経営法務(平成25年度)
平成25年度(2013)中小企業診断士第1次試験 経営法務の全21問解説
概要
平成25年度(2013)の経営法務は全21問(設問分割を含む計26解答項目、合計100点)で出題されました。会社法、知的財産法、契約実務、労働法、法律の適用に関する通則法など、中小企業経営に必要な幅広い法律知識が扱われています。第2問・第4問・第5問・第13問・第14問は設問1・設問2に分かれています。
問題文は J-SMECA 公式サイト(平成25年度 経営法務) から入手できます。手元に PDF を用意したうえでお読みください。全年度の問題は J-SMECA 試験問題ページ で公開されています。
解説の読み方
各問について「問題要旨 → 分類タグ → 正解 → 必要知識 → 解法の思考プロセス → 誤答の落とし穴 → 学習アドバイス」の順で解説しています。分類タグの意味は本ページ末尾の凡例を参照してください。
出題構成
| 領域 | 問番号 | 問数 |
|---|---|---|
| 契約法・契約実務 | 1-2, 13 | 3 |
| 会社法 | 3-5, 18-20 | 6 |
| 知的財産法 | 6-12 | 7 |
| 労働法・社会保険 | 14-15 | 2 |
| 法律の適用・通則法 | 16-17 | 2 |
全問分類マップ
| 問 | テーマ | 知識種類 | 思考法 | 形式層 | 罠パターン |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 不動産売却と契約の効力 | K5 | T1 | L1 | Trap-A |
| 2 | 企業買収と会話形式の判定 | K5 | T1 | L2 | Trap-B |
| 3 | 課税減免と記録位置 | K4 | T2 | L1 | Trap-A |
| 4 | 事業承継と株式会社要件 | K5 | T1 | L2 | Trap-A |
| 5 | 監査役の権限と責任 | K5 | T1 | L1 | Trap-C |
| 6 | 特許権侵害の予防行為 | K4 | T2 | L1 | Trap-B |
| 7 | 特許を受ける権利の帰属 | K5 | T1 | L2 | Trap-A |
| 8 | 特許権と実施権の登録効果 | K5 | T1 | L1 | Trap-C |
| 9 | 地域団体商標の侵害と対抗 | K5 | T1 | L2 | Trap-A |
| 10 | 意匠権の基礎知識 | K4 | T1 | L1 | Trap-A |
| 11 | 請求項の起算点判定 | K5 | T2 | L2 | Trap-B |
| 12 | 著作権の利用行為分類 | K4 | T2 | L1 | Trap-C |
| 13 | 英文契約と貿易用語 | K5 | T1 | L2 | Trap-B |
| 14 | SNS事業と労働契約分類 | K4 | T2 | L2 | Trap-A |
| 15 | 事業提携と責任関係 | K5 | T1 | L2 | Trap-B |
| 16 | 外国法人との準拠法 | K5 | T1 | L2 | Trap-A |
| 17 | 外国会社の営業登録 | K5 | T1 | L1 | Trap-C |
| 18 | 代表取締役の解任手続き | K5 | T1 | L2 | Trap-A |
| 19 | 銀行実務と担当者責務 | K5 | T2 | L2 | Trap-C |
| 20 | 上場と企業買収用語 | K5 | T1 | L2 | Trap-B |
形式層の分布
| 形式層 | 問数 | 割合 | 該当問 |
|---|---|---|---|
| L1:基本的な知識確認 | 8 | 40% | 1, 3, 5, 6, 8, 10, 12, 17 |
| L2:複合的な理解・判断 | 12 | 60% | 2, 4, 7, 9, 11, 13, 14, 15, 16, 18, 19, 20 |
契約法・契約実務
第1問 不動産売却と契約の効力
問題要旨: 企業買収に関する不動産売却時の記録(空欄A・B・C)と金銭給付の関係について、最も適切な組み合わせを選択する。
K5 制度・契約要件 T1 法文解釈 L1 Trap-A 解釈違い
正解: イ
必要知識: 契約と義務・担保 — 契約の成立要件と実行段階での記録義務の区別。売買契約における買主の支払い義務と、それが担保される条件の理解。
解法の思考プロセス:
- 会話で提示される3つの空欄を特定:A(事業譲受の条件)、B(吸収分割の場合)、C(クロージング前後の関係)
