個別原価計算と総合原価計算
受注生産と大量生産で何をどこへ集計するかを整理する
このページの役割
原価計算には、2 つの世界があります。1 つは、オーダーメイドのスーツを仕立てるように、注文の 1 つ 1 つに対して「この注文にいくらかかったか」を追いかける方法。もう 1 つは、工場で同じペットボトル飲料を何万本も作るとき、「今月全体でいくら原価がかかったか」を計算して製品の単価を割り出す方法です。診断士試験では、問題文を見た瞬間に「どちらの方式か」を判定し、その方式に合った「何をどこへ集計するか」を決められることが勝負の分かれ目です。
このページは、個別原価計算 と 総合原価計算 の本質的な違い、それぞれの計算手順、そして両方に共通する「配賦」の考え方を、具体的な数値例を通じて固めるページです。
このページを読む前に
原価計算では、材料・労務・経費(または加工費)という 3 つの要素がすべての計算の土台になります。「何が直接費で、何が間接費か」という区別が、この先の計算を左右します。また、「完成品と仕掛品」という 2 つの生産段階を区別して追跡する習慣も必要です。
原価の 3 要素 ── すべての計算の基礎
原価計算では、いかなる方式でも、製造にかかった費用を 3 つに分けます。
| 要素 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | その製品に直接使った材料 | 木材、鉄鋼、部品 |
| 直接労務費 | その製品を製造した作業者の賃金 | 製造作業時間 × 時給 |
| 製造間接費 | 特定の製品に直接紐づかない費用 | 工場の家賃、電気代、管理者給与、減価償却費 |
直接材料費と直接労務費は、帳簿や現場記録から「この製品に○○円」とすぐに分かります。しかし製造間接費は困ります。工場の電気代は、A 社の注文にも B 社の注文にも、あるいは全製品に使われていて、「どの製品に何円配るか」が一目では分かりません。そこで登場するのが 配賦(はいふ) という仕組みです。
個別原価計算 ── 受注生産の原価を追いかける
個別原価計算は、受注生産(受けた注文ごとに製品を作る)で使う方法です。建設業、造船業、印刷業など、1 件の注文が大型で、注文ごとに材料・工程・納期が大きく異なる場合に、各注文ごとに原価を記録して管理します。
製造指図書 ── 注文ごとの原価記録簿
個別原価計算では、注文の受付と同時に 製造指図書(せいぞう さしずしょ) という帳簿を作ります。この指図書に、その注文に使った直接材料費、直接労務費、そして配賦した製造間接費をすべて記録していき、最後に「この注文の製造原価は何円か」を確定させます。
たとえば、造船会社で「大型貨物船 A」と「タンカー B」の注文を同時に進めていたら、指図書 No.201 で船 A の原価を追い、指図書 No.202 で船 B の原価を追います。2 つの船は大きさも形も違い、使う材料も作業時間も全く異なるため、1 件 1 件分けて追跡する必要があります。
製造間接費の配賦 ── 「誰の負担か」を決める
直接費は指図書に直結させられるので問題ありませんが、製造間接費をどう割り振るかが課題です。一般的には、事前に決めた 予定配賦率 を使います。
予定配賦率 = 製造間接費の予算額 ÷ 基準操業度(配賦基準)
たとえば、月間の製造間接費予算が 120 万円で、月間の直接労務費合計が 100 万円と見積もられていれば、予定配賦率は「労務費の 120%」になります。その月に「ある注文の直接労務費が 20 万円」なら、その注文に配賦する製造間接費は 20 万 × 120% = 24 万円です。
配賦基準の選択は、製造の性質に合わせます。手作業が多い業種なら「直接作業時間」、機械が中心なら「機械運転時間」など、間接費が実際に発生する原因に近い基準を選ぶことで、より公正な配賦ができます。
配賦差異 ── 予定と実績のズレ
事前に決めた予定配賦率で計算した配賦額が、実際に発生した間接費とピッタリ一致することはまずありません。この差を 配賦差異 と呼びます。
配賦差異 = 予定配賦額 − 実際発生額
もし配賦差異がプラス(予定配賦額が大きい)なら 有利差異 です。「予定より少なく済んだ」という良い知らせです。逆にマイナス(実際がかかりすぎた)なら 不利差異 です。
配賦差異は月末に売上原価に賦課(つけ加える)します。差異が小さければそのまま売上原価に加算し、差異が大きければ売上原価と棚卸資産に按分して負担させることもあります。
個別原価計算の計算例
設定:
