観点から、各手段の決議要件・手続・制限を体系的に整理します。

試験での位置づけ

中小企業診断士試験では、資金調達と配当の区分、新株発行や配当の決議要件、有利発行の概念、配当可能額の計算がよく出題されます。計算問題も含まれるため、定義だけでなく計算手順も押さえる必要があります。

学習のポイント

  • 第1段階:資金調達の三本柱(新株発行・新株予約権・社債)の違いを比較表で確認
  • 第2段階:新株発行の決議要件(通常決議・特別決議の使い分け)と手続的制限を把握
  • 第3段階:剰余金配当の分配可能額計算とその制限理由を理解
  • 第4段階:新株予約権とストックオプションの法制度的位置づけを確認

試験で何が問われるか

  1. 新株発行の比較:株主割当・第三者割当・公募の違い、有利発行の判定
  2. 決議要件:どの場面で特別決議が必要か、非公開会社の取扱い
  3. 新株発行の無効と救済:差止め請求、無効の訴え、不存在確認の訴えの使い分け
  4. 新株予約権:ストックオプションの有利発行、令和元年改正による金銭払込みなし株式報酬
  5. 社債:普通社債とCB、社債管理者の設置要件、少人数私募債
  6. 配当可能額:計算式、準備金積立義務、中間配当との関係
  7. 資本金・準備金の変動:減少手続、債権者保護手続

計算書類の備置と閲覧

このページは資金調達と配当が中心ですが、過去問では 会社法442条の計算書類等の備置 も同じ並びで問われます。これは「決算情報を株主が事前に確認できるようにする」ためのルールです。

なぜ備置が必要か

定時株主総会では、株主が計算書類を見たうえで承認や質問を行います。もし総会当日まで会社が計算書類を見せなければ、株主は中身を十分に確認できません。そこで会社法は、本店に計算書類や事業報告、監査報告などを備え置いて、株主や債権者が閲覧できるようにしています。

試験で押さえるべき実務イメージ

細かな日付問題では、次の順で整理すると迷いにくくなります。

  1. 取締役が計算書類を作成する
  2. 監査役や会計監査人が監査する
  3. 株主総会の招集通知を発送する
  4. その前から本店で備え置き、閲覧できる状態にしておく

要するに、株主総会の通知が発送されるころには、株主が本店で資料を確認できる状態でなければなりません。試験では、複数の日付が並んでも「総会前に株主が読める状態を確保する」という目的に立ち返ると判定しやすくなります。

備置制度で見落としやすい点

  • 備置の目的 は「会社のため」ではなく「株主・債権者が事前確認するため」
  • 対象書類 は計算書類だけでなく、事業報告や監査報告まで含めて考える
  • 日付問題 は「監査が終わっているか」と「招集通知発送前に閲覧可能か」の2軸で見る

1. 資金調達の三本柱:新株発行 vs 新株予約権 vs 社債

会社が資金を調達する主要な三つの方法を比較します。これらは見た目は似ていますが、法的な性質が大きく異なり、決議要件や制限も違います。

位置づけの違い

資金調達の三本柱は、会社がお金を集めるための三つの主要な手段です。それぞれを比較表で整理します。

項目新株発行(募集株式)新株予約権社債
法的性質株式という会社の一部所有権を新たに発行する将来、株式を取得できる権利(今は株主ではない)会社が借金を負う契約(返済義務がある)
会社への効果資本が即座に増加する将来的に資本増加の可能性債務として計上される(返済期限までは負債)
配当可能性発行時からすぐに配当受領権を持つ権利を行使するまでは受領権なし利息を受領する(株式配当ではなく返済義務の一部)
返済義務なし(株主のため)なしあり(一定期間後に元本を返す)
株主化のタイミング発行と同時に株主化権利を行使した時点で初めて株主化原則的に株主化しない(転換社債を除く)

なぜこの違いが重要か:試験では「資金調達」という言葉で三者が一括されることがあります。しかし性質は大きく異なります。特に社債は返済義務があることが新株発行と決定的に異なります。

各手段の使い分けの視点

新株発行を選ぶ理由

  • 返済不要(資本を厚くしたい場合)
  • 長期的に会社を支えてくれる出資者を迎えたい

新株予約権を選ぶ理由

  • 従業員のインセンティブ(ストックオプション)
  • 将来の資金調達に備える

社債を選ぶ理由

  • 返済期限が明確で計画的
  • 株主支配を希薄化させたくない

2. 新株発行(募集株式の発行)の完全体系

2.1 発行方法の三分類

新株発行には、大きく三つの方法があります。

2.1.1 株主割当(既存株主への割当)

定義:既存株主に対して、現在の保有比率に応じて新株を割り当てる方法。

なぜこの方法が重要か:会社法202条で、新株発行の原則は株主割当です。これは既存株主の持株比率を維持するための仕組みです。

具体例

  • 現在の株主A(100株保有)、株主B(50株保有)
  • 新株150株を発行する場合、A:Bの比率(100:50 = 2:1)に応じて
  • Aに100株、Bに50株を割り当てる

特徴

  • 既存株主の持株比率を維持できる(支配権希薄化がない)
  • 相対的に公平な処遇
  • 一般的に取締役会決議で決定可能(公開会社の場合)

例外(株主割当を除外できる場合)

  • 株主総会で特別決議により割当てを除外した場合
  • 非公開会社の定款で排除している場合

2.1.2 第三者割当(特定者への割当)

定義:従業員、融資先企業、経営陣など、特定の第三者に新株を割り当てる方法。

いつ使う

  • 従業員ストックオプション(後述)
  • M&A時の対価としての株式交付
  • スタートアップへの投資受け入れ

手続上の注意

  • 非公開会社では原則として株主総会の特別決議が必要
  • 公開会社でも、割当先の特定性が強い場合は特別決議の対象

なぜ特別決議が必要か:第三者割当は既存株主の持株比率を希薄化させます。たとえば新株発行で自分の持株比率が50%から40%に下がることは、支配権に関わる重大事項です。そのため、特別決議(3分の2以上の同意)という厳格な要件が必要とされるのです。

2.1.3 公募(広く一般から募集)

