マーケティングリサーチと消費者行動論
中小企業診断士試験対策。マーケティングリサーチの手法から消費者の購買意思決定プロセス、関与度による購買行動の類型化まで。
このページの役割
マーケティングの意思決定の根拠となるリサーチ手法と、顧客がどのように購買決定に至るのかを理解します。調査設計から消費者心理のモデル化、さらに組織購買行動まで、実務で最も基本的な枠組みです。試験出題の中心はこれらのモデルの「使い分け」にあります。
このページの学習ポイント
このページは以下の順で進みます:
- マーケティングリサーチ — 調査の種類・データ形式・サンプリング方法を比較表で理解
- 消費者購買意思決定プロセス — 5段階のプロセスと情報源の役割
- 関与度と購買行動の類型 — 関与度とブランド差異で4象限分類
- 精緻化見込みモデル(ELM) — 態度変容のメカニズム
- 準拠集団とオピニオンリーダー — 社会的影響のパターン
- AIDMA / AISASモデル — 時代別の消費者行動モデル
- 組織購買行動 — BtoB購買の特徴とバイイングセンター
比較表を使って、「どの手法はいつ使うのか」「この行動類型の特徴は何か」を自分の言葉で説明できるレベルを目指してください。
マーケティングリサーチ
マーケティングの意思決定は、データと分析に基づかなければ根拠がありません。マーケティングリサーチとは、組織が直面する問題や機会を特定し、意思決定の質を高めるための体系的な情報収集と分析プロセスです。調査設計の要諦は「何を明かしたいのか」という目的を最初に定めることです。
調査の種類:目的別の3分類
調査は、達成したい意思決定の目的によって、大きく3つに分かれます。
| 調査種類 | 目的 | 主な手法 | 情報の性質 | 時間枠 | 典型例 |
|---|---|---|---|---|---|
| 探索的調査 | 問題の本質を発見し、仮説を生成する | グループインタビュー(FGI)、深層面接、観察法、エスノグラフィ | 定性的、深く・狭く | 前期短期 | 新製品開発のアイデア出し、市場参入前のニーズ把握 |
| 記述的調査 | 市場や消費者の現状を把握・記述する | アンケート調査、パネル調査、統計分析 | 定量的、広く・浅く | 中期 | 市場規模推定、顧客セグメンテーション、ブランド認知度調査 |
| 因果的調査 | 原因と結果の因果関係を検証する | 実験法、テストマーケティング、A/Bテスト | 定量的、統制と比較 | 中~長期 | 広告効果測定、価格改定の売上への影響、プロモーション施策の効果検証 |
探索的調査は問題を「見つける」段階、記述的調査は問題を「測る」段階、因果的調査は打ち手の効果を「試す」段階です。実務では新製品開発なら探索的→記述的→因果的という流れで進みますが、試験では「この目的には何が最適か」という判定が繰り返し問われます。
データの種類:一次データ vs 二次データ
調査に用いるデータは、その発生源によって2つに分類されます。
| データの種類 | 定義 | 特徴 | コスト | 活用例 |
|---|---|---|---|---|
| 一次データ | 調査目的に合わせて新たに収集するデータ | 目的適合的。収集時間がかかる。プライバシー配慮が必要 | 高い | アンケート、インタビュー、実験、テストマーケティング |
| 二次データ | 既に存在する公開・社内データ | 短期で活用可能。他の目的で収集されたため完全な適合性がない | 低い~無料 | 政府統計、業界レポート、社内販売データ、市場調査レポート |
効率的なリサーチプロセスは、まず二次データで大枠を把握し、不足分や詳細を一次データで補完する流れです。企業が最初にすべき行動は「既に知られていることを確認する」ことであり、その後「新たに知るべきこと」を定めて一次調査に投資します。
定量調査 vs 定性調査
調査手法はデータの形態によっても区別されます。
| 項目 | 定量調査 | 定性調査 |
|---|---|---|
| データ形態 | 数値(統計) | 言語(テキスト・音声) |
| 標本規模 | 大規模(数百~数千) | 小規模(数十まで) |