- 指図書 No.201(当月完成):直接材料費 400,000 円、直接労務費 200,000 円
- 指図書 No.202(月末仕掛中):直接材料費 300,000 円、直接労務費 150,000 円
- 製造間接費の実際発生額:280,000 円
- 予定配賦率:直接労務費の 80%
ステップ 1:各指図書に製造間接費を配賦する
指図書 No.201 の間接費 = 200,000 × 80% = 160,000 円 指図書 No.202 の間接費 = 150,000 × 80% = 120,000 円 予定配賦額の合計 = 160,000 + 120,000 = 280,000 円
ステップ 2:各指図書の製造原価を集計する
No.201 = 400,000 + 200,000 + 160,000 = 760,000 円 → この指図書は当月完成したので、「製品」勘定へ振り替え
No.202 = 300,000 + 150,000 + 120,000 = 570,000 円 → これはまだ月末時点で完成していないので、「月末仕掛品」として残す
ステップ 3:配賦差異を確認する
配賦差異 = 予定配賦額 280,000 − 実際発生額 280,000 = 0 円
この例では差異がゼロですが、実際には予定と実績にズレが生じるのが普通です。
総合原価計算 ── 大量生産の原価を分配する
総合原価計算は、見込生産(大量生産) で同じ製品を多数生産する場合に使う方法です。食品工場、化学プラント、繊維工場など、個々の製品を追跡するのが現実的でない場合、「当月全体でいくら原価がかかったか」を生産量で割って製品の単価を出します。
個別原価計算と総合原価計算の最大の違いは、月末に「完成していない製品(仕掛品)」がある場合、その仕掛品に対して 完成品換算量 という概念を使うことです。
完成品換算量 ── 作りかけをどう数えるか
想像してください。食品工場の月末に、完成していない製品が 100 個あります。加工の進み具合は 40% です。この 100 個は、「すでに何個分の加工が投入済みか」という観点で考えると、完成品に換算して何個分でしょうか?答えは 40 個分です。なぜなら、すでに 40% の加工が完了しており、これは完成品 40 個分の加工に相当するからです。この「完成品 40 個分」が 完成品換算量 です。
月末仕掛品の完成品換算量 = 月末仕掛品の個数 × 加工進捗度
ただし、材料をいつ投入するかで扱いが変わります。材料が工程の始点(製造開始時)で全量投入される 場合、仕掛品の加工進度が 40% でも、材料についてはもう 100% 投入済みです。材料費の完成品換算量は仕掛品の個数そのもの、加工費だけが進度で掛けられます。
平均法と先入先出法 ── 単価の計算方法が異なる
総合原価計算では、月初の仕掛品(前月から引き継いだ作りかけ)と当月投入した製品の費用を合わせて、単位原価を計算します。このとき、単価の求め方が 2 通りあります。
平均法 は、月初仕掛品と当月投入を「混ぜた」ものとして扱い、平均単価を出します。計算が簡便で、試験での出題頻度も高いです。
先入先出法 は、月初仕掛品を「先に完成した」と考えて、当月投入分だけを基に単価を計算します。「今月いくら原価がかかったか」を把握する上で、より現実的です。
平均法の詳細計算例
設定:
- 月初仕掛品:200 個(加工進度 50%)、直接材料費 100,000 円、加工費 60,000 円
- 当月投入:800 個(直接材料費 400,000 円、加工費 330,000 円)
- 当月完成品:900 個
- 月末仕掛品:100 個(加工進度 40%)
- 材料は工程の始点で全量投入される
ステップ 1:完成品換算量を求める
直接材料費の分母(材料は始点投入なので、仕掛品も 100% 投入済み): 完成品 900 個 + 月末仕掛品 100 個 = 1,000 個
加工費の分母(仕掛品は 40% しか加工していない): 完成品 900 個 + 月末仕掛品 100 個 × 40% = 900 + 40 = 940 個
ステップ 2:平均単価を計算する
直接材料費:
- 総原価 = 月初 100,000 + 当月 400,000 = 500,000 円
- 平均単価 = 500,000 ÷ 1,000 = @500 円/個
加工費:
- 総原価 = 月初 60,000 + 当月 330,000 = 390,000 円
- 平均単価 = 390,000 ÷ 940 ≒ @414.9 円/個
ステップ 3:月末仕掛品と完成品に配分する
月末仕掛品原価:
