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利益計画と予算管理

利益計画のプロセス、予算実績差異分析、CVP分析との連動を整理する

このページの役割

企業が目標利益を達成するための道筋は、大きく 4 つのステップで進みます。目標利益を設定し、それを売上高に逆算し、費用を見積もり、実行後に実績と比較する。このプロセスを利益計画と予算管理と呼びます。

このページは、予算と実績の差が「なぜ生まれたのか」を分解して説明できるようになることを目指します。売上が増えたのに利益が減るケース、原価率が悪化したケース、固定費が膨らんだケース。これらを原因別に見分け、次の改善行動につなげるのが予算実績差異分析の本質です。

このページの読み方

試験では「予算では営業利益 500 万円のはずが、実績は 400 万円だった──この 100 万円の差はどこから生まれたのか」という問いかけが繰り返されます。販売数量が増えたのに単価を下げた影響か、原価が膨らんだのか、固定費が膨らんだのか。予算実績差異分析は、利益のズレを価格差異・数量差異・原価差異に分解する計算技術であり、経営診断の現場でも頻繁に使われる分析手法です。


利益計画のプロセス

利益計画とは、企業が目標利益を掲げ、それを実現するために必要な売上高と費用を事前に計画し、実行後に実績と比較して改善するサイクルのことです。単に「今期は 1,000 万円の利益を目指そう」と掲げるだけではなく、その目標を達成するために具体的にいくら売上が必要か、その売上を得るためにいくらの費用をかけるべきか、まで落とし込む必要があります。

利益計画の流れは、以下の 4 つのステップで進みます。

ステップ 1:目標利益の設定

経営層が、その年度の利益目標を決定します。これは単なる願い事ではなく、株主への配当水準、内部留保の必要性、銀行への借入返済能力など、複数の経営要件から逆算して決められます。たとえば「ROE 10% を達成するには、自己資本が 5,000 万円なら 500 万円の利益が必要」といった具合です。

ステップ 2:目標売上高の算定

次に、その目標利益を達成するために必要な売上高を計算します。ここで登場するのが CVP 分析です。第 6 章で学んだ損益分岐点分析と同じ考え方を使い、目標利益を組み込んで逆算します。

固定費が 100 万円、限界利益率が 40% で、目標利益が 60 万円だとしましょう。このとき必要な売上高は:

目標売上高=固定費+目標利益限界利益率=100+600.4=400万円\text{目標売上高} = \frac{\text{固定費} + \text{目標利益}}{\text{限界利益率}} = \frac{100 + 60}{0.4} = 400\text{万円}

つまり、売上高 400 万円を達成すれば、目標利益 60 万円が実現できる計算になります。

ステップ 3:費用予算の策定

目標売上高が決まったら、その売上を達成するために必要な費用を見積もります。変動費は売上に連動する費用(材料費、外注費など)として売上原価から算定し、固定費は生産設備、人件費、賃借料など動かしづらい費用として固定額を見積もります。

ステップ 4:実行と統制

予算が決まったら、実際に事業を運営します。毎月・毎四半期で実績と予算を比較し、ズレが生じていればその原因を調査して改善策を打つ。これが予算統制です。


予算の種類と特徴

予算は、その柔軟性によって大きく 3 つの種類に分けられます。

固定予算(Static Budget)

操業度(生産量や販売量)にかかわらず、あらかじめ決めた予算額を固定的に使う方法です。作成が簡単で、組織全体に「目標は何か」を明確に伝えられるメリットがあります。しかし、実際の操業度が予算と異なった場合、単純に実績と比較しただけでは「操業度が変わったからなのか、それとも効率が悪くなったからなのか」が判別できません。

たとえば、予算では月売上 100 万円で変動費 60 万円(変動費率 60%)と見積もっていたのに、実際の売上が 90 万円だった場合、変動費が 50 万円だったとします。固定予算のままでは「変動費が 10 万円削減できた」と判断してしまいますが、実は売上が減ったから変動費も連動して減っただけかもしれません。

変動予算(フレキシブル・バジェット)

実際の操業度に合わせて予算額を調整する方法です。変動費率と固定費を分離し、実際操業度での「あるべき予算額」を計算してから実績と比較します。

式にすると:

変動予算額=変動費率×実際操業度+固定費予算額\text{変動予算額} = \text{変動費率} \times \text{実際操業度} + \text{固定費予算額}