定義:上場企業が株式市場で一般投資家から募集する方法。

実際の場面:上場企業が新規公開(IPO)や追加公募(SEO)で新株を発行するケース

特徴

  • 上場企業に限定(非上場企業では原則不可)
  • 有価証券届出書の提出など、金融商品取引法の厳格な規制の対象
  • 株主割当排除には特別決議が必要

IPO と上場審査:形式基準と実質基準

上場は「株を売り出すこと」だけではなく、証券取引所の審査を通る必要があります。試験では、数字で確認する形式基準企業の統治や継続性を見る実質基準 を区別できるかが重要です。

観点形式基準実質基準
何を見るか客観的な数値・要件ガバナンス、継続性、内部管理体制
典型例株主数、流通株式、時価総額、事業継続年数適時開示体制、粉飾の有無、反社会的勢力排除
試験での見分け方何人以上 何年以上 いくら以上 など適切な経営管理 公正性 継続性 など

つまり、形式基準は「受験資格」、実質基準は「上場企業として信頼できるか」の審査だと考えると理解しやすくなります。

また、成長企業向け市場では、成熟企業向け市場に比べて利益実績よりも 将来の成長可能性 が重視されることがあります。ただし、だからといって内部管理体制や情報開示が不要になるわけではありません。ここを取り違える選択肢は誤りです。


2.2 有利発行(特別な価額での発行)の判定と決議要件

2.2.1 有利発行とは

定義:新株を時価より著しく低い価額で発行することを「有利発行」といいます。

なぜ「有利」と呼ぶのか:発行される側にとって有利だからです。時価1,000円の株を500円で買えるのは、発行される側にとって明らかに得です。

具体例

  • 時価が1株1,000円の会社が、1株500円で第三者割当する → 500円で買った人は500円分得をしている
  • 株主割当の際に著しく低い価額で発行する

なぜ規制するか

  1. 既存株主への不公正さ:既存株主の持株価値(1株当たり価値)が低下する
    • 例:10株保有で1株あたり1,000円の価値だったのに、新株が500円で発行されると、1株あたり価値が下がる
  2. 特定者の不当な優遇:新株引受人が過度に優遇される
  3. 経営陣による利益相反行為:経営陣が友人や関連会社に低価格で新株を割り当てるようなケースを防ぐ

2.2.2 有利発行時の決議要件:特別決議

有利発行は以下の最も厳格な決議が必要です。

株主総会特別決議(会社法309条2項5号)

  • 全株主の3分の2以上の議決権を有する者の出席
  • その出席者のうち、さらに3分の2以上の承認
  • または書面・電子投票で全体の3分の2以上の同意

なぜ特別決議が必須か:既存株主を不公正に扱う可能性が高いため、通常の決議(過半数)では不十分です。より厳格な3分の2の同意が必要とされるのです。

非公開会社で「簡易手続」は使えるか

  • 非公開会社では、有利発行の場合、原則として簡易手続は使えません
  • つまり、必ず株主総会の特別決議が必要です

重要な法理:会社法309条2項8号の「著しく不公正な方法」は、有利発行を包含する強行規定です。定款で「有利発行は普通決議で足りる」と定めても、その定款は無効です。

2.2.3 非公開会社における新株発行決議

原則:非公開会社では、通常の新株発行(有利発行でない場合も含む)について、株主総会の特別決議が必要です(会社法199条2項・309条2項5号)。

なぜ特別決議が必要か

  • 非公開会社では株主が経営権と持株比率の維持に強い利益を持つため
  • 新株発行による持株比率の希薄化は支配権に直接影響するため
  • 公開会社と異なり、株式の流通性が低く、株主保護の必要性が高い

試験での整理ポイント

  • 非公開会社の新株発行は、原則としてすべて特別決議が必要(有利発行かどうかを問わず)
  • 有利発行の場合は、さらに「特に有利な金額であることの理由説明」が義務付けられる
  • 取締役会への委任は株主総会の特別決議で可能(会社法200条1項)

2.3 新株発行の手続的制限:差止めと無効訴訟

新株発行を宣言した後、実際の発行の前後に、いくつかの法的制限が機能します。

2.3.1 差止め請求(会社法210条)

概要:違法な新株発行を、発行前に止める手段

権限者:株主(1株以上保有すれば可能)

内容

  • 違法と思われる新株発行の差止めを請求できる
  • 訴えの提起時に会社に通知されると、その新株は発行できなくなる

違法と判定される典型例

  • 発行可能株式総数を超えた発行
  • 定款違反(定款で発行可能数が制限されている場合)
  • 有利発行なのに特別決議を取らなかった
  • 非公開会社なのに、定款で「特別決議必須」と定めているのに普通決議で発行した

期限

  • 差止め請求は、払込期日(発行の効力が生じる日)の前にのみ行うことができます
  • 特定の期間制限は設けられていません
  • 発行の効力が生じた後は差止め請求はできず、「無効の訴え」(発行後6か月または1年以内)に変わります

判例のポイント

  • 訴え提起の通知が発行日よりも前である必要があります
  • 既に発行された後の訴えは差止めではなく、無効確認訴訟になります

実務での使われ方

  • 差止め請求は「発行日前」が勝負
  • 発行日が近い場合、仮処分(裁判所が仮に発行を禁止する)を申し立てることが実務的

2.3.2 新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)

目的:違法に発行された新株の効力を遡及的に無くす訴え(差止めとは異なり、発行後の訴訟)

権限者

  • 株主(1株以上保有)
  • 場合によっては会社も原告になれます

無効事由(典型例)

  • 発行可能株式総数超過
  • 決議要件違反(特別決議が必要なのに普通決議で発行)
  • 重大な手続違反(定款を全く無視した発行など)

提訴期限(これが非常に重要):

  • 公開会社:発行日から6か月以内
  • 非公開会社:発行日から1年以内

期限超過後の扱い

  • 期限を超えたら訴えは棄却されます(無効であっても救済されない)
  • この「期間制限」は、法的安定性を重視した制度設計

判決の効力

  • 判決は「対世効」(全員に対する効力)があります
  • ただし「将来効のみ」(遡及効なし)です
  • つまり、既に取得した第三者の権利を完全には否定しない保護もあります