- 材料費 = @500 × 100 個 = 50,000 円
- 加工費 = @414.9 × 40 個 ≒ 16,596 円
- 合計 = 66,596 円
完成品原価:
- 合計 = 500,000(材料) + 390,000(加工費) − 66,596 = 823,404 円
ポイントは、材料費と加工費で分母が異なる ことです。これを忘れると計算が崩れます。
先入先出法の詳細計算例
同じデータで先入先出法を使う場合の計算です。
ステップ 1:当月投入の完成品換算量を求める
月初仕掛品分を引く点が重要です。
直接材料費: 当月投入量 = 完成品 900 + 月末仕掛品 100 − 月初仕掛品 200 = 800 個
加工費: 当月投入量 = 完成品 900 + 月末仕掛品 100 × 40% − 月初仕掛品 200 × 50% = 900 + 40 − 100 = 840 個
ステップ 2:当月投入の単価を計算する
直接材料費:
- 当月投入額 = 400,000 円
- 当月単価 = 400,000 ÷ 800 = @500 円/個
加工費:
- 当月投入額 = 330,000 円
- 当月単価 = 330,000 ÷ 840 ≒ @392.86 円/個
ステップ 3:配分する
月末仕掛品原価:
- 材料費 = @500 × 100 = 50,000 円
- 加工費 = @392.86 × 40 ≒ 15,714 円
- 合計 = 65,714 円
完成品原価:
- 月初仕掛品の原価 100,000 + 60,000(そのまま完成品に)
-
- 当月投入分から月末分を引いた原価
- = 160,000 + (400,000 + 330,000 − 65,714) = 824,286 円
この例では月末仕掛品原価が平均法 66,596 円 vs 先入先出法 65,714 円と僅差ですが、原価水準が大きく変動した月には差が開きます。
仕損と減損 ── 不良品・損失品の処理
製造の過程では、失敗作(仕損品)が出たり、材料が蒸発・粉散して減ったり(減損)することがあります。
| 概念 | 何が起きるか | 具体例 |
|---|---|---|
| 仕損 | 加工に失敗して合格品にならない | 焼き物のひび割れ、部品の加工不良 |
| 減損 | 材料が物理的に減る | 化学反応での蒸発、切削くず |
仕損品は廃棄するか、スクラップとして売却することもあります。減損は消失するため、何の価値もありません。
正常仕損と異常仕損
通常の製造過程で避けられない仕損は 正常仕損 と呼び、良品(完成品や仕掛品)の原価に含めて処理します。例えば、セラミック製品の焼成では 5% の割れが避けられないなら、その 5% の原価は良品が負担します。
一方、設備が故障して生じたり、操作ミスで生じたりする想定外の仕損は 異常仕損 と呼び、特別損失として処理し、良品の原価に含めません。
誰が仕損のコストを負担するか
重要な判定があります。月末仕掛品が、仕損が発生する地点に「すでに到達しているか」「まだ到達していないか」で負担者が変わります。
仕損発生点が月末仕掛品の進度より後ろ なら、仕掛品は「仕損発生地点をまだ通過していない」ので、完成品のみが仕損のコストを負担します。
仕損発生点が月末仕掛品の進度より前 なら、完成品と月末仕掛品の両方が仕損のコストを負担します。
例:正常仕損が加工進度 60% の地点で発生、月末仕掛品の進度は 50%。進度 50% < 発生点 60% なので、仕掛品はまだ仕損発生点に到達していない。完成品のみが負担。
度外視法 ── 仕損を「なかったこと」にする計算
度外視法は、仕損品を計算から完全に除外する方法です。仕損分の原価が、自動的に良品(完成品と、負担対象の仕掛品)に上乗せされます。
設定(前月と異なるデータ):
- 月初仕掛品:50 個(進度 40%)、直接材料費 25,000 円、加工費 8,000 円
- 当月投入:150 個(直接材料費 75,000 円、加工費 58,800 円)
- 当月完成品:160 個
- 正常仕損:10 個(工程の終点で発生)
- 月末仕掛品:30 個(進度 40%)
- 材料は始点投入、仕損品に売却価値なし
判断:仕損が終点(100% 地点)で発生。月末仕掛品は進度 40% で、まだ終点に到達していない。→ 完成品のみが負担。→ 仕損 10 個を計算から除いて、完成品 160 個と月末仕掛品 30 個で配分。
ステップ 1:完成品換算量(仕損を除く)を計算
直接材料費:160 + 30 = 190 個 加工費:160 + 30 × 40% = 172 個