先ほどの例で変動予算を使えば、実際売上 90 万円での「あるべき予算」は、変動費 54 万円(90 万円 × 60%)+ 固定費 30 万円 = 84 万円となります。実績が 80 万円なら、差異は 4 万円の有利差異(実績が良い)と判定できるわけです。このように変動予算は、操業度の変動と能率の良否を分離して評価できるため、原価管理に最適な手法とされています。

ゼロベース予算(Zero-Based Budgeting)

前年の実績に縛られず、毎年白紙から予算を作り直す方法です。「去年これくらい使ったから今年もこれくらい」という慣習的な予算編成を避け、各部門に「その予算がなぜ必要か、本当に効率的か」を再検討させます。無駄の排除に有効ですが、全部門の詳細な根拠を毎年検証する必要があるため、作成に時間と人手がかかります。


予算実績差異分析の枠組み

利益計画が決まり、実行に移した後、最も重要な仕事が予算実績差異分析です。これは、予算で見積もっていた数値と実績を比較し、その差がどこから生まれたかを原因別に分解する分析です。

利益差異の全体像

最も基本的な考え方は、以下の式です。

利益差異=実績利益予算利益\text{利益差異} = \text{実績利益} - \text{予算利益}

利益差異がプラスであれば有利差異(予算より良い結果)、マイナスであれば不利差異(予算より悪い結果)です。しかし、この合計値だけでは経営診断にはなりません。利益 = 売上 - 変動費 - 固定費 という基本構造から、差異を 3 つの要素に分解する必要があります。

利益差異=売上高差異変動費差異固定費差異\text{利益差異} = \text{売上高差異} - \text{変動費差異} - \text{固定費差異}

売上高差異の分解

売上高のズレは、販売価格が変わったのか(価格差異)、販売数量が変わったのか(数量差異)に分解します。

販売価格差異=(実際単価予算単価)×実際販売数量\text{販売価格差異} = (\text{実際単価} - \text{予算単価}) \times \text{実際販売数量}

販売数量差異=(実際販売数量予算販売数量)×予算単価\text{販売数量差異} = (\text{実際販売数量} - \text{予算販売数量}) \times \text{予算単価}

売上高差異=販売価格差異+販売数量差異\text{売上高差異} = \text{販売価格差異} + \text{販売数量差異}

重要なポイントは、価格差異は実際販売数量で、数量差異は予算単価で計算するという点です。これによって、価格と数量の影響を分離して評価できます。

具体例を見ましょう。予算では単価 1,000 円、数量 500 個だったのに対し、実績では単価 950 円で 550 個売ったとします。

  • 販売価格差異 = (950 - 1,000) × 550 = -27,500 円(不利)→ 単価を 50 円下げたため収入が減った
  • 販売数量差異 = (550 - 500) × 1,000 = +50,000 円(有利)→ 予定より 50 個多く売れた
  • 売上高差異 = -27,500 + 50,000 = +22,500 円(有利)→ 全体としては売上が増えた

注目すべき点は、数量は 50 個増で有利なのに、単価 50 円の値下げで相殺される状況です。「売上が増えた」という単純な結論だけでなく、「単価を下げて数量を増やした戦略」が本当に正しいのか、さらに原価との関係も含めて判断する必要があるわけです。

変動費差異の分解

変動費についても、同じロジックで価格差異と数量差異に分解します。

変動費価格差異=(実際単価予算単価)×実際販売数量\text{変動費価格差異} = (\text{実際単価} - \text{予算単価}) \times \text{実際販売数量}

変動費数量差異=(実際販売数量予算販売数量)×予算単価\text{変動費数量差異} = (\text{実際販売数量} - \text{予算販売数量}) \times \text{予算単価}

ただし、変動費の場合は「低いほど良い」なので、符号の解釈に注意が必要です。変動費が予算より高ければ不利差異、低ければ有利差異です。

先ほどの例を続けると、予算単位変動費 600 円に対して実績が 620 円だったとします。

  • 変動費価格差異 = (620 - 600) × 550 = +11,000 円(不利)→ 単位原価が 20 円上がった
  • 変動費数量差異 = (550 - 500) × 600 = +30,000 円(不利)→ 販売数量増加に伴う原価増