| 主な手法 | アンケート、パネル調査、実験 | インタビュー、グループディスカッション、観察 |
| 分析方法 | 統計解析、相関分析、回帰分析 | コーディング、カテゴリ分析、解釈 |
| 強み | 普遍性、一般化可能性、意思決定の根拠として説得力がある | 深さ、なぜ?を探索、新しい発見の可能性 |
| 弱み | なぜ?までは答えられない。仮説設定が重要 | 結果の一般化が難しい。時間・コストがかかる |
| 典型用途 | 市場規模測定、顧客満足度調査、施策の効果検証 | 商品開発の初期段階、ユーザーの本音把握、新しい市場ニーズの発掘 |
定量調査と定性調査は対立するものではなく、「定性→定量→因果的」というスパイラルで組み合わせるのが実務的です。例えば、グループインタビュー(定性)で消費者の本音を聞き出し、それを大規模アンケート(定量)で検証し、テストマーケティング(因果的)で施策の効果を測る流れです。
サンプリング方法:統計的代表性
対象者全員を調査することが理想ですが、多くの場合は母集団から標本を抽出します。サンプリング方法の選択は、後の統計分析の信頼性を左右する重要な決定です。
| サンプリング方法 | 分類 | 特徴 | 偏りの可能性 | 適用場面 |
|---|---|---|---|---|
| 単純無作為抽出 | 確率的 | 母集団のすべての個体が等しい確率で選ばれる | なし(最も客観的) | 標準的なアンケート、市場規模推定 |
| 層化抽出 | 確率的 | 母集団を属性別(年齢、地域等)に分けて、各層から無作為抽出 | なし。層の構成比を正確に反映できる | 年齢別、地域別、所得別など多様な顧客セグメント |
| クラスター抽出 | 確率的 | 地理的・自然な集団(地域、店舗等)を一つの単位として抽出 | 小さい(集団内の同質性に依存) | 全国規模のフィールド調査 |
| 便宜的抽出 | 非確率的 | 調査しやすい個体を選ぶ | 大きい。結果の一般化に注意 | 予備調査、アイデア出し段階 |
| 判断抽出 | 非確率的 | 調査者の判断で代表的と思われる個体を選ぶ | 大きい。調査者の思い込みが入りやすい | 専門家への深掘りインタビュー |
| 割当抽出 | 非確率的 | 層化抽出の非確率版。属性の構成比に合わせて割り当てる | 中程度。属性外の偏りが隠れやすい | 街頭調査、パネル登録 |
確率的サンプリングは統計的推論の根拠となり、非確率的サンプリングは時間・コスト効率が良い代わりに一般化に限界があります。試験では「この調査結果は全体に言えるか」という信頼性の判定問題が出題されるため、サンプリング方法の理解は不可欠です。
消費者購買意思決定プロセス
消費者がある製品やサービスを購入するまでに、どのような心理プロセスを経るのかを理解することは、マーケティング施策の組み立ての基本です。この5段階モデルは、消費者行動研究の古典的フレームであり、試験でもよく出題されます。
5段階のプロセス:問題認識から購買後評価まで
問題認識 → 情報探索 → 代替案評価 → 購買決定 → 購買後評価各段階で企業がとるべき施策は異なります。
問題認識:消費者が「欲しい」「困っている」という認識が生まれる段階です。この認識なしに購買行動は始まりません。企業側の施策としては、広告で潜在ニーズを顕在化させたり、店頭で問題を喚起したりします。
情報探索:購買を決める前に、消費者は自分たちが知っている情報(内部探索)と新たに探した情報(外部探索)を活用します。ここで誰の意見を聞き、どの情報源を信頼するかが、その後の選択に大きく影響します。
代替案評価:複数の候補から最適なものを選ぶための評価です。ここでの判断ルールは「関与度」「製品の複雑さ」によって異なります。単純な買い物なら感覚的に、高い買い物なら論理的に比較します。
購買決定:評価の結果として最終的な選択が決まります。ただし、ここまでが決定的でない場合もあります。例えば、評価段階では A ブランドが最良だと思っても、在庫がなければ B を買います。
購買後評価:購買は「選択の終わり」ではなく「使用経験の始まり」です。実際に使ってみて満足すればリピートや口コミに繋がり、不満なら返品やクレームになります。特に高関与商品では購買後に不安になる「認知的不協和」が生じやすく、企業側のフォローアップが重要です。