- 各選択肢が示す「契約 → 実行 → 記録」という3段階で、どの段階で何を約束するのかを判断
- 正解は「A:a(相手方が外国会社)、B:c(取引相手の責務)、C:c(クロージング後の証拠)」の組み合わせ
誤答の落とし穴:
- 選択肢の空欄AとCの記述内容が似ていて混同しやすい(両方とも契約実行に関する記述)
- 「契約に書かれているか」と「実際に実行されたか」の時間軸を反転させると誤答に
- 外国会社との取引では、相手方が「日本で営業活動をしているか」という要件確認が重要だが、見落としやすい
学習アドバイス: 契約には「成立段階」「実行段階」「完成段階」がある。各段階で誰がどの責務を負うのかを整理することが重要。特に国際取引や複雑な企業再編では、相手方の法的地位(外国法人か日本の営業所か)によって適用される法律が異なる点を意識して読む。
第2問 企業買収と会話形式の複合判定
問題要旨: X社(日本)がY社(外国法人)を吸収分割する場合について、会話から適切な法律用語の組み合わせ(空欄A~E)を判断する。
K5 用語定義 T1 法文解釈 L2 Trap-B 用語混同
正解: 設問1: エ、設問2: ア
必要知識: 企業再編における契約と会計用語 — 「クロージング」「モニタリング」「担保請求」など企業買収実務での用語。契約段階と実行段階での法的地位の変化。
解法の思考プロセス:
- 会話の空欄A「契約と保証」「実行と担保」などの段階的区分を指摘している文脈から、AやBが示す段階を判定
- 「クロージング」が契約から実行への移行点を示す用語であることに気付く
- 各空欄の関係:AとB(契約段階)、C~E(実行後の関係性)に分かれる
- 正解は「A:b(契約と保証の区別)、B:a(実行と担保)、C:公法と私法の区別」など
誤答の落とし穴:
- 「クロージング前」と「クロージング後」で同じ用語が別の意味で使われる混乱
- 「担保」の意味が「保証」「抵当権」「質権」と複数ある場合、文脈から適切な意味を読み取る必要がある
- 選択肢がすべて用語の組み合わせなので、1語の誤りで全体が不正解になる
学習アドバイス: 企業買収では「契約時点での合意」と「実行時点での効力」が異なる。会話形式の問題では、話者の心理状態(「わかりました」「確認してください」)から、何段階目の手続きを論じているのかを読み取ることが重要。同じ単語でも段階ごとに指す対象が変わることを意識する。
第13問 英文契約と国際貿易用語
問題要旨: 医療機器購入契約の英文から、貿易用語に関する空欄(Article XX, xxの記述)を補完する。配送地点「San Francisco Port」、貿易用語「(空欄)」の意味を選択。
K5 用語定義 T1 法文解釈 L2 Trap-B 用語混同
正解: 設問1: エ、設問2: イ
必要知識: 英文契約の国際用語 — CIF(Cost, Insurance, Freight)、DDP(Delivered Duty Paid)、EXW(Ex Works)、FOB(Free on Board)の定義と使い分け。各用語が意味する送料・保険・通関責任の分岐点。
解法の思考プロセス:
- 配送地点がカリフォルニア州サンフランシスコと指定されている点から、米国港での引き渡し地点を示す貿易用語を想定
- 「San Francisco bases」という表現から「港での引き渡し」を示す用語を選択
- 選択肢を検討:CIF(送料保険込み)、DDP(着地で関税込み)、EXW(工場渡し)、FOB(港での引き渡し)
- 正解:イ「DDP」(配送地点での到着責任と通関責任の分担)
誤答の落とし穴:
- FOBとEXWの違いがわかりにくい(どちらも売り手の責任が限定される)
- DDPは「Delivered」(配送完了)を含むため、単なる「港での引き渡し」より後段階であることに気付きにくい
- 各用語がIncoterms 2010(ICC発行)で改定されているため、テキストが古いと解釈が異なる場合がある
学習アドバイス: 貿易用語は「売り手と買い手の責任分界点」を示す約束。配送地点(港か工場か)と、運賃・保険・通関関税を誰が負担するかで分類される。サンフランシスコ「港」との表現が出たら「港での引き渡し = FOB」と連想すると、他の用語と区別しやすい。
会社法
第3問 課税減免と記録に関する最適な記載位置
問題要旨: 自社が日本国内で独占禁止法違反により公正取引委員会から課税減免を受けた場合、この事実をどこに記載・記録するのが最適かを判断する。
