負債・純資産会計と税効果会計
引当金、社債、純資産、税効果会計の位置関係を整理する
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このページは、B/S の右側──負債 と 純資産──そして P/L の税金を橋渡しする 税効果会計 を整理する解説ページです。
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B/S の右側は「お金の出どころ」を示しています。銀行からの借入(負債)、投資家からの出資(純資産)、そしてまだ払っていないけれど将来払うことが確実な金額(引当金)──これらがどのように区分され、どのような計算ルールで処理されるかを順番に見ていきます。最後に、会計と税務のルールの違いが生み出す「税効果会計」を学びます。
学習のポイント
負債は将来支払う義務、純資産は株主に帰属する残余引当金は見積り負債として処理する- 税効果会計は
会計上の利益と課税所得のズレを調整する仕組みと理解する
試験で何が問われるか
引当金、借入金、社債の違いを説明できるか。特に「何がいつ支払義務が生じているか」で区別する資本金、利益剰余金、自己株式の位置を区別できるか。純資産内部の構成を把握しているかが問われる繰延税金資産と繰延税金負債の意味を言えるか。これは単なる会計技法ではなく、「会計と税務の時間的ズレの調整」という実質を理解しているかが問われる- 複合問題:社債の発行・処理、配当制限と自己株式、tax effectの計算を同時に問う出題が増えている
引当金 ── 「まだ払っていないが、義務は発生している」
企業の会計では、「お金をまだ出していない」という事実だけでは費用として計上しません。しかし、現在の事象に基づいて「将来確実に払う義務が発生している」なら話は別です。会社は 12 月決算だとしましょう。従業員の夏の賞与は翌年 6 月に支給しますが、その賞与は「今期の働きに対する報酬」として今期の費用に含めるべきです。12 月末の時点で現金は出ていなくても、当期の利益から控除する必要があります。この「まだ払っていないけれど、当期に発生した義務」を 引当金 として負債側に計上し、同額を P/L の繰入額として費用に計上する仕組みです。
引当金を計上するには、次の 4 つの要件をすべて 満たす必要があります。この 4 つはセットで覚えることが鉄則です。
- 将来の特定の費用または損失であること ── 曖昧な支出ではなく、「誰に」「何のために」払うのかが明確であることが前提です。
- その発生が当期以前の事象に起因していること ── 当期の営業活動がきっかけで義務が生まれている必要があります。来期の計画段階では引当金になりません。
- 発生の可能性が高いこと ── 「もしかしたら」程度では足りず、ほぼ確実に発生することが求められます。
- その金額を合理的に見積もることができること ── 額の目安がつけられないほど不確実なら引当金になりません。
たとえば「来期に工場を建てたい」という計画は、将来の支出であっても当期の事象に起因していないため、4 要件を満たしません。一方、今期に販売した製品の保証修理費用は、販売という当期の事象に起因し、過去の販売実績から修理費用も合理的に見積もれるため、4 要件をすべて満たします。
引当金の分類と B/S 表示
引当金は、B/S 上の表示位置によって性質が異なります。このうち貸倒引当金だけが特殊な取り扱いをされるため注意が必要です。
評価性引当金の筆頭が 貸倒引当金 です。売掛金のうち「回収できない見込み」の部分を見積もって、売掛金から直接マイナスする形で B/S に表示します。これは売掛金の正味額(実際に回収できる額)を B/S に載せるためです。例えば売掛金の残高が 1,000 万円でも、過去の経験から 3% が回収不能になると見積もれば、貸倒引当金 30 万円を計上して、B/S 上は 970 万円で表示します。この「実現可能性を反映した金額」が、利害関係者の判断に有用な情報となるわけです。
負債性引当金(流動) には賞与引当金や製品保証引当金があります。賞与引当金は「当期の業績に基づいて当期に費用化すべき、来期支払い予定の賞与」を見積もったものです。販売した製品の保証修理費用も同様に、販売時に「将来いくら修理費がかかるだろう」と見積もります。これらは「来期に支払う義務」であり、時間軸が短いため流動負債として分類されます。
負債性引当金(固定) には退職給付引当金や修繕引当金があります。退職給付引当金は従業員が定年を迎えるまで 20 年、30 年先の支払い義務です。修繕引当金も、定期的に大規模修繕が必要な施設の修繕費を数年先まで見積もります。これらは「数年後、数十年後に支払う義務」であり、支払時期が遠いため固定負債として分類されます。