情報探索:4つの情報源
消費者が問題を認識してから購買するまでに参照する情報源は、4つのカテゴリに分かれます。
| 情報源の種類 | 定義 | 具体例 | 信頼度 | 企業の活用方法 |
|---|---|---|---|---|
| 個人的情報源 | 家族、友人、知人、口コミ | 友人からの推薦、SNSでの評判 | 最も高い | オピニオンリーダーの活用、満足顧客のロイヤルティ化 |
| 商業的情報源 | 企業側が提供する情報 | 広告、販売員の説明、パンフレット、パッケージ表示 | 中程度(企業発信なので割引きされやすい) | 広告表現、販売員教育、パッケージデザイン |
| 公共的情報源 | 第三者メディア、消費者団体 | マスメディア報道、消費者レビューサイト、専門雑誌 | 高い(中立的と見なされる) | PR活動、メディア対応、評判管理 |
| 経験的情報源 | 実際の使用体験 | 試用品、サンプル、デモンストレーション、友人の製品を使う | 最も高い | 試供品配布、店頭試用、無料トライアル |
現実の購買行動では、これら4つの情報源が組み合わさって最終判断に至ります。重要なのは、個人的情報源(特に口コミ)の影響力が他の3つを上回ることが多いという点です。これが「推薦」や「紹介」を重視する営業戦略の根拠になります。
代替案評価のルール:多属性態度モデルと選択ルール
複数の候補から選ぶとき、消費者はどのような論理で判断しているのでしょうか。これを説明するのが「多属性態度モデル(フィッシュバイン)」です。
消費者は各製品の属性(例:価格、デザイン、耐久性)について「ブランド A はこの属性をどの程度持っているか」と「その属性はどの程度重要か」の2つを判断し、その積を合計して態度を決めます。ただし、この評価プロセスは「製品の複雑さ」「購買の難度」によって大きく異なります。複雑な判断の場合は理性的に複数属性を天秤にかけ、単純な判断の場合は1つか2つの属性だけを見ます。
代替案評価の選択ルールは、以下のように分類されます。
| 選択ルール | 特徴 | 意思決定スタイル | 典型例 |
|---|---|---|---|
| 補償型ルール | 属性間でトレードオフを認める。ある属性の弱点を別の属性の強みで「補える」 | 理性的。複数属性を総合判定 | 車選び:燃費が劣るけど、デザインと安全性が優れているから OK |
| 連結型(非補償) | すべての属性が最低基準を満たす必要がある。1つでも基準未満なら脱落 | 慎重。選択肢を絞るフェーズ | 就職先選び:給与・勤務地・福利厚生すべてが基準を満たす企業のみ |
| 分離型(非補償) | 1つか複数の属性で優れていれば OK。別の属性が弱くても気にしない | 単純。「これは良い」と一つの良さで判断 | スマートフォン選び:とにかくカメラが優れていればそれで決める |
| 辞書編纂型(非補償) | 最重要属性で候補を比較し、同点なら次に重要な属性で比較…と続ける | 段階的。属性の優先順位が明確 | 不動産選び:まず立地で絞り込み、同じエリアなら価格で比較、同価格なら広さで比較 |
この選択ルールは「関与度」「製品知識」によって変わります。高関与商品(家、車、結婚式場)では理性的ルールを使い、低関与商品(チョコレート、シャンプー)では感覚的・直感的に決まることが多いです。試験では「この消費者の判断パターンはどのルールか」という問題が頻出です。
購買後行動と認知的不協和
購買後に生じやすいのが、「この選択で本当に良かったのか」という不安です。これを「認知的不協和」と呼びます。特に高関与商品(高い買い物、人生を大きく変える決定)で強く生じます。
例えば、新しい家を購入した直後、「やっぱり別のエリアにすればよかった」「ローンが重い」といった後悔が浮かぶことはよくあります。企業側はこの不協和を低減するために、購買後のフォローアップを手厚くします。取扱説明書をていねいに説明する、アフターサービスを充実させる、購買後のメールで「正しい選択だった」というメッセージを送るなどです。
