損益分岐点分析
限界利益、損益分岐点売上高、安全余裕率を利益計画までつなげて整理する
このページの役割
損益分岐点分析(CVP分析)は、企業がいつから利益が出るのか、売上がどこまで落ちても大丈夫なのかを読む最も基本的な経営分析ツールです。このページでは、原価を変動費と固定費に分解する意味 から始まり、限界利益、損益分岐点、安全余裕率 を一つの流れで理解します。
2次試験(事例Ⅳ)では、経営改善案の効果を数値で示すために CVP を使うケースが頻出です。ただの計算問題ではなく、「売上が 10% 落ちたら赤字になるのか」「単価を上げるか変動費を下げるか、どちらが効果的か」といった経営判断の土台になる知識です。
このページを読む前に
基本的な P/L(損益計算書)の構造、つまり「売上 - 費用 = 利益」が読めれば大丈夫です。複雑な会計知識は不要。
まずイメージをつかむ
「売上 1 円増えたとき、手元に残る利益は何円か」
想像してください。ラーメン屋が 1 杯 900 円のラーメンを売っています。原価(スープ、麺、具)は 1 杯 300 円。家賃は月 50 万円。
今日 1 杯多く売れたら、手元に残るお金はいくら増えるでしょう?答えは 600 円です。なぜなら、売上 900 円から原価 300 円を引いた 600 円が、月の家賃返済や利益に充てられる額だからです。
この「売上から直接かかる費用を引いた残り」を 限界利益 と呼びます。
限界利益の正体 :売上 1 円(または 1 個)増えたときに、固定費(家賃のように売上量に左右されない経費)を埋めるために使える金額。この金額が大きいほど、固定費を回収しやすくなります。
「いつから利益が出るか」を読む
先ほどのラーメン屋で考えると:
- 1 杯売ると、限界利益 600 円が固定費 50 万円に充てられます。
- 50 万円 ÷ 600 円 = 833.33 杯
つまり、月に 834 杯売れれば、やっと利益がゼロになります。これが 損益分岐点 です。834 杯未満なら赤字、834 杯以上なら黒字。
試験で出るのは「売上高いくら」という場合も多いです。単価 900 円 × 834 杯 = 約 75 万円が損益分岐点売上高になります。
「売上がどこまで落ちても大丈夫か」を読む
月間の実績が 1,000 杯だったとしましょう。損益分岐点が 834 杯だと、この差は 166 杯。
これを率で見ると:(1,000 - 834) ÷ 1,000 × 100 = 16.6%
この 16.6% が 安全余裕率 です。つまり「売上が 16.6% 落ちるまでは赤字にならない」ということ。診断士試験では 20% 以上あることが望ましいとされています。16% では結構危険です。
変動費と固定費:分解する意味
定義と具体例
企業の費用は、売上量に応じて変わるかどうかで分けられます。
変動費 は「売上量に比例する費用」です。
- ラーメン屋:スープ、麺、具(1 杯売るたびに必要)
- 製造業:原材料費、外注費、製造用電力
- 特徴:売上がゼロなら変動費もゼロ
固定費 は「売上量に左右されない費用」です。
- ラーメン屋:店舗の家賃、従業員の給与、固定資産税
- 製造業:工場の減価償却費、管理部門の給与
- 特徴:売上がゼロでも発生する(避けられない)
この分け方が、利益の仕組みを理解する第一歩です。
「準変動費」の扱い
実務では、変動費と固定費の間にグレーゾーンがあります。準変動費(あるいは混合費用)です。
電話代 :基本料金(固定費)+ 通話料(変動費) 給与 :基本給(固定費)+ 歩合給(変動費)
こういう費用は、上限と下限の売上高から計算する 高低点法 を使って、変動費と固定費に分解します。
高低点法の例
ある企業の 6 月と 7 月のデータ:
- 6 月:売上 400 万円、総費用 400 万円(最低点)
- 7 月:売上 1,000 万円、総費用 700 万円(最高点)
売上が 600 万円増加したときに総費用が 300 万円増えたので、変動費率は:
- (700 - 400) ÷ (1,000 - 400) = 300 ÷ 600 = 0.5(50%)
次に 6 月のデータから固定費を逆算:
- 総費用 400 万円 = 固定費 + 0.5 × 400 万円