試験での頻出ポイント

  • 公開会社と非公開会社で期限が異なる(6か月 vs 1年)
  • 「発行日から」が起算点(決議日からではない)

2.3.3 不存在確認の訴え(会社法829条)

目的:そもそも新株発行という事実が存在しないことを確認する訴え

差止めや無効訴訟との違い

  • 差止め:発行前に止める
  • 無効訴訟:発行されたが、その効力を争う
  • 不存在確認:そもそも「発行という法律事実」が存在しない

用途(いつ使うか)

  • 手続が完全に踏まれていない(定款をまったく無視した発行など)
  • 発行の法的要件が根本的に不存在
  • 例:定款なしに、株主総会も経ずに発行した

期限制限

  • 通常はなし(発行が行われなかった=不存在なので、何年後でも訴えられる可能性)
  • これは「無効訴訟の6か月・1年制限」と大きく異なります

試験での使い分けの観点

  • 法的には発行されたが、その効力を争う → 無効の訴え
  • そもそも発行という事実がない → 不存在確認の訴え

3. 新株予約権とストックオプション

3.1 新株予約権の法的性質

定義:会社法2条21号で定める、一定の行使期間内に、定められた価額で会社から新株の交付を受ける権利です。

わかりやすく言うと:「将来、決まった価格で株式を買える権利」です。今すぐ買う必要はなく、タイミングを選んで行使できます。

性質

  • 独立した権利(株式ではなく、権利)
  • 行使するまでは株主ではない(配当受領権もない)
  • 譲渡可能(ただし制限できる場合もあります)

会社法上の位置づけ

  • 貸借対照表では「新株予約権」として純資産の部に計上
  • 将来の資本増加要因
  • 発行済み株式数の「希薄化リスク」(将来株式が増える可能性)

発行時の計上方法

  • 新株予約権を行使される可能性のある場合、資本状況が変わることに備えます
  • 純資産の部に「新株予約権」として別建てで計上されます

3.2 ストックオプション:典型的用途

定義:従業員やコンサルタントに対して、会社が「一定価額で新株を買える権利」として与える仕組み。

法的位置づけ

  • 新株予約権の一種
  • 労働条件の一部として機能
  • 従業員へのインセンティブ報酬

なぜ活用されるか

  • 従業員が会社の成長に直接利益を得られる
  • 現金支給より、会社の負担が軽い
  • 従業員の長期継続を促す

具体例(実際の流れ)

  1. 従業員Aに「3年後に1株500円で100株買える権利」を付与する
  2. A社の株価が1年後に1,000円に上昇する
  3. Aは行使期限内に権利を行使し、500円 × 100株 = 50,000円を払う
  4. 100株を取得(市場価格は1,000円/株なので、100,000円分)
  5. Aの利益 = 100,000円 - 50,000円 = 50,000円

ベスティング(既得権化)

  • ストックオプションは通常、一定期間(例:4年)をかけて段階的に「ベスティング」(既得権化)します
  • 例:4年で満額ベスティングなら、1年目で25%、2年目で50%というように権利が確定します
  • 途中で退職した場合、ベスティングしていない部分は失効します

3.3 ストックオプション(新株予約権)の発行決議要件

3.3.1 原則:特別決議

新株予約権の発行は、原則として 株主総会特別決議 が必要です(非公開会社:会社法238条2項・309条2項6号、公開会社の有利発行:会社法240条1項・309条2項6号)。

なぜ特別決議が必須か

  1. 将来の株式数増加につながる
  2. 既存株主の持株比率を希薄化させる
  3. 経営陣への利益供与の可能性(特に役員へのストックオプション)

3.3.2 有利発行としての扱い

ストックオプションの行使価額が「明らかに有利な価額」で設定されている場合、さらに厳格な規制が適用されます。

何が「有利」か

  • 行使価額が現在の株価より著しく低い場合

具体例

  • 現在の株価が1,000円なのに、ストックオプションの行使価額を100円とする
  • これは「従業員への過度な優遇」です

判定基準(実務通例):

  • 行使価額が公正な評価額より著しく低い(おおむね70%未満)→有利発行の可能性
  • 標準的なストックオプション(行使価額=発行時の株価)→有利発行ではない(おおむね)

有利発行と判定された場合

  • より厳格な意思決定が必要
  • 単なる「特別決議」では不足し、さらに手続要件が追加される場合があります

3.4 令和元年改正:金銭払込みなし株式報酬

3.4.1 改正の背景と内容

2019年(令和元年)の会社法改正により、新株予約権について 金銭払込みなしで行使を認める という新しい仕組みが導入されました。

改正前の仕組み

  • ストックオプション(新株予約権)を行使するには、必ず行使価額を払い込む必要がありました
  • 例:行使価額500円のストックオプション100株なら、50,000円を支払わないと株式を受け取れない

改正後の仕組み

  • 定款や発行時の決議で、「新株予約権を行使するときに金銭払込みなし」と定めることができます
  • 従業員が金銭を支払わずに株式を受け取ることが可能に

3.4.2 具体的な仕組みの比較

従来のストックオプション

  1. 従業員に新株予約権を付与
  2. 従業員が行使時に「行使価額」を払う(例:500円 × 100株 = 50,000円)
  3. その見返りに株式を取得

改正後の金銭払込みなし報酬

  1. 従業員に新株予約権を付与(この時点で「払込みなし」と定める)
  2. 従業員が行使時に 金銭を払わずに 株式を取得
  3. 報酬として機能(従業員の現金支出なし)

具体例

  • 従業員に「金銭払込みなしで1,000株を取得できる権利」を付与
  • 行使時に何も払わずに1,000株を受け取る
  • 株価が1,000円なら、100万円相当の報酬を受け取ることになる

税務上の位置づけ

  • 給与扱いとなります
  • 従業員側は給与所得税がかかる可能性があります
  • 会社側は給与控除の対象

試験での問われ方

  • 金銭払込みなし新株予約権が認められる(令和元年改正)
  • この場合の決議要件は、通常のストックオプションと同じ
  • ベスティング(既得権化)の概念との関係

4. 社債(会社法で押さえるべき論点)