退職給付会計 ── 複雑な見積りの仕組み
退職給付も引当金の一種ですが、金額の算定が極めて複雑なため独自の計算体系を持っています。企業は将来、従業員が退職するときに退職金を支払う義務を負っています。この義務の現在価値を 退職給付債務 と呼びます。一方、多くの企業は外部の年金基金にお金を積み立てており、これが 年金資産 です。
B/S に計上される引当金は、この 2 つの差額です。負債が大きければ引当金は多くなり、逆に年金資産が大きければ引当金は少なくなります。これは「企業がいま、退職義務のために実際に用意すべき金額」を示しています。
例えば、現在従業員 100 人の現在価値での退職給付債務が 10 億円、年金基金に 7 億円積み立てているなら、B/S 上の退職給付引当金は 3 億円です。逆に年金基金が 12 億円あれば、負債ではなく前払い状態(資産計上)になります。
毎期の費用は 3 つの要素で構成されます。
- 勤務費用 ── 今期 1 年間の労働で増えた退職給付債務。これは「今期の従業員の活動が将来の義務をいくら増やしたか」を表します。例えば 100 人の従業員が 1 年働くと、その分だけ将来支払うべき退職金が増加します。この増加額を当期の費用として認識するわけです。
- 利息費用 ── 退職給付債務に割引率を掛けた時間経過分。債務は時間とともに割引が巻き戻り、額が増えます。例えば 10 年後に 1 億円支払う義務は、割引率 3% なら現在価値では約 7,400 万円です。でも 1 年時間が経つと、割引期間が 9 年になり、現在価値は約 7,700 万円に増えます。この 300 万円の増加が利息費用です。
- 期待運用収益 ── 年金資産が運用で増えると見込まれる額。これは費用を減らす効果があります。7 億円の年金資産を年 3% で運用すれば、2,100 万円の運用益が見込めます。これは退職給付費用から控除されます。
年金資産の運用がうまくいけば費用は減り、うまくいかなければ運用損が発生します。また、従業員の退職人数が想定と異なったり、賃金上昇率が予想と異なったりすれば、「数理計算上の差異」が生じます。この差異も P/L に計上されます。この複雑さが、他の引当金と区別される理由です。
社債 ── 会社が市場から直接お金を借りる
銀行からの借入は 1 対 1 の個別交渉ですが、社債 は不特定多数の投資家からお金を集める方法です。社債には額面金額(返済時に払い戻す金額)、クーポン利率(毎年払う利息の割合)、償還期限が決められています。
企業が社債を発行する理由は、長期で安定した資金調達ができるからです。銀行借入は返済期限が来ると更新交渉が必要であり、銀行の経営判断で更新が拒否される可能性もあります。一方、社債なら期間中は確定した条件で資金を確保でき、銀行のような仲介機関を通さずに投資家と直接取引するため、手数料も低い傾向があります。また大規模な資金調達が必要な場合、単一の銀行では対応しきれないので、市場から不特定多数の投資家から調達する社債が重要な手段になります。
ただし、投資家の信用度に対する評価によって発行条件は大きく変わります。信用格付けが高い企業は有利な条件で発行でき、格付けが低い企業は厳しい条件を受け入れざるを得ません。投資家の側からも、銀行預金よりも高い利回りを期待でき、かつ国債よりもリスク対応の利回りを得られるというメリットがあります。発行価額が額面と異なるメカニズムは、この「投資家と企業の利益調整」を市場メカニズムで実現しているわけです。投資家は「クーポン利息が市場金利より低い場合は、割引価格で買って、満期時の差益で目標利回りを実現する」という戦略を取ります。
なぜ額面と発行価額がずれるのか
社債は必ずしも額面通りの金額で発行されるとは限りません。発行する企業の信用度や市場金利で、発行価額が額面から上下します。
市場金利がクーポン利率より高い場合を考えましょう。例えば市場では年 5% の利率が主流なのに、この社債のクーポン利率は 3% だとします。投資家の視点から「この社債は利率が低い」と感じられるため、額面より安い価格(割引発行)でないと買い手がつきません。投資家は「安く買えば、年 3% の受け取り利息に加えて、満期時に額面との差額がもうかる」という仕組みで利回りを調整するわけです。
逆に市場金利がクーポン利率より低い場合、「この社債は利率が高い」と感じられるため、額面より高い価格(プレミアム発行)でも買い手が集まります。
このように発行時に額面と発行価額がずれるのは、「市場の適正な利回りに調整するメカニズム」なのです。ただし、会計上は「発行時の価額」を負債として認識し、満期までの間に「額面に向かって調整」しなければなりません。これが 償却原価法 です。