- 固定費 = 400 - 200 = 200 万円
この分解により、来月以降の予測も立てやすくなります。
限界利益と限界利益率:「固定費を埋める力」
定義と意味
限界利益 = 売上高 − 変動費
これは「売上から、売上に直結する費用を引いた残り」です。この残りが、固定費を埋め、さらに利益になる金額です。
ラーメン屋の例で:
- 売上:900 円
- 変動費:300 円
- 限界利益:600 円 ← これが固定費返済と利益に充てられる
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 = 1 − 変動費率
この率は「売上 1 円のうち、何円が固定費返済・利益に使えるか」を示します。
ラーメン屋では:限界利益率 = 600 ÷ 900 = 約 67%
売上 900 円のうち、実に 3 分の 2 が固定費や利益に充てられるということです。
試験での使い分け
試験問題では、この率がキーになります。
「損益分岐点 売上高 を求めよ」→ 分母は 限界利益率(率で計算) 「損益分岐点 販売数量 を求めよ」→ 分母は 単位限界利益(1 個あたりの金額で計算)
この使い分けをミスると、計算が全く合いません。
損益分岐点売上高:「利益がゼロになる売上」
概念と公式の導出
損益分岐点とは、利益がちょうど 0 になる売上高のこと。
式で表すと:
営業利益 = 限界利益 − 固定費 = 0ここから逆算すれば:
限界利益 = 固定費
売上高 × 限界利益率 = 固定費
売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率これが 損益分岐点売上高 の公式です。
具体例:電子部品メーカー
売上高 2,000 万円、変動費 1,200 万円、固定費 500 万円の場合:
手順 1 :変動費率を計算
- 変動費率 = 1,200 ÷ 2,000 = 0.6(60%)
手順 2 :限界利益率を計算
- 限界利益率 = 1 − 0.6 = 0.4(40%)
手順 3 :損益分岐点売上高
- BEP 売上高 = 500 ÷ 0.4 = 1,250 万円
つまり、この企業は月 1,250 万円売れば利益がゼロ。1,250 万円未満なら赤字、それ以上なら黒字です。
グラフでの可視化
通常、損益分岐点分析は図で表します:
- 横軸:売上高
- 縦軸:金額
- 売上高を示す斜線と総費用(固定費 + 変動費)を示す線が交差する点が損益分岐点
- 交差点より左:赤字領域(固定費 + 変動費 > 売上高)
- 交差点より右:黒字領域(売上高 > 固定費 + 変動費)
損益分岐点販売量:「何個売ればいいか」
単位限界利益で考える
数量で答える場合、限界利益率ではなく「1 個あたり」で計算します。
損益分岐点数量 = 固定費 ÷ 単位限界利益単位限界利益 = 販売単価 − 単位変動費
具体例:グッズ販売
- 販売単価:1,000 円
- 単位変動費(製造原価):400 円
- 月間固定費:180,000 円
手順 1 :単位限界利益を計算
- 1,000 − 400 = 600 円
手順 2 :損益分岐点数量
- 180,000 ÷ 600 = 300 個
月に 300 個売れば利益ゼロ。実績が 500 個なら利益は (500 - 300) × 600 = 120,000 円です。
目標利益達成の売上高・販売量:「いくら儲けたい」
損益分岐点の応用
「利益 0」ではなく「利益 T 円」を達成したいときは、公式を少し変えます。
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率
目標利益達成数量 = (固定費 + 目標利益) ÷ 単位限界利益発想は同じ。「限界利益で固定費と目標利益の両方を埋める」ということです。
計算例
先ほどの電子部品メーカーで、目標利益 300 万円を達成したい場合:
- 固定費:500 万円
- 目標利益:300 万円
- 限界利益率:40%
目標売上高 = (500 + 300) ÷ 0.4 = 800 ÷ 0.4 = 2,000 万円検算:2,000 万円 × 0.4 = 800 万円の限界利益 → 800 - 500(固定費)= 300 万円の利益 ✓