ステップ 2:平均単価
直接材料費 = (25,000 + 75,000) ÷ 190 ≒ @526.3 円/個 加工費 = (8,000 + 58,800) ÷ 172 ≒ @388.4 円/個
ステップ 3:配分
月末仕掛品 = @526.3 × 30 + @388.4 × 12 ≒ 15,789 + 4,660 = 20,449 円
完成品 = (25,000 + 75,000 + 8,000 + 58,800) − 20,449 = 146,351 円
仕損 10 個分の原価(ざっと 5,260 + 3,107 ≒ 8,367 円相当)が、完成品 160 個に自動的に上乗せされています。完成品が「仕損の分までカバー」する格好です。
両方式の使い分け
| 比較軸 | 個別原価計算 | 総合原価計算 |
|---|---|---|
| 対象 | 受注生産、ロットごとの差が大きい | 大量生産、同種製品を連続生産 |
| 集計単位 | 製造指図書(注文単位) | 工程全体(当月生産分) |
| 頻出論点 | 予定配賦、配賦差異、勘定連絡 | 完成品換算量、平均法 / 先入先出法、仕損・減損 |
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「製造指図書」「指図書ごと」という言葉が出れば → 個別原価計算 「月末仕掛品」「完成品換算量」「加工進度」という言葉が出れば → 総合原価計算
よくあるつまずき
- 個別原価計算なのに完成品換算量を探そうとする 指図書は注文単位なので、完成品換算量という概念は出ません。各指図書から「この指図書はいくら原価がかかったか」だけを読み取ればよいです。
- 総合原価計算なのに指図書単位で原価を追う 工程全体の当月生産費用を、完成品と仕掛品に按分する方法です。指図書は出てきません。
- 加工費の完成品換算量に月末仕掛品を「数量のまま」入れてしまう 月末仕掛品は進度 40% なら、加工費としては 40% 分だけを数えます。100 個なら 40 個分とカウントします。
- 先入先出法で月初仕掛品の「既投入分」を引き忘れる 当月投入の完成品換算量 = 完成品 + 月末仕掛品 − 月初仕掛品 です。月初仕掛品のぶんは「先月に投入済み」なので、引く必要があります。
- 仕損の負担先を、発生点と進度の比較なしに決めてしまう 度外視法でも非度外視法でも、「仕損が、月末仕掛品の進度に到達しているか」の判定は必須です。これで完成品のみ負担か、両者負担かが決まります。
確認問題
問1:個別原価計算の配賦差異
製造間接費の予定配賦率は時給 600 円。指図書 A(当月完成)の直接労務費は 48,000 円(80 時間)。指図書 B(月末仕掛中)の直接労務費は 24,000 円(40 時間)。実際に発生した製造間接費は 68,000 円。配賦差異を計算し、有利・不利を判定してください。
解答:予定配賦額 = 600 × (80 + 40) = 600 × 120 = 72,000 円。配賦差異 = 72,000 − 68,000 = +4,000 円(有利差異)。予定より実際が少なく済みました。
問2:総合原価計算(平均法)
月初仕掛品 100 個(進度 60%):材料費 50,000 円、加工費 24,000 円。当月投入 400 個:材料費 200,000 円、加工費 156,000 円。完成品 450 個、月末仕掛品 50 個(進度 40%)。材料は始点投入。完成品の原価を求めてください。
解答:材料費の換算量 = 450 + 50 = 500 個。材料費単価 = 250,000 ÷ 500 = @500 円。月末材料費 = 500 × 50 = 25,000 円。加工費の換算量 = 450 + 50 × 40% = 470 個。加工費単価 = 180,000 ÷ 470 ≒ @382.98 円。月末加工費 = 382.98 × 20 ≒ 7,660 円。月末仕掛品原価 = 32,660 円。完成品原価 = 430,000 − 32,660 = 397,340 円。
問3:仕損の負担先判定
正常仕損が加工進度 60% の地点で発生します。月末仕掛品の加工進度は 50% です。仕損費の負担先はどうなりますか。
解答:仕損発生点(60%)> 月末仕掛品の進度(50%)。月末仕掛品はまだ仕損発生点を通過していないため、完成品のみが 仕損費を負担します。度外視法でも非度外視法でも、この判定は同じです。
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