償却原価法(定額法)による毎期の処理
定額法では、額面と発行価額の差額を償還期間で均等に割り振ります。この償却額は毎期の利息費用に上乗せされます。
手順をシンプルに示します。
例:額面 500 万円、発行価額 480 万円(20 万円の割引発行)、償還期間 4 年、クーポン利率 2%
手順 1:毎期の償却額を求める
割引額 20 万円を 4 年で均等配分するので、毎期 5 万円が償却額になります。
手順 2:毎期の社債利息を計算する
クーポン利息は「額面に対して」計算します。500 万円 × 2% = 10 万円です。これに毎期の償却額 5 万円を足します。つまり毎期の社債利息費用は 15 万円になります。
手順 3:B/S 上の社債残高を追う
発行時:480 万円で計上
1 年目末:480 + 5 = 485 万円 2 年目末:485 + 5 = 490 万円 3 年目末:490 + 5 = 495 万円 4 年目末:495 + 5 = 500 万円(額面に到達 → 償還)
社債の帳簿価額は毎期の償却によって少しずつ額面に近づいていきます。これが償却原価法の骨子です。
ここで重要な勘違いを避けておきましょう。クーポン利息は「帳簿価額」ではなく「額面」に掛けます。帳簿価額に掛けてしまうと、毎期の利息額が変わってしまい、定額法の意味が失われます。
償却原価法の経済的意味
なぜ償却原価法が必要なのでしょうか。社債の発行価額が額面より安い(割引発行)場合を考えましょう。投資家は 480 万円で買った社債が 4 年後に 500 万円で返ってくるので、単純な利息(クーポン利息 10 万円/年)だけでなく、「割引分 20 万円が利益になる」という構図です。
企業の側から見ると、毎年のクーポン利息 10 万円に加えて、実質的には「割引分の償却」という形で追加の利息費用が発生していることになります。償却原価法は、この「実質的な利息費用全体」を毎期の P/L に載せるための仕組みなのです。
例えば 3 年目末時点で、社債の帳簿価額は 495 万円です。この時点で社債を時価で評価すれば、市場金利が当初と変わっていなければほぼ 495 万円の価値があります。つまり B/S 上に「実質的な価値」を反映させるため、帳簿価額を毎期調整するわけです。
ここまでの整理 ── 負債の全体像
引当金は「まだ払っていないが義務は生じている金額」を 4 要件で慎重に認定する仕組みで、このうち退職給付引当金は独自の複雑な計算体系を持っています。社債は市場から直接資金を調達する方法で、発行価額と額面の差は償却原価法で毎期調整することで、「実質的な利息費用」を P/L に反映させます。どちらも「会計上の実質」を示すための計算であり、試験では「なぜそう計算するのか」という背景理解が問われます。
純資産の部 ── 株主のお金はどう区分されるか
B/S の右下にある純資産は、企業が株主から受け取ったお金と、企業が稼いで社内に溜め込んだお金の合計です。この区分が、企業の配当能力や財務安定性の判断に直結するため、重要な論点です。
資本金と資本剰余金 ── 株主が出資したお金
株式を発行して投資家から 1,000 万円を集めたとします。会社法 445 条では、そのうち 1/2 以上 を資本金として計上し、残りは資本準備金(資本剰余金の一種)として計上することが認められています。全額を資本金にすることも可能ですが、実務では次の理由から「半分だけ資本金にする」ケースが圧倒的に多いです。
まず、資本金の額によって中小企業要件が判定されます。資本金が 1 億円以下なら中小法人として軽減税率を受けられ、年 800 万円以下の所得部分に 15% の税率が適用されます。資本金が 1 億円 1 円を超えると、この優遇措置が一切なくなり、全額 23.2% の税率が適用されます。つまり「資本金を 9,999 万円に保つ」という財務戦略が生まれるわけです。
また、資本金が小さいほど利益準備金の積立義務の閾値(資本金の 1/4)も低くなり、配当がしやすくなります。例えば資本金 5,000 万円の企業は「資本準備金と利益準備金の合計が 1,250 万円に達すれば、それ以上の積立義務は免除される」というルールになります。
税務上の影響もあります。中小企業控除や交際費の定額控除(800 万円)など、中小企業要件による優遇措置が複数あり、資本金 1 億円以下の維持は企業経営上のマイルストーンになっています。つまり「資本金を小さく、資本準備金を大きく」という会社法 445 条の 1/2ルールを活用することで、税制上や配当政策上の柔軟性が生まれるわけです。
利益剰余金 ── 企業が稼いで溜めたお金と配当制約