「1 個あたり営業利益」を使う場合
2 次試験(特に R6)では、「1 個あたり営業利益は 200 円」といった形で与えられることがあります。この場合、限界利益ではなく営業利益で直接計算します。
目標利益達成数量 = (固定費 + 目標利益) ÷ 単位営業利益ここで注意:営業利益 = 限界利益 - 固定費 ではなく、営業利益は既に「1 個あたり」の純粋な利益です。
税引後目標利益の扱い:「税金を考慮する」
なぜ変換が必要か
2 次試験では「税引後利益 1,000 万円を達成したい」といった表現が出ます。しかし、CVP 分析の公式は「営業利益」(税引前)を想定しています。
例えば税率 30% の企業で、税引後利益 140 万円を目指す場合:
営業利益(税引前)= 140 ÷ (1 − 0.3) = 140 ÷ 0.7 = 200 万円営業利益 200 万円から法人税 60 万円が引かれ、税引後 140 万円が手元に残ります。
完全な計算例
固定費 300 万円、変動費率 60%、法人税率 30%。税引後利益 140 万円を達成する売上高:
手順 1 :税引前目標利益に変換
- 140 ÷ (1 − 0.3) = 200 万円
手順 2 :限界利益率
- 1 − 0.6 = 0.4(40%)
手順 3 :必要売上高
- (300 + 200) ÷ 0.4 = 500 ÷ 0.4 = 1,250 万円
検算:
- 売上 1,250 万円 × 0.4 = 500 万円(限界利益)
- 500 − 300 = 200 万円(営業利益・税引前)
- 200 × (1 − 0.3) = 200 × 0.7 = 140 万円(税引後利益)✓
安全余裕率:「どこまで売上が落ちても大丈夫か」
定義
安全余裕率 = (実際売上高 − 損益分岐点売上高) ÷ 実際売上高 × 100
この率は「現在の売上から損益分岐点までの距離」を示します。言い換えれば、「売上がここまで落ちると赤字化する」という警戒ラインです。
具体例
実績売上 2,000 万円、損益分岐点売上 1,250 万円:
安全余裕率 = (2,000 − 1,250) ÷ 2,000 × 100 = 37.5%この企業は「売上が 37.5% 落ちても黒字」ということです。反対に、売上が 37.5% 以上落ちると赤字になります。
業種による目安
- 20% 以上 :比較的安全
- 20% 未満 :危険ゾーン
- 10% 以下 :赤字寸前
この指標は、経営改善の優先度を判断するのに使われます。安全余裕率が低い企業ほど、固定費削減や単価引き上げが急務です。
営業レバレッジ:「売上変動が利益を増幅する仕組み」
営業レバレッジ(DOL)
固定費が大きい企業では、売上が少し変わるだけで利益が大きく変わります。この増幅効果を測る指標が 営業レバレッジ(日商簿記1級では「経営レバレッジ係数」とも呼ばれる)です。
DOL = 限界利益 ÷ 営業利益 = 1 ÷ 安全余裕率仕組みを理解する
売上 2,000 万円、限界利益 800 万円、固定費 600 万円、営業利益 200 万円の場合:
DOL = 800 ÷ 200 = 4.0この係数 4.0 の意味は何か。
売上が 10% 増加すると、営業利益は 10% × 4 = 40% 増加します。
検証:
- 売上 10% 増 → 2,200 万円
- 限界利益 10% 増 → 880 万円
- 営業利益 = 880 − 600 = 280 万円
- 利益増加率 = (280 − 200) ÷ 200 = 40% ✓
ハイリスク・ハイリターンの構造
この増幅効果は、売上の減少時も同じ。売上が 10% 減れば、営業利益は 40% 減ります。
つまり、固定費が大きい企業ほど、売上変動に敏感になるということ。これが「固定費ビジネスはハイリスク・ハイリターン」と言われる理由です。
直接原価計算との関連
CVP 分析は、直接原価計算(変動原価計算) という管理会計の考え方がベースになっています。
直接原価計算では、変動原価だけを製品原価として計算し、固定費(特に固定製造間接費)は期間費用として扱います。この分け方が、まさに CVP 分析の「変動費と固定費の分解」と一致しています。