4.1 社債の種類と比較表

会社法では複数の社債形態があります。各々の性質と手続要件を比較表で整理します。

種類普通社債転換社債型新株予約権付社債(CB)新株予約権付社債少人数私募債
法的性質会社が負う返済義務のある借入社債 + 新株予約権が一体(転換すると社債消滅)社債 + 新株予約権が分離可能少人数向け社債(最大49人)
返済義務ありあり(転換前)、消滅(転換後)ありあり
株式転換なしあり(行使で社債消滅、株式に変換)なしなし
新株予約権なし社債に組み込まれている社債とは独立なし
発行要件取締役会決議(原則)株主総会特別決議株主総会特別決議定款で定めれば簡易
募集対象広く募集可(公募可)広く募集可(公募可)広く募集可(公募可)50人未満の小口(非公開)
社債管理者設置各社債1億円以上なら設置不要各社債1億円以上なら設置不要各社債1億円以上なら設置不要原則不要(社債口数50未満)
実務での位置づけ金融機関が組成・管理することが多いハイテク企業が資金調達に活用比較的レアな形態中小企業の簡易資金調達

4.2 普通社債:基本形

定義:会社が金銭を借り入れ、一定期間後に元本と利息を返済する約束証書。

実務での例

  • 銀行から100万円を借りる(社債形式)
  • 10年間、毎年2%の利息を支払う
  • 10年後に元本100万円を返す

発行要件

  • 取締役会決議(原則)
  • 上限額は定款で規定(取締役会は定款の範囲内で決議)

社債管理者とは何か

  • 社債権者の利益を代表する者
  • 会社が利息を支払わない場合、回収のために動く
  • 会社が倒産した場合、債権者の権利を守る

社債管理者の設置義務

  • 原則として社債発行時に社債管理者の設置が義務付けられる(会社法702条)
  • 例外(設置不要):各社債の金額が1億円以上の場合(プロ投資家向けのため保護不要)
  • 例外(設置不要):社債の口数(総額÷最低額面)が50未満の場合(会社法施行規則169条)

社債管理者の資格

  • 銀行(信託銀行が多い)
  • 信託会社

社債管理補助者(令和元年改正で新設):

  • 社債管理者の設置が不要な場合(各社債1億円以上 or 社債口数50未満)に任意で配置
  • 弁護士・弁護士法人も社債管理補助者になることが可能(会社法714条の3)
  • 社債管理者より権限は限定的

4.3 転換社債型新株予約権付社債(CB)

定義

  • 社債(返済義務あり)と新株予約権を一体化した商品
  • 発行者である会社から見ると「最初は借金、転換されると資本に変わる」

動き方の具体例

  1. 会社が1口100万円のCBを発行
  2. 投資家が100万円を払い込む(会社側は借入金)
  3. 毎年2%の利息を支払う(会社側の費用)
  4. 株価が上昇すると、投資家は「転換権」を行使
  5. 100万円の社債が消滅し、代わりに一定数の新株を受け取る

メリット(会社側)

  • 当初は借入金(利息支払い)で資金を調達
  • 転換されると、負債が消滅し資本に変わる
  • 資本構成の柔軟化が可能

メリット(投資家側)

  • 社債なので確実な利息がもらえる(株式配当より安定)
  • かつ株価上昇時には転換して利益を得られる
  • ダウンサイド保護(最悪の場合、社債として返済される)

発行要件

  • 株主総会特別決議
  • 新株予約権が付属しているため、既存株主の持株比率を希薄化させる可能性がある
  • したがって、より厳格な決議が必要

4.4 新株予約権付社債(ワラント債)

定義

  • 普通社債 + 新株予約権が分離可能
  • 社債と新株予約権が独立した権利として扱われる

CBとの違い

  • CB:社債と新株予約権が一体(転換すると社債消滅)
  • 新株予約権付社債:二つが分離可能(社債と新株予約権を別々に処理できる)

実務での例

  • 投資家が社債部分だけを保有して利息を受け取り続ける
  • あるいは新株予約権だけを譲渡して他の投資家が行使する

発行要件

  • 株主総会特別決議

4.5 少人数私募債(いわゆる「プライベートローン」)

定義

  • 社債を少人数(50人未満)に限定して募集する形態
  • 非公開会社向けの簡易手続

「少人数」の定義

  • 49人以下(50人未満という表現で、49人が上限)
  • 同一種類の社債の勧誘対象者を3か月以内で通算して50人未満に抑えることが要件

特徴

  • 発行要件が緩い(取締役会決議で足りる場合が多い)
  • 社債管理者設置が原則不要
  • 中小企業が資金調達しやすい

社債管理者設置の判定

  • 1億円未満 → 設置不要
  • 1億円以上でも、定款で「社債管理者の設置を免除する」と定めれば、設置不要の場合あり

定款で必要な規定

  • 発行可能社債総額を定める必要があります

5. 剰余金配当:制限と計算

5.1 配当とは何か

定義:会社が得た利益のうち、株主に分配する部分。

初学者が混同しやすい概念の整理

  • 配当:利益の分配(会社法452条以降)
  • 払戻し:資本の返却(会社法453条以降、減資など)
  • 新株発行:資本を増やす行為(異なるメカニズム)

配当の種類

  • 普通配当(通常の利益配当):決算期末の利益から行う
  • 中間配当(決算期の中途での配当):決算期の中途で、暫定的に配当
  • 特別配当(臨時利益がある場合など):突発的な利益から行う

配当の法的性質

  • 株主の「受け取り権」です
  • 会社に支払能力がない場合、受け取れません
  • 配当額は会社法の「分配可能額」の範囲内に制限されます

5.2 分配可能額(配当できる上限)

配当はすべての利益から自由に配分できるわけではなく、法定の上限があります。

5.2.1 分配可能額の計算式

分配可能額 = その他資本剰余金 + その他利益剰余金 − 自己株式の帳簿価額

各要素の説明(初出の用語も定義)

  1. その他資本剰余金
    • 「その他」とは何か:資本金以外の資本に分類される金銭
    • 例:新株発行時の払込金のうち、資本金に算入されなかった分
    • 配当する場合は段階的に「減額」します(配当額の1/10を準備金として積立)
  2. その他利益剰余金
    • 営業利益など、毎年蓄積する利益
    • ただし「準備金」を差し引いた部分が配当可能
    • 配当を実行すると、この金額が減少します
  3. 自己株式の帳簿価額
    • 会社が保有している自社株式の取得額
    • これを差し引く理由:自己株式は「本来の株主」ではなく、二重配当を避けるため
    • 例:会社が自社株を1,000万円で買った場合、その額を差し引く