購買後の顧客満足は、リピート購買と口コミ(推薦)に直結します。高い満足度→ロイヤルティ形成→ファンとしての推薦→新規顧客獲得という好循環が生まれます。逆に不満足なら、クレームやネガティブ口コミが広がります。デジタル時代は特に、不満の声が SNS で瞬時に拡散するため、購買後のケアが事業を左右するほど重要になっています。
関与度と購買行動の類型
購買意思決定のプロセスと難度は、その製品に対する「関与度」によって決まります。関与度とは、消費者がその製品やサービスの購買決定にどの程度興味を持ち、エネルギーを注ぐかを示す度合いです。これは製品の価格だけでは決まりません。自分にとっての重要性、社会的な目立ちやすさ、購買頻度など、複数の要因が影響します。
関与度マトリクス:4つの購買行動類型
関与度とブランド間の差異(品質や機能の違いがはっきりしているか)の2つの軸で、4つの購買行動類型が生まれます。
| ブランド間の差異:小 | ブランド間の差異:大 | |
|---|---|---|
| 関与度:高 | 不協和低減型購買行動 「素早く決めて、あとで理由づけ」 | 複雑な購買行動 「情報をしっかり集めて、比較検討してから決める」 |
| 関与度:低 | 習慣的購買行動 「いつもの商品をなんとなく買う」 | 多様性探索型購買行動 「飽きて、違うブランドを試してみる」 |
複雑な購買行動(高関与 × 差異大):家、車、結婚式場、高い外食など。消費者は広告を見て、友人に相談して、店頭で比較して、ようやく決定します。企業側は充実した説明、実際に試せる環境、決定後のサポートが不可欠です。
不協和低減型購買行動(高関与 × 差異小):保険、医療サービス、銀行選びなど、重要だけど各社の違いが分かりにくい場合です。消費者はどれにするか迷ったまま、何かきっかけ(営業員の説得、友人の推薦、CMのイメージ)で決めてしまい、その後「本当に良かったか」と不協和を感じます。企業側は購買後のフォローアップで不協和を解消させることが重要です。
習慣的購買行動(低関与 × 差異小):牛乳、塩、洗濯洗剤など、日常用品でブランド差がない場合。消費者は習慣的に、あるいはほぼ無意識に購買します。重要なのは「手に取りやすい流通」「繰り返し目に入る広告」です。ブランド変更の努力は報われにくい市場です。
多様性探索型購買行動(低関与 × 差異大):ポテトチップスのフレーバー、シャンプー、コーヒーなど。消費者は低関与(どれでも良い)だが、飽きて違うブランド・フレーバーを試したくなります。企業側は試供品配布、新商品の常時投入、プロモーション価格で「試してみたい」欲求を刺激します。
精緻化見込みモデル(ELM:Elaboration Likelihood Model)
購買意思決定の前に、消費者は広告、営業員の説明、SNS の評判など、様々な「説得メッセージ」を受け取ります。このメッセージがどのように態度や行動を変えるのかを説明するのが、精緻化見込みモデル(ELM)です。
2つの情報処理ルート
関与度の高さによって、消費者はメッセージを処理する「ルート」が変わります。
| 関与度 | 処理ルート | 処理内容 | 検討の程度 | 態度変容の特徴 | 企業の施策 |
|---|---|---|---|---|---|
| 高関与 | 中心ルート | メッセージの内容・論理・根拠を詳細に検討する | 深い。「このメッセージは本当か」と批判的に吟味 | 持続的で強固。説得力ある根拠があれば長く記憶に残る | 詳しい説明、数字・データの提示、専門家による解説 |
| 低関与 | 周辺ルート | 広告の見た目、有名人の起用、音楽、色彩など表面的な手がかりで判断 | 浅い。深く考えず、「良さそう」で判断 | 一時的で不安定。忘れやすく、別の刺激で簡単に変わる | 有名人タレント起用、目立つビジュアル、繰り返し放映 |
例えば、新しいスマートフォンの購入を考えている(高関与)なら、消費者は CPU の性能、カメラの画素数、バッテリー容量などを調べ、比較表を見て、ユーザーレビューを読みます。これが中心ルートです。一方、コンビニで夕食を選ぶ(低関与)なら、パッケージの色や「新発売」というラベルだけで「これにしよう」と決めます。これが周辺ルートです。