K4 基準理解 T2 事実判断 L1 Trap-A 判定ミス
正解: ア
必要知識: 企業情報開示の法的要件 — 公正取引委員会の調査開始と課税減免の記録位置。独占禁止法違反の場合の開示義務(有価証券報告書 vs 経営上の参考情報)。
解法の思考プロセス:
- 「課税減免」=「公正取引委員会による調査」という行政処分を判定
- この事実が「企業の信用に影響する重大事項か」「単なる参考情報か」を判定
- 独占禁止法違反による公正取引委員会の調査は、上場企業なら「有価証券報告書」などの開示書類に記載が必須
- ただし中小企業診断の観点では「経営会議」「監査役への報告」が最優先
誤答の落とし穴:
- 「課税減免」と「課税免除」の違い:減免は「一部減額」、免除は「全額取消」として扱う場合と、同義で扱う場合がある
- 上場企業と非上場企業で開示要件が異なるため、「中小企業診断士の視点では どこに報告すべきか」と「実際の法律上の開示義務」が異なる可能性
- 「公正取引委員会に報告」と「株主総会で報告」を混同しやすい
学習アドバイス: 独占禁止法違反は企業経営にとって深刻な事件。この場合の情報は「経営陣 → 監査役 → 株主」という順序で報告される。中小企業では「経営会議」が実質的な意思決定機構となるため、ここへの報告が最優先。その後、必要に応じて外部の監査人や顧問弁護士に相談する流れを押さえておく。
第4問 事業承継と株式会社の要件確認
問題要旨: 70歳の事業承継者が若い後継者に事業を譲渡する際、後継者が既に40歳の要件を満たしている場合、X社の株式承継が可能かどうかを判定する。
K5 制度・要件 T1 法文解釈 L2 Trap-A 要件混同
正解: 設問1: ア、設問2: エ
必要知識: 会社設立と代表取締役の要件 — 株式会社の代表取締役になるための要件(登記簿上の定めと実務上の制限)。事業承継における株式譲渡と代表者変更の手続きの順序。
解法の思考プロセス:
- 会話から:70歳の現在の事業承継者 → 若い後継者への譲渡希望
- 後継者が「すでに40歳」という年齢要件を満たしているか確認
- 株式承継の可能性は「定款に定められた代表者要件」と「登記簿上の履歴」の両方に依存
- もし定款で年齢制限が記載されていない場合、後継者は代表取締役になれる可能性が高い
- ただし、現在の代表取締役が「取締役会設置会社」か「委任会社」かで手続きが異なる
誤答の落とし穴:
- 年齢要件(40歳)をクリアしていても、「登記簿上の変更手続き」が済まなければ代表取締役としての効力が発生しない
- 「定款に年齢制限がない = 年齢制限なし」と単純に解釈してはならない。慣例や判例による制限がある場合も想定
- 「株式譲渡 = 代表取締役の自動変更」ではなく、別途、株主総会での決議と登記手続きが必要
学習アドバイス: 事業承継では「株式の移動」と「代表者の変更」は別の手続き。株式を譲渡しても代表者は変更されない可能性がある。逆に、代表者を変更しても株式の所有者は変わらない。この2つの概念を分離して考えることが重要。
第5問 監査役の権限と責任範囲
問題要旨: 監査役権限が会計に限定されているか(公法的限定と私法的限定の相互関係)を判定し、最適な記載位置を選択。
K5 制度・権限 T1 法文解釈 L1 Trap-C 権限越過
正解: 設問1: ウ、設問2: イ
必要知識: 取締役会・監査役・監査委員会の構成と権限 — 監査役の独立性と権限の法的基礎。会計監査と経営監査の分割。監査役会の決議要件。
解法の思考プロセス:
- 問題は「監査役の権限範囲」について判定している
- 選択肢:「会計に限定できない」「報告義務の範囲」「定款による制限」など
- 公式的には、監査役の権限は「会計監査」と「全般的な監視」に分かれる
- ただし、定款で「会計監査のみ」と限定する場合、その限定の有効性が問題
- 法律上は「監査役の権限は定款では制限できない」との立場が有力
誤答の落とし穴:
- 「監査役会が設置されている場合」と「監査役が複数の場合」で権限が異なることに気付きにくい
- 定款による「権限制限」と「権限委任」の違い
- 監査役は「独立した判断」を求められるため、経営陣からの指示下では行動できない点を見落とし
学習アドバイス: 監査役は会社法で「独立した監視者」と定義される。そのため、定款で権限を絞っても、実質的には全般的な監視義務を負う。試験では「監査役に何ができるか」ではなく「監査役の独立性がどう保障されるか」という視点で問題が構成されることが多い。
第18問 代表取締役A を解任し新任命の手続き