この場合、販売数量が増えたことで当然原価総額は増えますし(これは避けられない)、さらに単位原価も上昇しています。これは、原材料価格の上昇か、生産効率の低下か、どちらかの可能性があります。

固定費差異

固定費は販売数量に連動しないため、シンプルに予算と実績の差だけを見ます。

固定費差異=実際固定費予算固定費\text{固定費差異} = \text{実際固定費} - \text{予算固定費}

固定費は管理可能・管理不可能に分類されることもありますが、基本的には「予算を超過したかどうか」だけが判定基準です。先ほどの例では、予算 100,000 円に対して実績 110,000 円なら、10,000 円の不利差異が発生したと判定します。


計算例:利益差異分析の全体フロー

ここまでの 3 つの差異を統合して、利益差異がどこから生まれたかを説明する計算例を見ましょう。

データセット

項目予算実績
単価1,000 円950 円
販売数量500 個550 個
単位変動費600 円620 円
固定費100,000 円110,000 円

ステップ 1:予算利益と実績利益の計算

予算利益 = (1,000 - 600) × 500 - 100,000 = 400 × 500 - 100,000 = 100,000 円

実績利益 = (950 - 620) × 550 - 110,000 = 330 × 550 - 110,000 = 181,500 - 110,000 = 71,500 円

利益差異 = 71,500 - 100,000 = -28,500 円(不利)

ステップ 2:売上高差異の計算

販売価格差異 = (950 - 1,000) × 550 = -27,500 円(不利)

販売数量差異 = (550 - 500) × 1,000 = +50,000 円(有利)

売上高差異 = -27,500 + 50,000 = +22,500 円(有利)

ステップ 3:変動費差異の計算

変動費価格差異 = (620 - 600) × 550 = +11,000 円(不利)

変動費数量差異 = (550 - 500) × 600 = +30,000 円(不利)

変動費差異 = 11,000 + 30,000 = +41,000 円(不利)

ステップ 4:固定費差異の計算

固定費差異 = 110,000 - 100,000 = 10,000 円(不利)

ステップ 5:統合検証

利益差異 = 売上高差異 - 変動費差異 - 固定費差異

= 22,500 - 41,000 - 10,000 = -28,500 円

解釈

この企業は、販売数量 50 個増で有利差異 50,000 円を得られましたが、それが以下の 3 つの不利要因で上回られました。

  1. 販売価格を 50 円下げたため、単価低下で -27,500 円(不利)
  2. 単位原価が 20 円上昇し、さらに数量増加で +41,000 円の変動費増加(不利)
  3. 固定費が 10,000 円超過(不利)

結果として、数量増の恩恵(+50,000 円)が、価格低下・原価上昇・固定費超過で相殺され、利益は 28,500 円減少したわけです。

この分析から経営的な洞察が生まれます。「販売数量は増えたが、単価を下げすぎたのではないか」「原価が上昇した原因は何か(材料値上げか、製造効率低下か)」「固定費の 10,000 円超過はなぜか」といった問い立てができます。

差異分析のコツ

差異分析で最も大切なのは「合計の差だけ見ない」ことです。売上が増えても、その背景に価格低下や原価率悪化が隠れていることがあります。必ず価格差異と数量差異に分解し、有利・不利を個別に判断してください。また、各差異の符号を間違えやすいので注意してください。売上の価格差異は、単価が下がれば不利です。一方、変動費の価格差異は、単位原価が上がれば不利です。


セールスミックス差異:複数製品の場合

複数の製品やサービスを販売する企業では、単に売上数量の増減だけでなく、製品構成(セールスミックス)の変化も利益に影響します。

たとえば、利益率の高い製品の売上比率が上がれば、全体の利益率も上がります。逆に利益率の低い製品ばかり売れていれば、数量が増えても利益は伸びにくくなります。

セールスミックス差異を分解するには、以下のステップを踏みます。

  1. 各製品の実績販売数量と予算販売数量から構成比を計算
  2. 構成比の変化が、全体の利益にどう影響したかを計算

計算は複雑になるため、ここでは概念理解に留めますが、試験で複数製品の差異分析が出た場合は「セールスミックスという要因もある」と意識しておくことが重要です。


CVP 分析との連動

利益計画の最終的な検証は、CVP 分析を通じて行われます。先ほどの計算例で、実績売上高 522,500 円(950 円 × 550 個)が、目標利益を達成するために必要な売上高として機能しているかを確認することです。