なぜこの計算式か

  • 会社の財政状況を過度に悪化させないため
  • 債権者の回収可能性を確保するため
  • 既存株主の公平性を守るため

5.2.2 実例計算

:決算書から以下の数字が得られた場合

項目金額
資本金1,000万円
その他資本剰余金200万円
その他利益剰余金500万円
自己株式帳簿価額50万円

計算ステップ

  1. その他資本剰余金:200万円
  2. その他利益剰余金:500万円
  3. これらの合計:200万円 + 500万円 = 700万円
  4. 自己株式を差し引く:700万円 - 50万円 = 650万円
  5. 分配可能額 = 650万円

意味

  • この会社は、最大で650万円まで配当できます
  • 651万円以上配当すると、会社法違反になります
  • ただし「準備金積立義務」があるため、実際の配当額はこれより少ないことがあります(次項参照)

5.3 準備金の積立義務

配当を行うときは、一定額を「準備金」として貯蓄する義務があります。

なぜこんな義務があるのか

  • 会社の倒産リスクを低減するため
  • 配当による資本流出を緩和
  • 債権者の回収可能性を確保

5.3.1 積立額の計算

ルール(会社法445条4項):

積立準備金 = 配当額 × 1/10(10分の1)

具体例

  • 配当額が100万円なら、積立準備金は10万円
  • 配当額が1,000万円なら、積立準備金は100万円

ただし上限あり

  • 準備金の累計額が「資本金の1/4」に達するまで
  • 達した後は、それ以上積立ては不要

:資本金が1,000万円の場合

  • 資本金の1/4 = 250万円
  • 準備金が250万円に達したら、それ以上は積立不要
  • 配当額のすべてを株主に配分できるようになります

5.3.2 積立準備金の役割

法的役割

  1. 会社の緊急時資金(倒産リスク低減)
    • 準備金は会社の内部留保として機能
    • 赤字決算が出た場合、この準備金を取り崩して対応可能
  2. 配当による資本流出を緩和
    • 配当により利益剰余金が減少
    • その落ち込みを準備金の積立により埋め合わせる
  3. 債権者保護
    • 会社が継続的に資本を蓄積する仕組み
    • 債権者の回収可能性を担保

5.3.3 実例:準備金積立の流れ

初期状態

  • 資本金:1,000万円
  • 利益剰余金:500万円
  • 準備金:0万円
  • 資本金の1/4:250万円

第1年度に配当100万円決定

  1. 積立準備金 = 100万円 × 1/10 = 10万円
  2. 配当後の準備金累計 = 0万円 + 10万円 = 10万円
  3. 配当後の利益剰余金 = 500万円 - 100万円 - 10万円 = 390万円
  4. 準備金はまだ250万円に達していないので、次年度も積立継続

第2年度に配当150万円決定

  1. 積立準備金 = 150万円 × 1/10 = 15万円
  2. 準備金累計 = 10万円 + 15万円 = 25万円
  3. 資本金の1/4:250万円
  4. まだ上限に達していないので、積立継続

準備金が資本金の1/4に達したとき

  1. 準備金累計が250万円に到達
  2. 以降は準備金積立義務なし
  3. 全利益を配当可能(ただし分配可能額の制限は受けます)

5.4 中間配当(決算期中の配当)

5.4.1 中間配当の定義と要件

定義:決算期の中途で、暫定的に利益から配当を行うこと。

具体例

  • 会計年度が4月から3月の場合
  • 10月(上半期終了時)に中間配当を支払う

発行要件

  • 株主総会の普通決議(通常決議)で許可を得る
  • または定款で中間配当の権限を取締役会に委譲

なぜ「中間」配当という制度があるのか

  • 会社の利益が早期に出ている場合、株主に対して迅速に配分できる
  • 株主の企業への信頼を高める
  • 中間決算が確立している会社では、管理が可能

5.4.2 中間配当可能額

中間配当可能額 = 前決算期の分配可能額 × 当年度経過月数 ÷ 12か月
                 − すでに支払った中間配当

簡単に言うと

  • 前年度末の分配可能額をベースに、経過月数に応じた比例額
  • すでに支払った分を除く
  • 過度な配当を防ぐためのリミット

具体例

  • 前年度末の分配可能額:1,200万円
  • 当年度経過月数:6か月(上半期終了)
  • 中間配当可能額 = 1,200万円 × 6 ÷ 12 = 600万円
  • この範囲内で中間配当を決定

5.4.3 試験での出題パターン

中間配当は「通常決議で決定可能」な点が強調されます。

決議要件の比較

  • 通常配当:普通決議(過半数)
  • 中間配当:普通決議(過半数)
  • 決議要件は同じ

回数制限の比較

  • 通常配当:原則年1回(定時株主総会)
  • 中間配当:定款で認めれば複数回可能
  • 回数制限なし会社:会計監査人設置会社では、定款で中間配当回数制限なしが可能

6. 資本金・準備金の変動

6.1 資本金の減少(減資)

6.1.1 減資とは

定義:会社が保有する資本金を、法的に減額すること。

会計との違い

  • 会計上「損失」が出ることは減資ではない
  • 減資は「意図的に資本金という法律上の数字を減らす行為」です

目的

  1. 過去の損失による資本の毀損を回復
    • 例:長年の赤字で、資本金が毀損している場合、リセット
  2. 配当不可能だった利益を配当可能にする
    • 例:資本金が厚すぎて、分配可能額が少ない場合
  3. 税務戦略
    • 欠損金の補填など

6.1.2 減資の決議要件

必須:株主総会特別決議(会社法449条)

なぜ特別決議が必須か

  • 資本金そのものの減少 = 株主の権利に重大な影響
  • 債権者にも影響(会社の支払能力低下)
  • 単なる「普通決議」では不十分な重大事項

6.1.3 債権者保護手続

減資を行うときは、債権者に対する通知・催告が必要です(会社法449条5項)。

流れ

  1. 減資決議(株主総会特別決議)
  2. 官報公告(2週間以上の掲載)
  3. 個別催告(既知の債権者に対する通知)
  4. 債権者から異議があれば、会社が弁済または担保を供する