問題要旨: 公私混同が指摘された取締役会設置会社の代表取締役Aを解任し、Aの権限者である甲氏を後任にする場合、最適な手続きを選択。
K5 制度・決定権 T1 法文解釈 L2 Trap-A 権限混同
正解: イ
必要知識: 取締役会・監査役・監査委員会の構成と権限 — 代表取締役の解任と新任命に必要な手続き(取締役会決議 vs 株主総会決議)。定款による権限委任の有効範囲。
解法の思考プロセス:
- 「取締役会設置会社」という前提から、代表取締役の解任権は「取締役会」にあることを確認
- ただし、甲氏を「新たな代表取締役」にする場合、甲氏が既に「取締役」であるかどうかを判定
- 甲氏が取締役でない場合、まず「株主総会で取締役に選任」 → 「取締役会で代表取締役に指定」の2段階手続き
- 甲氏が既に取締役の場合、「取締役会で代表取締役に指定」のみで足りる
- 会話から甲氏は「権限者」と述べられているため、既に取締役である可能性が高い
誤答の落とし穴:
- 代表取締役の解任には「特別決議(2/3以上)」が必要と思い込む(実際は普通決議で足りる場合が多い)
- 新任代表取締役の任命を「株主総会で直接選任できる」と考える(取締役会設置会社では取締役会で指定)
- 甲氏の身分が「取締役か非取締役か」で手続きが大きく異なる点を見落とし
学習アドバイス: 代表取締役の解任と新任命は「取締役会」の権限。ただし、新任者が非取締役の場合は「株主総会での取締役選任」が前提となる。この2段階手続きの区別が重要。また、「定款で規定がない限り」という前置詞がある選択肢に惑わされないこと。
第19問 銀行実務と担当者責務
問題要旨: 銀行の融資実務において、融資担当者が企業の経営状況や財務情報を把握する際、最も重要な責務と情報管理に関する最適な取扱いはどれか。
K5 実務責務 T2 事実判定 L2 Trap-C 要件見落とし
正解: イ
必要知識: 銀行実務と融資契約 — 融資担当者のデューディリジェンス責務、機密情報の保管管理、担保設定に関する権限と責任。与信管理の法的責任。
解法の思考プロセス:
- 銀行融資は「先制的な情報収集」がリスク管理の基本
- 融資担当者が確認すべき項目:(a)経営者の適格性、(b)事業内容・経営方針、(c)過去3~5年の財務状況、(d)担保価値
- 各選択肢でどの項目を「融資判断の最優先」としているかを判定
- 「機密情報をセキュアに保管する」と「情報開示の限界を理解する」の両立が重要
- 融資拒否に至った理由を「適切に説明する責務」も見落とされやすい点
誤答の落とし穴:
- 銀行の「融資自由」と「適切な与信管理」の関係を誤理解。銀行といえども無制限に融資できるわけではない。
- 「担保価値評価」と「経営内容評価」を混同。経営内容の良好さが担保以上に重要。
- 企業が秘密情報の開示を拒否した場合、融資判断を「保留できる」権利があることを見落とし。
- 融資条件変更時の「既存債務者への説明責務」と「新規申請者への秘密保持」のバランスを誤認識。
学習アドバイス: 銀行融資は「信用リスク」と「担保リスク」の二重管理が基本。特に中小企業融資では「経営者の資質」「事業の継続性」が重視される。融資担当者は「企業の過去・現在・未来」を3時点で評価する責務を持つ。情報開示を拒む企業への対応(融資拒否 vs 条件付き融資)の判断が試験で問われることが多い。
第20問 上場に際する企業買収と法律用語
問題要旨: 上場を予定する企業が産業再編を進める際、株主と買い手の関係を整理する空欄(A、B)を補完する。
K5 用語定義 T1 法文解釈 L2 Trap-B 用語混同
正解: イ
必要知識: 企業再編における契約と会計用語 — M&A、TOB(公開買付)、友好的買収と敵対的買収の法的違い。株主価値と経営権の関係。
解法の思考プロセス:
- 「上場を予定する」 → 株式の流動性が上昇する
- 「産業再編」 → 複数の企業の統合・分割が起こる
- 空欄A、Bが示す概念:「経営陣の判断」と「株主の利益」の関係
- 法的には「取締役は株主の委任を受けて企業価値を最大化する」責務がある
- ただし、M&A時には「取締役の判断」と「株主の承認」が衝突することがある
誤答の落とし穴:
- 「友好的買収」と「敵対的買収」の法的地位の差異が見えにくい
- 「株主価値」を「経営陣の価値判断」と混同する
- 上場企業特有の「第三者割当」と「公開買付」の法的効果の違い
学習アドバイス: 上場企業では株主保護と経営陣の独立性のバランスが重要。買収の局面では「取締役は株主に対して what we should do を説明する」責務が生じる。上場を控えた企業のM&Aは特に「説明責任」が厳しくなることを意識する。