企業側の説得戦略は、関与度によって変えるべきです。高関与層には「論理的で詳細な情報」を、低関与層には「心に残るビジュアルやキャッチコピー」を提供することが効果的です。試験では「この商品は高関与なので中心ルートを通す→説得的なコンテンツが必要」という応用問題が出ます。
準拠集団とオピニオンリーダー
消費者の態度や行動は、個人的な好みだけでは決まりません。周囲の「集団」からの影響を受けています。家族の意見、職場の同僚の評判、SNS フォロワーの推薦など、様々な社会的圧力が購買決定に作用します。
準拠集団の3つのタイプ
| 集団のタイプ | 定義 | 影響の方向 | 典型例 |
|---|---|---|---|
| 所属集団 | 実際に所属している集団 | 前向き。グループの期待に合わせる | 家族、職場、サークル、SNS フレンド |
| 願望集団 | 所属したいと思う集団 | 前向き。そのグループの一員として認められたいからその基準に合わせる | あこがれの職業人、セレブ、スポーツ選手のファン層 |
| 分離集団 | 所属したくない、距離を置きたい集団 | 負の影響。「あの人たちとは違う」と意識して行動を変える | 「大人っぽくない」と感じるグループ、反対の政治思想を持つグループ |
企業のマーケティングに最も効果的なのは「願望集団」の活用です。有名人やインフルエンサーを広告に起用し、「この人たちの仲間になれる」という心理で購買欲を刺激します。スポーツ選手が着ているスニーカーが売れる、セレブが持っているバッグが人気になるのは、この願望集団の心理が働いているからです。
準拠集団の3つの影響メカニズム
| 影響のタイプ | 定義 | 購買への現れ方 | 施策例 |
|---|---|---|---|
| 情報的影響 | 集団メンバーから情報を得て、それを根拠に行動を変える | 「みんなが使っているなら、きっと良い製品なんだ」と推論 | 口コミサイト、レビュー表示、「売上 No.1」の表示 |
| 功利的影響 | 集団の期待に合わせて行動することで報酬を得たり罰を避けたりする | 「このブランドを持っていないと、グループで浮く」という不安 | ステータスシンボル化、限定商品、会員制度 |
| 価値表現的影響 | 集団の価値観や理想を自分のアイデンティティに取り込む | 「私たちはこういう人たちだ」という自己認識を製品選択で表現 | ライフスタイルブランド、社会的メッセージ(サステナビリティなど) |
オピニオンリーダーと口コミの影響力
準拠集団の中には、他者の購買決定に大きな影響を与える「オピニオンリーダー」と呼ばれる人物がいます。これは必ずしも社会的地位が高い人ではなく、その分野に詳しい、信頼されている、SNS でのフォロワーが多い、といった特徴を持つ人です。
オピニオンリーダーからの口コミは、企業の広告よりも説得力があります。理由は、オピニオンリーダーが商業的利益なく、純粋に「良い」と思ったものを勧めていると見なされるためです。逆に企業が直接「買ってください」と言うより、ユーザーが「これ本当に良かった」と友人に勧める方が、別の友人の購買に繋がりやすいです。
企業側のマーケティング施策として、オピニオンリーダーを特定し、無料で製品を試してもらう、専門家としてのポジションを支援する、SNS で自然な形で推薦してもらう、などが有効です。これを「インフルエンサー・マーケティング」と呼びます。
AIDMA / AISAS モデル
消費者がどのように製品を認知し、興味を持ち、購買に至るのかを時系列で描いたモデルがあります。メディア環境の変化に応じて、複数のバージョンが提案されてきました。
AIDMA:マス広告時代のモデル
| ステップ | 日本語 | 内容 | マーケティング施策 |
|---|---|---|---|
| A | Attention(認知) | 広告で製品の存在を知る | TV CM、新聞広告、ラジオ |
| I | Interest(関心) | 「面白そう」「必要かも」という関心を持つ | 製品説明記事、パンフレット、店頭 POP |
| D | Desire(欲望) | 「欲しい」という強い欲求に変わる | 好感度高いイメージ広告、使用者の喜びを表現 |