なぜ債権者保護が必要か

  • 会社の資本(返済能力)が減ると、債権者の回収リスクが高まる
  • 債権者に異議権を与えて、担保を取ったり弁済を受けたりする機会を与える
  • 債権者側から見ると「会社が資本を減らすのは、私たちへの返済能力が低下する可能性がある」

6.1.4 減資の計算例

事例

  • 現在の資本金:1,000万円
  • 累積損失:300万円
  • 利益剰余金:ー300万円(赤字状態)
  • 分配可能額が極めて少ない状況

減資により資本金を700万円に減額する場合

  1. 新しい資本金 = 700万円
  2. 減額分 = 300万円
  3. この300万円は「その他資本剰余金」に組み入れられる可能性
  4. その他資本剰余金が増えると、分配可能額が増える

具体的な計算

  • 減資後の資本金:700万円
  • その他資本剰余金:0万円 + 300万円(減資から繰入)= 300万円
  • その他利益剰余金:200万円
  • 自己株式帳簿価額:0万円
  • 新しい分配可能額 = 300万円 + 200万円 = 500万円

ポイント:減資により資本に組み入れられた部分が、配当可能額に変わります。

6.2 準備金の減少

6.2.1 準備金減少の手続

定義:積立てた準備金を、法的に取り崩すこと。

必須決議:株主総会普通決議(会社法448条1項)

なぜ普通決議なのか

  • 準備金は「資本の内部操作」に過ぎない
  • 会社全体の資産が減るわけではない
  • 資本金の減少より、影響が限定的

債権者保護手続は不要

  • 準備金の減少は、会社全体の資産額に影響しない
  • 単に、帳簿上「準備金から利益剰余金へ振替」するだけ

6.2.2 準備金減少による分配可能額の増加

メカニズム

準備金を減少させる

その他資本剰余金またはその他利益剰余金に振替

分配可能額が増加(分配可能額の計算式に「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」が含まれているため)

具体例

  • 現在の準備金:200万円
  • 現在の配当可能額:500万円

準備金200万円を取り崩し、その他利益剰余金に組み入れた場合:

  • 新しい配当可能額 = 500万円 + 200万円 = 700万円

7. 決議の頻度と会計監査人設置会社の特例

7.1 配当回数の制限

配当は「何回までできるか」という制限があります。

7.1.1 原則:年1回(定時株主総会)

標準的な流れ

  1. 会計年度終了(例:3月31日)
  2. 定時株主総会で確定決算を承認(通常は6月)
  3. その利益から配当を決議
  4. 結果として「年1回」配当が実施される

7.1.2 中間配当で複数回可能

複数回配当の仕組み

  • 定款で「中間配当を認める」と規定すれば、決算期中に中間配当を1回以上行える
  • その場合、決算後の通常配当と合わせて「複数回」配当が可能

  • 10月:中間配当(上半期)
  • 3月:決算配当(通期)
  • 合計年2回の配当

7.1.3 会計監査人設置会社の特例

会計監査人設置会社とは

  • 監査役会を置いている大規模会社
  • または監査役と会計監査人を置いている会社

特例の内容(会社法448条5項):

  • 配当回数の制限がなくなる
  • 取締役会決議で中間配当を何度でも実施可能
  • ただし各回の中間配当が分配可能額の上限を超えないこと

なぜこの特例が認められるのか

  • 会計監査人が財務を厳格に監視するため
  • 毎月配当など、より柔軟な配当が可能
  • 資本市場が発達した大規模企業向けの柔軟性

8. 試験で頻出の計算パターン

パターン1:分配可能額の計算と配当額の決定

問題例: 以下の決算書データが与えられた場合、最大配当可能額と配当後の準備金を求めよ。

項目金額
資本金500万円
その他資本剰余金100万円
その他利益剰余金600万円
自己株式帳簿価額50万円
現在の準備金50万円
資本金の1/4125万円

求める:最大配当可能額、配当後の準備金

解法

  1. 分配可能額 = 100万円 + 600万円 - 50万円 = 650万円
  2. 最大配当可能額 = 650万円(分配可能額の全額配当を想定)
  3. 積立準備金 = 650万円 × 1/10 = 65万円
  4. 配当後の準備金 = 50万円 + 65万円 = 115万円
  5. 準備金がまだ125万円(資本金の1/4)に達していないので、積立継続が必要

検算ポイント

  • 配当額(650万円)+ 積立準備金(65万円)= 715万円
  • これが利益剰余金(600万円)を超えていないか確認
  • ここの計算で「赤字になる」場合は、配当額を調整する必要があります

パターン2:減資と分配可能額の変化

問題例: 以下の状況で減資を行った場合の変化を計算せよ。

減資前

  • 資本金:1,000万円
  • その他資本剰余金:0万円
  • 利益剰余金:200万円
  • 自己株式帳簿価額:0万円

減資内容

  • 資本金を800万円に減少
  • 減額分200万円をその他資本剰余金に組み入れ

求める:減資後の分配可能額

解法

  1. 減資後の資本金 = 800万円
  2. その他資本剰余金 = 0万円 + 200万円(減資から繰入) = 200万円
  3. その他利益剰余金 = 200万円(変わらず)
  4. 自己株式帳簿価額 = 0万円
  5. 減資後の分配可能額 = 200万円 + 200万円 - 0万円 = 400万円

ポイント

  • 減資前の分配可能額 = 0万円 + 200万円 = 200万円
  • 減資後の分配可能額 = 400万円
  • 減資により、配当可能額が倍になった(減額分が資本から外されたため)

パターン3:新株発行による資本構成の変化

問題例: 以下の新株発行により、資本構成がどう変わるか計算せよ。

現在の状況

  • 資本金:500万円
  • 発行済み株式数:100株
  • 1株当たり帳簿価額:5万円(500万円 ÷ 100株)