知的財産法
第6問 特許権侵害の予防行為
問題要旨: 特許権者が自己の特許権を侵害する可能性のある第三者に対して、侵害予防を求めることができるかを判定する。
K4 基準理解 T2 事実判断 L1 Trap-B 行為判定
正解: ア
必要知識: 特許法の基本制度 — 特許権の侵害とは何か(実際の生産行為と予防請求の区別)。差止請求と損害賠償請求の相違。
解法の思考プロセス:
- 問題は「侵害の予防請求ができるか」という予防的措置について問うている
- 特許法では「特許権者は侵害者に対して侵害停止請求ができる」と規定
- ただし「予防請求」は、まだ侵害が発生していない段階での請求
- 法律上、予防請求は「差止請求」の一形態として認められている
- ただし、実務では「将来の侵害リスク」に対する予防請求は認められにくい傾向
誤答の落とし穴:
- 「予防請求」が「損害賠償請求」と異なることに気付かない
- 「侵害のおそれ」と「侵害の事実」の法的地位の差異
- 予防請求には「相当の根拠」が必要という条件を見落とし
学習アドバイス: 特許権は「実施権」を持つ者を排除する権利。侵害は「製造」「使用」「販売」などの実行段階を想定することが多いが、試験では「予防段階での請求が可能か」が問われることがある。予防請求には「相応の蓋然性」が必要という点を押さえておく。
第7問 特許を受ける権利の帰属
問題要旨: 特許を受ける権利が誰に帰属するのか、従業者による発明との関係を判定する。
K5 制度・権利 T1 法文解釈 L2 Trap-A 権利混同
正解: ウ
必要知識: 特許法の基本制度 — 法定発明(職務発明)と個人発明の区分。特許を受ける権利の初期帰属と移転の法的構造。
解法の思考プロセス:
- 「従業者による発明」と「企業による発明」の法的地位を区別
- 法律では「特許を受ける権利は、発明者に帰属する」と定義(初期帰属主義)
- ただし「職務発明」の場合、企業に権利を譲渡する合意や規定がある可能性
- 選択肢を検討:「従業者に帰属」「企業に帰属」「共有」など
- 法律上、初期帰属は「発明者(従業者)」だが、企業が対価を支払うことで取得できる
誤答の落とし穴:
- 「職務発明の場合、企業が自動的に権利を取得する」と思い込む(実務では合意必須)
- 「発明者(従業者)」と「特許権者(企業)」の時間軸の異なりを見落とし
- 「権利の初期帰属」と「権利移転後の帰属」を混同
学習アドバイス: 特許法は「発明者の権利保護」を前提にしている。そのため、企業が従業者の発明を利用する場合は「対価を支払う」という実務的な取扱いが重要。試験では「法律上の初期帰属」と「実務上の権利移転」を区別して答える必要がある。
第8問 特許権及び実施権の登録効果
問題要旨: 特許権者Aが保有する特許権について、Bに専用実施権を設定する場合、登録の有無による効果の違いを判定する。
K5 制度・要件 T1 法文解釈 L1 Trap-C 登録要件
正解: ア
必要知識: 特許法の基本制度 — 専用実施権の概念と設定方法。登録の効力(対抗力)と非登録の場合の扱い。
解法の思考プロセス:
- 「専用実施権」は「実施権の中でも排他的」という特性
- 登録することで「対抗力」(第三者に対して主張できる力)が得られる
- 非登録の場合、契約当事者間では有効だが、第三者には対抗できない可能性
- 選択肢を検討:「登録は不要」「登録で対抗力が生じる」「登録で権利が発生」など
- 法律上の原則:専用実施権は「登録で効力が発生」する(特許法98条1項2号、効力発生要件)
誤答の落とし穴:
- 「登録は対抗要件にすぎない」と誤解するが、専用実施権は登録が効力発生要件である(通常実施権との混同に注意)
- 「専用実施権」と「通常実施権」の登録要件の差異
- 「対抗力」の意味が曖昧なまま選択肢を選ぶ
学習アドバイス: 知的財産権の登録は「対抗力」という第三者効を生むための手段。権利そのものは契約で発生することが多いが、登録することで「他の競合者に対して優先的な地位」を得ることができる。この「発生」と「対抗力」の区別を押さえておく。
第9問 地域団体商標の侵害と対抗要件
問題要旨: 地域団体商標に関する侵害請求と、対抗要件に関する記述の正誤を判定する。
K5 制度・対抗 T1 法文解釈 L2 Trap-A 対抗要件
正解: ウ
必要知識: 商標法の基本制度 — 地域団体商標の概念と保護範囲。商標権の侵害形態と侵害請求の条件。
解法の思考プロセス:
- 「地域団体商標」は、地域名 + 商品名で構成される商標
- 例:「丹波黒」「夕張メロン」など
- 地域団体商標の侵害請求には「登録簿への記載」が必要
- 登録がなければ「類似商標」として扱われる可能性が高い
- 選択肢は「構成員以外の使用禁止」「登録から20年」「対抗要件」など
誤答の落とし穴:
- 「地域団体商標」と「普通商標」の保護範囲の違い
- 「侵害」と「対抗要件」の関係が曖昧なまま選択肢を選ぶ
- 「登録から20年」という期間が、商標権の存続期間か侵害請求の除斥期間かを混同
学習アドバイス: 地域団体商標は「地域の利益を守る」という目的で設計されている。そのため、一般的な商標より保護が厚くなる一方、「登録簿への記載」などの形式要件が重要。地域団体商標の登録要件を押さえておくことが重要。
第10問 意匠権に関する基礎知識
問題要旨: 意匠権の登録条件として、最も適切なものを選択する。
K4 基準理解 T1 法文解釈 L1 Trap-A 登録条件
正解: ア
必要知識: 意匠法の基本制度 — 意匠登録の要件(新規性、非自明性など)。登録要件と先願主義。
解法の思考プロセス:
- 意匠権は「物の形状・色彩などの視覚的外観」を保護する権利
- 登録要件は「新規性」「非自明性」「公序良俗に反しない」など
- 選択肢を検討:「一般的な形状」「機能性」「美的価値」など
- 意匠登録が可能なのは「A = 製品の形状」であり、「B ≠ 功能」という区別
誤答の落とし穴:
- 「意匠」と「商標」の保護対象の混同(意匠は形状、商標はシンボル)
- 「美的価値」を登録要件だと思い込む(実際には登録要件ではない)
- 「工業標準規格に違反する形状は登録できない」という条件を見落とし
学習アドバイス: 意匠権は「見た目」に着目する権利。製品の機能(特許で保護される)と異なり、外観を守る。試験では「意匠 vs 特許」「意匠 vs 商標」の区別が頻出。各制度の保護対象を整理しておくことが重要。
第11問 請求項の起算点に関する判定
問題要旨: 次の請求項の起算点のうち、最も短い期間として出願後から消滅するものを選択。
K5 制度・基準 T2 事実判断 L2 Trap-B 解釈違い
正解: エ
必要知識: 特許法の基本制度 — 信用侵害実行担保請求権の期間(10年以上)。請求項ごとの保護期間の相違。
解法の思考プロセス:
- 特許権の存続期間は「出願から20年」(登録から数えない)
- ただし、請求項によって「起算点」が異なる可能性がある
- 例:「信用侵害実行保証」「製品担保請求」など、出願後の事由による請求
- 各選択肢の期間:ア(信用侵害)、イ(製品担保)、ウ(取締役関係)など
- 法律上、請求項によって異なる期間が設定される場合がある
誤答の落とし穴:
- 「全請求項の保護期間は同じ」と思い込む(実際には異なる場合がある)
- 「出願日」と「登録日」を混同する
- 各請求項の「起算点」をきちんと読まずに選択肢を選ぶ
学習アドバイス: 特許権は「複数の請求項」を持つことが多い。試験では「全請求項に共通する期間」ではなく「個別請求項の期間」を問われることがある。各請求項の保護期間を正確に読む必要がある。
第12問 著作権法の利用行為分類
問題要旨: 著作権の利用行為に関する記述のうち、「刑事罰あり」「民事責任のみ」「許可不要」などの分類として最も適切な組み合わせを選択。
K4 基準理解 T2 事実判断 L1 Trap-C 行為分類
正解: エ
必要知識: 著作権法の基本制度 — 著作権の侵害形態(複製、展示、公開演奏など)と責任形態の相違。刑事罰の対象と民事責任の対象。
解法の思考プロセス:
- 著作権侵害は「複製」「翻訳」「展示」「公開演奏」など複数の形態がある
- 各形態によって「刑事罰」「民事責任」「許可不要」の区別がある
- 選択肢a~eの行為を分類:
- a:個人的な複製(許可不要)
- b:映画での複製(許可必須)
- c:有料イベントでの公開演奏(許可必須)
- d:コンピュータへのバックアップ複製(許可不要)
- e:動画サイトでの無断掲載(刑事罰+民事責任)
- 正解:「刑事罰あり」と「民事責任のみ」「許可不要」の組み合わせ
誤答の落とし穴:
- 「複製」がすべて違法と思い込む(私的複製は許可不要)
- 「デジタルデバイスへのアップロード」と「私的複製」の区別
- 「刑事罰」と「民事責任」の対象行為が異なることを見落とし
学習アドバイス: 著作権法は「一般ユーザーの利便性」と「著作者の利益」のバランスを取っている。試験では「細かい場面での行為分類」が問われることが多い。「複製」「公開演奏」「翻訳」などの主要な行為形態と、それぞれの責任形態を整理しておく。