固定費 100,000 円、限界利益率を計算してみましょう。

予算ベースでの限界利益率 = (1,000 - 600) / 1,000 = 40%

実績ベースでの限界利益率 = (950 - 620) / 950 = 330 / 950 = 約 34.7%

この限界利益率の低下も、実績利益が予算より悪化した原因の一つです。

目標利益 100,000 円を達成するために必要な売上高は、限界利益率 40% であれば:

必要売上高=100,000+100,0000.4=500,000\text{必要売上高} = \frac{100,000 + 100,000}{0.4} = 500,000\text{円}

一方、実績での必要売上高(限界利益率 34.7%)は:

必要売上高=100,000+100,0000.347=576,000\text{必要売上高} = \frac{100,000 + 100,000}{0.347} = 約 576,000\text{円}

実績売上 522,500 円は、限界利益率が低下した場合の必要売上高に達していないため、目標利益を達成できなかったわけです。

このように、予算実績差異分析と CVP 分析を組み合わせることで、「なぜ目標を達成できなかったのか」が多角的に見えてくるのです。


差異分析で陥りやすい誤り

予算実績差異分析は計算ルールが単純な一方で、符号の判定や解釈で誤りやすい領域です。

誤り 1:差異を 1 つの数字だけで見る

利益差異が -28,500 円だからといって「予算より 28,500 円悪かった」で終わると、改善策が立てられません。必ず売上差異・変動費差異・固定費差異に分解し、さらに各差異を価格差異と数量差異に分けて個別に評価してください。

誤り 2:有利差異と不利差異の符号を逆にする

売上の価格差異で「単価が下がる → 不利」、変動費の価格差異で「単位原価が上がる → 不利」と混同しやすいです。常に「利益を増やす方向 = 有利、減らす方向 = 不利」という定義を忘れずに。

誤り 3:数量が増えたのに利益が減る理由が説明できない

販売数量が増えても、単価低下や原価率悪化で相殺されるケースは珍しくありません。この場合「なぜ数量増加の効果が出なかったのか」を説明できることが重要です。

誤り 4:操業度の変動と能率の混同

固定予算のままで「操業度が 90% だったから費用も 10% 削減できたはず」と勝手に調整するのは危険です。変動費は操業度に連動するので、実際操業度での予算を計算してから比較してください。


確認問題

問 1:売上高差異の分解

予算では単価 500 円、数量 200 個を見積もっていました。実績は単価 480 円で 230 個でした。販売価格差異と販売数量差異を求め、売上高差異を計算しなさい。

解答

  • 販売価格差異 = (480 - 500) × 230 = -4,600 円(不利)
  • 販売数量差異 = (230 - 200) × 500 = +15,000 円(有利)
  • 売上高差異 = -4,600 + 15,000 = +10,400 円(有利)

数量は 30 個増で有利ですが、単価 20 円の値下げにより不利差異が発生しています。しかし全体では +10,400 円の有利差異となっています。

問 2:利益差異の統合分析

以下のデータから、利益差異を計算し、主要な原因を 2 つ述べなさい。

項目予算実績
売上高200,000 円210,000 円
変動費120,000 円135,000 円
固定費50,000 円55,000 円

解答

  • 予算利益 = 200,000 - 120,000 - 50,000 = 30,000 円
  • 実績利益 = 210,000 - 135,000 - 55,000 = 20,000 円
  • 利益差異 = 20,000 - 30,000 = -10,000 円(不利)

売上高差異は +10,000 円で有利ですが、以下の 2 つの不利要因で上回られました:

  1. 変動費が 15,000 円増加(不利)→ 原価率が悪化しています
  2. 固定費が 5,000 円超過(不利)→ 管理可能経費が膨らんでいます

売上は増えても、原価率と固定費の管理が不十分だったことが利益悪化の主因です。

問 3:CVP と利益計画の接続

固定費 80,000 円、限界利益率 50%、目標利益 40,000 円の場合、目標利益売上高を求めなさい。

解答目標利益売上高=80,000+40,0000.5=120,0000.5=240,000\text{目標利益売上高} = \frac{80,000 + 40,000}{0.5} = \frac{120,000}{0.5} = 240,000\text{円}

この企業は売上高 240,000 円を達成すれば、目標利益 40,000 円が実現できます。これが予算立案時の基準になります。


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