新株発行内容

  • 新株100株を1株当たり150万円で第三者割当
  • 全額を資本金に組み入れ

求める:新株発行後の資本金、1株当たり帳簿価額の変化

解法

  1. 新株発行額 = 100株 × 150万円 = 15,000万円
  2. 新株発行後の資本金 = 500万円 + 15,000万円 = 15,500万円
  3. 発行済み株式数 = 100株 + 100株 = 200株
  4. 新しい1株当たり帳簿価額 = 15,500万円 ÷ 200株 = 77.5万円/株

ポイント

  • 発行前の1株当たり価値:5万円
  • 発行後の1株当たり価値:77.5万円
  • 新株発行は資本を厚くするが、既存株主の持株価値(1株当たり価値)は上昇します
  • これは「利益性の高い資金調達」(高額の第三者割当)の効果

9. 典型的なつまずき

つまずき1:「新株発行=有利発行」と思い込む

誤り:すべての新株発行が「有利発行」で、特別決議が必要と考える

正解

  • 公開会社:新株発行は原則として取締役会決議で可能(有利発行は株主総会特別決議が必要)
  • 非公開会社:新株発行は原則として株主総会特別決議が必要(有利発行かどうかを問わず)
  • 「有利発行」(時価より著しく低い価額)は公開・非公開を問わず特別決議が必要

対策

  • 問題文から「発行価額」「公正価値」「著しく低い」などのキーワードを探す
  • 「有利な条件で」「低額で」などの表現があったら有利発行を疑う

試験での出題例

  • 「1株当たり1,000円で100株を発行。当時の株価は900円。これは有利発行か?」 → 答え:「著しく低い」の判定基準による(通常は有利発行ではない)
  • 「1株当たり500円で100株を発行。当時の株価は1,000円。これは有利発行か?」 → 答え:「50%低い」は著しく低いと判定されやすい(有利発行)

つまずき2:配当と資本増加を混同する

誤り:新株発行で得た資金も「配当と同じく利益から拠出」と考える

正解

  • 新株発行は「資本を増やす」行為(新しいお金が入ってくる)
  • 配当は「利益を分配する」行為(既に会社が持っている利益を配る)
  • メカニズムが全く異なる

対策

  • 新株発行と配当を「別の流れ」として整理する表を作成
  • 新株発行 → 貸借対照表の「資本の部」が増加
  • 配当 → 貸借対照表の「資本の部」が減少

つまずき3:差止め請求と無効の訴えを混同する

誤り:「新株発行が違法なら、いつでも無効にできる」と考える

正解

  • 差止め請求:発行前に差し止める(期限に制限なし、ただし通知が必要)
  • 無効の訴え:発行後、6か月(公開)または1年(非公開)以内に訴える
  • 期限を超えたら:訴えは棄却される(無効であっても救済されない)

対策

  • 「発行日から起算」することを常に確認
  • 「差止め請求は発行前」「無効訴訟は発行後」と色分けして理解

試験での頻出パターン

  • 発行日から7か月後に無効訴訟 → 公開会社なら棄却(6か月超過)

つまずき4:準備金積立義務を忘れる

誤り:配当額がそのまま株主に全額分配されると考える

正解

  • 配当額の1/10を準備金として積立
  • 実際の分配額 = 配当額 - 積立準備金
  • ただし準備金が資本金の1/4に達したら以降不要

対策

  • 配当額の計算問題では「積立準備金」の計算を必ず含める
  • 「配当額 × 1/10」を毎回計算する習慣

試験での出題例

  • 「配当額1,000万円の場合、実際の株主への支払額は?」 → 正解:900万円(積立準備金100万円を除く)

つまずき5:非公開会社の決議要件を誤解する

誤り:「非公開会社では、通常の新株発行(有利発行でない場合)は普通決議で足りる」と思う

正解

  • 非公開会社では、通常の新株発行も含め、原則として株主総会の特別決議が必要(会社法199条2項・309条2項5号)
  • 有利発行の場合は、特別決議に加えて「特に有利な金額で募集する理由の説明」義務が課される
  • 公開会社とは異なる。公開会社は取締役会決議で足り、有利発行のみ特別決議が必要

対策

  • 非公開会社の問題では「特別決議が原則」と覚える
  • 「有利発行か否か」は有利発行の説明義務が加わるかどうかの分岐点
  • 公開会社と非公開会社の区別を最初に確認する習慣をつける

10. 問題を解くときの観点

観点1:資金調達 vs 配当の区分

チェック項目

  • 会社が「お金を集めている」か「利益を配っている」か
  • 新株発行・社債→資金調達(新しいお金が入ってくる)
  • 配当→利益配分(既に会社が持っているお金を配る)

応用

  • 複合問題で「新株発行と配当の両方」が出たら、順序を整理する
  • (新株で資金を増やす → その後配当を実施)

観点2:決議要件の判定フロー

新株発行・配当の決議要件は?

「有利発行か」「新株予約権か」「社債か」を確認

有利発行 → 特別決議
新株予約権 → 特別決議
社債(CB・新株予約権付社債) → 特別決議

その他の新株発行・普通配当 → 普通決議
中間配当 → 普通決議

準備金の取り崩し → 普通決議(簡易)

資本金の減少 → 特別決議 + 債権者保護手続

観点3:計算問題での検算ポイント

配当・準備金・分配可能額の計算では:

  1. 分配可能額を先に計算
    • その他資本剰余金 + その他利益剰余金 - 自己株式
  2. 配当額の上限確認
    • 分配可能額以下か
  3. 準備金積立の計算
    • 配当額 × 1/10
    • ただし準備金が資本金の1/4に達したら不要
  4. 配当後の残額確認
    • 配当と準備金の合計が利益剰余金を超えないか
    • 赤字になる場合は配当額を調整

観点4:期限制限の確認

新株発行に関する訴えの期限:

  • 差止め請求:払込期日(発行の効力発生日)前のみ可能(特定の期間制限なし)
  • 無効の訴え(公開):発行日から6か月以内
  • 無効の訴え(非公開):発行日から1年以内
  • 不存在確認の訴え:期限なし(発行が存在しないため)

問題文に「いつ訴えたか」が書いてあったら、必ず期限を確認。


11. 確認問題

確認問題1:分配可能額と配当額の計算

Aさんが代表取締役を務める非公開会社の決算書(単位:万円)は以下のとおり。

  • 資本金:2,000
  • その他資本剰余金:300
  • その他利益剰余金:1,500
  • 自己株式帳簿価額:100
  • 現在の準備金:250(資本金の1/4は500万円)