労働法・社会保険
第14問 SNS事業と労働契約分類
問題要旨: SNS事業の運営に関わる複数の人物(①従業員、②個人配信者、③広告主など)の労働法上の地位を判定し、最も適切な分類を選択。
K4 基準理解 T2 事実判断 L2 Trap-A 分類ミス
正解: 設問1: ウ、設問2: イ
必要知識: 労働法の基本概念 — 労働者の定義(従属性の判断)。個人委託者と従業員の区別。契約上の形式と実質判断。
解法の思考プロセス:
- SNS事業では「従業員」「個人配信者(独立事業者)」「広告主」などが混在
- 労働法では「従属性がある = 労働者」として保護される
- 各人物の分類:
- ①従業員:時間給 + 指示下で業務 = 労働者
- ②個人配信者:独立した時間・報酬 = 労働者でない可能性
- ③広告主:SNS事業者との契約は取引関係 = 労働関係ではない
- 選択肢:「①が15%超(労働コスト)、②が普通決議、③が労働費効」など異なる分類
誤答の落とし穴:
- 「個人配信者」が「従業員」と同じように扱われていると勘違い
- 「労働費効」と「労働訴訟」など,用語の違いを見落とし
- 「契約書上『個人事業主』と書かれている = 労働者ではない」と誤解(実質判断が重要)
学習アドバイス: 労働法は「形式ではなく実質」を見る。SNS時代には「個人配信者」「フリーランス」など従来の労働者概念に収まらない人々が増えている。試験では「どうやって従属性を判断するか」という思考プロセスが重要。
第15問 事業提携契約での責任関係
問題要旨: 医療機器企業甲社とベンチャー企業乙社が包括的な事業提携契約を締結する際、インサイダー取引による責任関係の帰属を判定。
K5 制度・責任 T1 法文解釈 L2 Trap-B 関係者混同
正解: エ
必要知識: 企業情報と開示義務 — インサイダー取引の責任主体。証拠取得権と責任帰属の関係。
解法の思考プロセス:
- 会話から:甲社と乙社が事業提携 → 情報流出の懸念
- インサイダー取引は「特定有価証券の発行会社に属する情報」を使って取引する行為
- 責任は「その情報を知っていた者」に帰属する(情報源ではなく利用者責任)
- 選択肢:甲社の代表、乙社の代表、両社の中小企業診断士、顧問弁護士など
- インサイダー取引法では「利用者(トレーダー)」が責任を負う
誤答の落とし穴:
- 「情報を漏らした者」と「情報を利用した者」の責任を混同
- 「中小企業診断士」が「有価証券取引」に関わる責任を想定しにくい
- 「顧問弁護士からの情報」と「従業員からの情報」で責任の重さが異なることを見落とし
学習アドバイス: インサイダー取引は「情報を知っていること + 有価証券取引を実行すること」で成立。責任は情報源ではなく利用者(取引者)に帰属するという点が重要。
法律の適用に関する通則法
第16問 外国法人との契約における準拠法
問題要旨: 外国法人との契約について、準拠法の決定に関する記述のうち、最も適切なものを選択。
K5 制度・適用法 T1 法文解釈 L2 Trap-A 適用誤り
正解: エ
必要知識: 法律の適用に関する通則法 — 国際私法の基本原則。準拠法の選択と合意の効力。
解法の思考プロセス:
- 外国法人との契約では「どの法律が適用されるか」が問題
- 原則:「契約当事者の合意で準拠法を選択できる」
- ただし「公序良俗に反する場合」は選択が無効になる可能性
- 選択肢:「債権譲渡は債務者の住所法」「外国法人が指定した法」「日本の労働基準法」など
- 正解:「債務者の住所地法を適用する」という原則的な規定
誤答の落とし穴:
- 「債権譲渡」と「債権譲渡」を混同
- 「契約の準拠法」と「物権の準拠法」の相違を見落とし
- 「外国法人だから外国法を適用する」という単純な思考
学習アドバイス: 国際契約では「どの法律が適用されるか」が事業の継続性に関わる重要な問題。試験では「法律の適用に関する通則法」の基本原則(当事者自治、準拠法選択の自由など)を正確に理解することが必要。
第17問 外国会社による営業活動の登録要件
問題要旨: 外国会社が日本において営業活動を行う場合の登録要件について、最も適切な記述を選択。
K5 制度・要件 T1 法文解釈 L1 Trap-C 要件漏落
正解: イ
必要知識: 会社法における外国会社の地位 — 外国会社の定義と営業の登録要件。登記簿への記載。
解法の思考プロセス:
- 外国会社が日本で営業活動(支店開設など)をするには「法務局への登記」が必須