| M | Memory(記憶) | 「あの製品、良さそうだった」と記憶に残す | リピート広告、キャッチコピー、ジングル |
| A | Action(購買) | 実際に買う | 販売促進、割引、試供品 |
AIDMA は 1920 年代に提案された古い理論ですが、テレビ広告が主流だった時代には非常に有効でした。企業は「認知→興味→欲望→記憶」のステップを順番に踏ませることで、購買に導きました。
AISAS:インターネット時代のモデル
インターネット、特に検索エンジン と SNS の登場により、消費者の意思決定プロセスが大きく変わりました。
| ステップ | 日本語 | 内容 | マーケティング施策 |
|---|---|---|---|
| A | Attention(認知) | 広告、SNS、検索結果で製品を知る | YouTube 広告、Facebook 広告、検索連動型広告 |
| I | Interest(関心) | 「面白そう」と思う | オウンドメディア、ブログ、SNS コンテンツ |
| S | Search(検索) | 自分で検索して情報を集める | SEO、レビューサイト、Q&A サイト、YouTube |
| A | Action(購買) | 実際に買う | EC サイト、店舗での購買 |
| S | Share(共有) | SNS で友人と感想をシェアする | ハッシュタグキャンペーン、ユーザー生成コンテンツ |
AISAS では「Search(検索)」が追加され、最後に「Share(共有)」が入ります。これは消費者が受動的に広告を見るのではなく、能動的に情報を探し、購買後も発信する主体的な役割を持つようになったことを示しています。
企業側は、AIDMA 時代のような「一方的な説得」ではなく、「消費者が検索したときに良い情報を用意しておく」「購買後に共有されやすいコンテンツを作る」という戦略が必要になりました。
組織購買行動(BtoB マーケティング)
企業や組織が物品・サービスを購入する行動は、個人の消費者購買とは大きく異なります。複数の関係者が関わり、意思決定プロセスが長く、判断基準が経済合理性に傾く、といった特徴があります。
組織購買の特徴
個人の購買行動と比べると、組織購買には以下の違いがあります。
| 特徴 | 消費者購買 | 組織購買 |
|---|---|---|
| 意思決定者 | 個人、または家族の合議 | 複数の部門・職級の関係者(経営層、担当者、技術者) |
| 判断基準 | 個人的好み、ライフスタイルの表現 | 企業の経営目標、ROI、技術仕様、予算 |
| 情報処理 | 感情的・直感的要素を含む | 論理的・合理的。データ・提案資料を詳細に検討 |
| 購買プロセス | 短期(数時間~数日) | 長期(数ヶ月~数年)。提案・見積もり・検討・稟議 |
| 購買量 | 1~数個 | 大量。継続的な契約 |
| リスク意識 | 低い(個人の損失) | 高い(企業全体に影響) |
組織購買では、個人的な「気に入った」という感情より、「このベンダーは信用できるか」「技術仕様は要件を満たすか」「価格は予算内か」という複数の基準が検討されます。
バイイングセンター:購買に関わる5つの役割
組織購買の意思決定に関わる人物を分類したのが「バイイングセンター」です。売手側は、これらの役割を把握し、それぞれにアプローチする必要があります。
| 役割 | 日本語 | 職務 | アプローチ方法 |
|---|---|---|---|
| User | 使用者 | 実際に製品・サービスを使用する人(現場担当者、職人等) | 現場での説明、使いやすさのデモ、作業効率の改善を示す |
| Influencer | 影響者 | 購買決定に影響を与える技術者・スタッフ(設計部門、技術課長) | 技術仕様、性能、競合製品との比較資料 |
| Buyer | 購買者 | 実際に発注・契約手続きを担当する人(購買部) | 価格交渉、納期、支払い条件 |
| Decider | 意思決定者 | 最終的な購買決定権を持つ人(経営者、部長等) | 経営的メリット、ROI、長期的な提携関係 |