この会社の株主総会で、最大限の配当を行うことを決議した場合:

  1. 分配可能額はいくらか
  2. 配当額の最大値はいくらか
  3. 配当後の準備金はいくらか
  4. 配当後の利益剰余金残額はいくらか

答え

  1. 分配可能額 = 300 + 1,500 - 100 = 1,700万円
  2. 配当額最大 = 1,700万円
  3. 積立準備金 = 1,700 × 1/10 = 170万円、配当後准備金 = 250 + 170 = 420万円(資本金の1/4未満なので積立継続)
  4. 配当後利益剰余金 = 1,500 - 1,700 + 170 = -30万円(赤字状態になるため、実際には減資を検討すべき状況)

確認問題2:有利発行と決議要件

Bさんが会長を務める非公開会社が、現在の株価1,000円に対して、従業員Cさんに100株を500円で取得できるストックオプション(新株予約権)を付与しようとしている。

  1. このストックオプションは有利発行に該当するか
  2. この新株予約権の発行に必要な決議は何か
  3. 仮に定款で「ストックオプションの発行は取締役会決議で足りる」と定めていた場合、その定款条項は有効か

答え

  1. 有利発行に該当する。行使価額500円が現在の株価1,000円より50%低いため、「明らかに有利な条件」
  2. 株主総会の特別決議が必要(有利発行のため)
  3. その定款条項は無効。有利発行の場合、特別決議は会社法の強行規定であり、定款で「普通決議で足りる」などと変更することはできない

確認問題3:新株発行の手続と救済手段

Dさんが代表を務める公開会社が、発行可能株式総数1,000万株の枠内で新株500万株を1株500円で第三者割当により発行することを決議した(取締役会決議で可決)。ただし、有利性の判定がなされず、実際には当時の株価は1,000円であった。

  1. この新株発行は有利発行か
  2. 株主Eさんが、発行日の前日に差止め請求の訴えを提起した。この訴えは有効か
  3. 株主Eさんが、発行日から7か月後に無効の訴えを提起した場合、この訴えは認められるか
  4. もし新株が既に発行されていて、その後に新しい投資家Fさんが善意で当該新株を取得していた場合、無効判決が出た後の取り扱いはどうなるか

答え

  1. 有利発行に該当する。発行価額500円が当時の時価1,000円の50%であり、「著しく低い価額」にあたるため
  2. 有効。払込期日の前日に提起しているため、差止め請求が機能する(発行効力発生前)。ただし、訴え提起の通知が会社に到達することが必要
  3. 無効の訴えは棄却される。公開会社の場合、発行の効力が生じた日から6か月以内に限定されているため(7か月後では期限超過)
  4. 善意で取得した第三者Fさんの株主としての権利は保護される可能性がある(判例通説による制限)。完全な無効ではなく、限定的な救済がなされる可能性

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このページの役割学習のポイント試験で何が問われるか計算書類の備置と閲覧なぜ備置が必要か試験で押さえるべき実務イメージ備置制度で見落としやすい点1. 資金調達の三本柱:新株発行 vs 新株予約権 vs 社債位置づけの違い各手段の使い分けの視点2. 新株発行(募集株式の発行)の完全体系2.1 発行方法の三分類2.1.1 株主割当(既存株主への割当)2.1.2 第三者割当(特定者への割当)2.1.3 公募(広く一般から募集)IPO と上場審査:形式基準と実質基準2.2 有利発行(特別な価額での発行)の判定と決議要件2.2.1 有利発行とは2.2.2 有利発行時の決議要件:特別決議2.2.3 非公開会社における新株発行決議2.3 新株発行の手続的制限:差止めと無効訴訟2.3.1 差止め請求(会社法210条)2.3.2 新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)2.3.3 不存在確認の訴え(会社法829条)3. 新株予約権とストックオプション3.1 新株予約権の法的性質3.2 ストックオプション:典型的用途3.3 ストックオプション(新株予約権)の発行決議要件3.3.1 原則:特別決議3.3.2 有利発行としての扱い3.4 令和元年改正:金銭払込みなし株式報酬3.4.1 改正の背景と内容3.4.2 具体的な仕組みの比較4. 社債(会社法で押さえるべき論点)4.1 社債の種類と比較表4.2 普通社債:基本形4.3 転換社債型新株予約権付社債(CB)4.4 新株予約権付社債(ワラント債)4.5 少人数私募債(いわゆる「プライベートローン」)5. 剰余金配当:制限と計算5.1 配当とは何か5.2 分配可能額(配当できる上限)5.2.1 分配可能額の計算式5.2.2 実例計算5.3 準備金の積立義務5.3.1 積立額の計算5.3.2 積立準備金の役割5.3.3 実例:準備金積立の流れ5.4 中間配当(決算期中の配当)5.4.1 中間配当の定義と要件5.4.2 中間配当可能額5.4.3 試験での出題パターン6. 資本金・準備金の変動6.1 資本金の減少(減資)6.1.1 減資とは6.1.2 減資の決議要件6.1.3 債権者保護手続6.1.4 減資の計算例6.2 準備金の減少6.2.1 準備金減少の手続6.2.2 準備金減少による分配可能額の増加7. 決議の頻度と会計監査人設置会社の特例7.1 配当回数の制限7.1.1 原則:年1回(定時株主総会)7.1.2 中間配当で複数回可能7.1.3 会計監査人設置会社の特例8. 試験で頻出の計算パターンパターン1:分配可能額の計算と配当額の決定パターン2:減資と分配可能額の変化パターン3:新株発行による資本構成の変化9. 典型的なつまずきつまずき1:「新株発行=有利発行」と思い込むつまずき2:配当と資本増加を混同するつまずき3:差止め請求と無効の訴えを混同するつまずき4:準備金積立義務を忘れるつまずき5:非公開会社の決議要件を誤解する10. 問題を解くときの観点観点1:資金調達 vs 配当の区分観点2:決議要件の判定フロー観点3:計算問題での検算ポイント観点4:期限制限の確認11. 確認問題関連ページ