つまり、経営的な改善助言を出すときは、この CVP の発想で「限界利益がいくら増えるか」「固定費が削減できるか」を評価することになります。
問題を解くときの観点
- 求めるのは何か :売上高か販売数量か。売上高なら限界利益率、販売数量なら単位限界利益を使う
- 与えられた利益が何か :営業利益か税引後利益か。税引後なら必ず税引前に変換してから公式に入れる
- 利益改善の優先順位 :単価引き上げか変動費削減か固定費削減か。限界利益率の向上が最も効果的だが、実現可能性も考慮する
- 安全余裕率との関連 :売上がどこまで落ちても大丈夫か、投資判断の指標になる
典型的なつまずき
ミス 1:率と額を混ぜる
「損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益」と書いてしまう。これは間違い。 分母は限界利益率でないといけません。
正:損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
ミス 2:安全余裕率の分母
「安全余裕率 = (実際売上 − BEP売上) ÷ BEP売上」と計算してしまう。分母は実際売上高です。
正:安全余裕率 = (実際売上 − BEP売上) ÷ 実際売上 × 100
ミス 3:税引後利益をそのまま使う
税引後利益 100 万円をそのまま公式に入れて、「(固定費 + 100) ÷ 限界利益率」と計算してしまう。
必ず先に「税引後 ÷ (1 − 税率)」で税引前に変換してから使う。
ミス 4:高低点法で誤った点を使う
「売上が最高と最低の月」ではなく、「総費用が最高と最低の月」を使ってしまう。変動費率の計算では、売上の幅を基準に計算しなければいけません。
ミス 5:営業レバレッジの意味を理解しない
係数 4.0 という数字を計算しても、「これが何を意味するのか」をきちんと説明できない受験生が多い。売上 1% 変化 → 営業利益 4% 変化、という因果関係を言語化する練習をしましょう。
ミス 6:計算で終わってしまう
CVP を計算して損益分岐点を出すだけでは、実務的な改善助言になりません。「この企業は危機的な状況か」「どこを改善すべきか」を読むことが試験では求められています。
確認問題
問1:基本的な CVP 計算
売上高 2,000 万円、変動費 1,200 万円、固定費 500 万円。損益分岐点売上高と安全余裕率を求めよ。
解答:
- 変動費率 = 1,200 ÷ 2,000 = 0.6(60%)
- 限界利益率 = 1 − 0.6 = 0.4(40%)
- 損益分岐点売上高 = 500 ÷ 0.4 = 1,250 万円
- 安全余裕率 = (2,000 − 1,250) ÷ 2,000 × 100 = 37.5%
問2:税引後目標利益
固定費 400 万円、変動費率 50%、法人税率 40%。税引後利益 180 万円を達成する売上高を求めよ。
解答:
- 税引前目標利益 = 180 ÷ (1 − 0.4) = 180 ÷ 0.6 = 300 万円
- 限界利益率 = 1 − 0.5 = 0.5(50%)
- 必要売上高 = (400 + 300) ÷ 0.5 = 700 ÷ 0.5 = 1,400 万円
- 検算:1,400 × 0.5 = 700 万円(限界利益)→ 700 − 400 = 300 万円(営業利益)→ 300 × 0.6 = 180 万円(税引後利益)✓
問3:営業レバレッジ
限界利益 800 万円、営業利益 200 万円。売上高が 5% 減少したとき、営業利益は何% 変化するか。
解答:
- DOL = 800 ÷ 200 = 4.0
- 営業利益の変化率 = 5% × 4.0 = 20% 減少
- 営業利益は 200 × (1 − 0.2) = 200 × 0.8 = 160 万円になる
問4:販売数量で答える場合
販売単価 1,500 円、単位変動費 900 円、月間固定費 240,000 円。損益分岐点販売量を求めよ。
解答:
- 単位限界利益 = 1,500 − 900 = 600 円
- 損益分岐点数量 = 240,000 ÷ 600 = 400 個
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