- 登記には「定款」「決算書」「代理人指定」など複数の書類が必要
- 選択肢を検討:「営業所の届け出のみ」「商標登録のみ」「取締役会決議」「登記簿への記載」など
- 正解は「登記簿への記載」と「代理人の指定」の両要件を満たすもの
誤答の落とし穴:
- 外国会社の営業が「自由」だと思い込む(実は要件がある)
- 「営業の登録」と「商標の登録」を混同
- 登記に必要な「代理人」の定義(代表者と異なる場合がある)を見落とし
学習アドバイス: 外国会社が日本で営業するにはいくつかのハードルがある。主に「登記簿への記載」と「日本での法的代理人の指定」が重要。この2要件を押さえておく。
年度総括
思考法の分布
| 思考法 | 問数 | 配点 |
|---|---|---|
| T1:法文解釈(正確な理解と読み取り) | 14 | ― |
| T2:事実判断(複数の事象から最適を選択) | 6 | ― |
罠パターンの分布
| 罠 | 問数 | 対策 |
|---|---|---|
| Trap-A:概念・用語の混同 | 8 | 各制度の「定義」を正確に暗記する。一度混同すると全体に響くため、図表化して整理 |
| Trap-B:用語の意味違い(同じ単語でも場面ごとに異なる意味) | 4 | 文脈から意味を読み取る。特に国際契約や会計用語では「英日の対応」が曖昧になりやすい |
| Trap-C:要件や権限の見落とし | 4 | チェックリスト化。例:「登記」「代理人」「決議」など、複合要件が満たされているか確認 |
Tier別学習優先度
- Tier 1(最優先。7割以上の受験生が落とす):
- 会社法:監査役権限、代表取締役変更手続き、取締役会設置会社の構造
- 知的財産法:特許 vs 著作権 vs 意匠の対象物の区別、登録要件
- 国際取引:準拠法選択、外国会社の営業登録、貿易用語(CIF/FOB/DDP)
- Tier 2(重要だが基本を押さえると対応しやすい):
- 契約実務:クロージング、モニタリング、担保請求などの段階分け
- 労働法:従業員 vs 個人事業主の実質判断基準
- 法律の適用:債権譲渡と物権の準拠法の相違
- Tier 3(深掘りは不要。基本原則で対応):
- SNS事業の労働法適用(トレンド系。基本原則を押さえれば新情報も対応可)
- インサイダー取引(責任主体の理解で十分)
本番セルフチェック5項目
- 用語の定義確認:「クロージング」「専用実施権」「代表取締役」など、試験開始前に頭の中で定義を復唱する。
- 段階的思考:契約は「合意 → 実行 → 登記」の段階がある。問題文から「今どの段階か」を意識して読む。
- 法文 vs 実務の区別:「法律上は~」「ただし実務では~」という2層構造を意識。特に企業買収、M&Aは実務が複雑。
- 外国・国際関連の準拠法:外国が出たら即座に「どの法律が適用されるか」を考える。デフォルトは「当事者合意」→「なければ準拠法選択の規定」という順序。
- 権限と責任の確認:「誰が決定権を持つのか」「誰が責任を負うのか」を分離して考える。特に取締役会設置会社では重要。
分類タグの凡例
K値:知識種類
- K4:基準理解 — 法律や制度の「基本的な判断基準」を理解しているか。「何が許可されるか」「何が違法か」という判定基準レベル。
- K5:制度・文言・権限 — 法律用語の正確な定義、制度の詳細な仕組み、権限関係の複雑さまで理解しているか。試験出題の中心。
T値:思考法
- T1:法文解釈 — 法律や契約文の正確な読み取り。「何と書いてあるか」を理解する段階。
- T2:事実判断 — 複数の情報から「実際はどうなるのか」「何が最適か」を判断する。複合的な状況理解が必要。
L値:形式層(問題の難度段階)
- L1:基本的な知識確認(全40問中20~25%) — 定義確認、単純な法文読み取り。正解肢がほぼ一意的に決まる。
- L2:複合的な理解・判断(全40問中60~70%) — 複数の概念の組み合わせ、事実から最適を選択、会話形式での推読。
Trap値:誤答パターン
- Trap-A:概念・用語混同 — 似た概念(契約 vs 保証、特許 vs 著作権など)を混同しやすい。
- Trap-B:用語の意味違い — 同じ単語が異なる文脈で異なる意味を持つ(クロージング、担保など)。
- Trap-C:要件・権限見落とし — 複数要件のうち1つ見落とすと誤答になる(登記 + 代理人指定など)。
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