| Gatekeeper | ゲートキーパー | 情報の流れを管理・制御する人(秘書、事務、窓口担当者) | 初期接触、情報提供の方法、意思決定者へのアクセス |
売手側のセールス担当は、すべてのステークホルダーの利害を理解し、それぞれに異なるメッセージを届ける必要があります。例えば、製造設備の営業であれば、現場のオペレーターには「操作性」を、技術部には「精度」を、経営層には「コスト削減」を説く、というように役割に応じたアプローチが効果的です。
組織購買のプロセス:8段階
問題認識 → 一般的ニーズの記述 → 製品仕様の決定 → 供給者の探索
→ 提案の募集・評価 → 供給者の選定 → 注文仕様の決定 → 成果の検討問題認識:企業内で「新しい設備が必要」「効率化したい」という課題が生じます。
一般的ニーズの記述:その課題に対して「どのような製品が必要か」を部門横断で定義します。
製品仕様の決定:「必要な機能」「性能基準」「予算」を具体的に決めます。
供給者の探索:どのメーカー・ベンダーが該当製品を提供しているか、市場調査をします。
提案の募集・評価:複数の供給者から提案を受け、技術的・経済的に比較検討します。
供給者の選定:最適な供給者を選びます。
注文仕様の決定:契約書、納期、支払条件など詳細を決めます。
成果の検討:納入後、製品が要件を満たしているか、購買プロセスに課題がなかったかを評価します。
この長いプロセスを通じて、売手側は複数のタッチポイント(初期接触、提案説明、見積もり提示、契約交渉)で顧客との関係を構築します。
確認問題
確認問題 1:調査種類の判定
以下の目的に最も適した調査種類を選びなさい。
(1)中小企業が新しいスナック菓子を開発しようとしており、消費者の潜在的なニーズ、不満、新しいフレーバーのアイデアを深掘りしたい。
- ア:記述的調査
- イ:因果的調査
- ウ:探索的調査
答え:ウ(探索的調査)。グループインタビューや深層面接で、消費者の本音とアイデアを引き出すことが目的。定量調査より定性調査が効果的。
確認問題 2:関与度マトリクス
以下の3つの購買場面を、関与度マトリクスの4象限に当てはめなさい。
- A:毎日買っている牛乳
- B:家の購入
- C:友人に「この消毒液は本当に効く」と勧められたので買った消毒液
答え:
- A:低関与 × 差異小 = 習慣的購買行動
- B:高関与 × 差異大 = 複雑な購買行動
- C:高関与 × 差異小 = 不協和低減型購買行動
確認問題 3:バイイングセンターの役割
ある企業が新しい生産設備を購入検討中です。以下の人物は、バイイングセンターのどの役割に該当するか。
- (ア)製造現場で毎日その設備を使う作業員
- (イ)設備購入の最終決定権を持つ工場長
- (ウ)技術仕様が生産ラインの要件を満たすかを判断する技術課長
答え:
- (ア)= User(使用者)
- (イ)= Decider(意思決定者)
- (ウ)= Influencer(影響者)
確認問題 4:ELM と説得戦略
新しい医療保険商品のマーケティング施策を決定する場合、高関与層と低関与層では、どのような説得メッセージが有効か。
答え:
- 高関与層:中心ルートで処理 → 詳細な医療保障内容、保険金の支払い条件、計算例、専門家(医師や保険の専門家)による説明
- 低関与層:周辺ルートで処理 → 有名タレントの起用、「安心」というイメージ、見た目の良いデザイン
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このページで学んだ「消費者行動」「組織購買」「マーケティングリサーチ」の基礎は、以下の関連トピックに繋がります。
- STPと4P — セグメンテーション、ターゲティングの前に必要な消費者理解
- 製品戦略と価格戦略 — テストマーケティング、PLC、ブランド戦略
- チャネル戦略とプロモーション戦略 — オピニオンリーダー、準拠集団の活用によるプロモーション展開
- サービスマーケティングとCRM — サービス購買行動の特性
- イノベーション・国際・デジタル戦略 — AISAS モデルの実装、SNS の影響
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