企業が毎期稼いだ利益のうち、配当として社外に出さなかった分は 利益剰余金 として B/S に蓄積されます。利益剰余金には 2 つの要素があり、その区分が配当政策に直結します。
利益準備金 は、配当を行うたびに義務的に積み立てられる部分です。会社法で「配当額の 1/10 を利益準備金に積み立てなければならない」と定められています。この制度が存在する理由は「企業が配当を通じて資本を極度に流出させることを防ぐ」ためです。
例えば、資本金 1,000 万円の企業が累積利益 5,000 万円を持っていたとします。もし何の制約もなければ、経営者は全額配当して、企業に現金を残さないという判断もできてしまいます。そうなれば、債権者保護や企業の継続性が脅かされます。だから、「配当するたびに一定額を内部留保する」というルール(利益準備金)が必要なのです。
ただし、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の 1/4 に達していれば、この義務は免除されます。上記の例なら「資本金 1,000 万円 × 1/4 = 250 万円までの利益準備金と資本準備金を確保すれば、それ以上の積立義務は免除」ということです。つまり「配当によって資本金の 1/4 相当まで内部留保する」というルールで、企業の財産を極度の流出から守るメカニズムになっています。試験でも「利益準備金の免除要件」として頻出です。
任意積立金と繰越利益剰余金 は、企業が自由に配分できる部分です。将来の投資に備えて積み立てたり、配当に回したり、経営判断で柔軟に使えます。B/S を見る際には「利益準備金は固定的、繰越利益剰余金は流動的」という区分を意識することが、企業の配当能力を判断する上で重要です。
自己株式 ── 純資産のマイナス項目
自己株式は、企業が自社の株式を市場から買い戻したものです。なぜ企業が自社の株を買い戻すのでしょうか。従業員向けのストックオプション付与に備えたり、株価を支えたり、余剰資金を活用したりするためです。
自己株式を買い戻すと、企業は現金を支払う代わりに自社の株式を手元に保有します。これは株主が受けた配当に等しい効果があります。つまり株主資本が減少するため、純資産の 控除項目(マイナス)として表示します。
自己株式を「資産」と勘違いするのは、試験で最も多いミスの一つです。「自社の株式なんだから資産では?」と直感的に思いがちですが、B/S 作成の原則から言えば「自分自身への請求権は資産ではない」のです。
純資産全体の構成を整理する
純資産の各要素がどのような性質を持つかを、一目で把握できるようにまとめます。
| 項目 | 何を表すか | 性質 | B/S表示 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 株主の出資額のうち資本金として計上した部分 | 出資 | + |
| 資本準備金 | 出資のうち資本金に計上しなかった部分 | 出資 | + |
| 利益準備金 | 配当時に義務的に積み立てた利益 | 内部留保 | + |
| 任意積立金・繰越利益剰余金 | 企業が自由に配分できる蓄積利益 | 内部留保 | + |
| 自己株式 | 買い戻した自社株式 | 資本の返却 | - |
配当制限(分配可能額の計算)と自己株式
企業が配当を実行する際には、法的な上限(配当可能額)が存在します。これは企業のコア資本(資本金)を極度に流出から守り、債権者保護の機能を果たします。
配当可能額の基本的な考え方は「企業が株主に配当できる金額は、利益剰余金から一定額を控除した残り」です。この一定額が配当制限の対象になります。
会社法のルール:配当可能額 = 繰越利益剰余金 + 任意積立金 − 自己株式の帳簿価額
ただし、配当により資本準備金と利益準備金の合計が資本金の 1/4 を下回ってはいけません。この制限が機能するため、利益準備金と資本準備金が資本金の 1/4 に達していれば、それ以上の利益準備金積立義務は免除されます。
自己株式が配当可能額に与える影響:
純資産 10 億円の企業が、自己株式を 2 億円分取得したとします。B/S 上は純資産が 8 億円に減少します。その後配当を実行する際、配当可能額は「自己株式 2 億円を差し引いた 6 億円」が上限になります。なぜでしょうか。
自己株式の取得は現金が流出し、同時に株主資本が減少するため、企業の実質的な配当原資(現金や資産)が減ります。会計上も B/S 上も純資産が減少していることを反映させるため、配当可能額からマイナスするわけです。つまり「自己株式を取得した企業は、その分だけ配当能力が低下する」という経済的現実を制度的に反映しているのです。
ここまでの整理 ── 純資産区分の意味
純資産は「株主から受け取ったお金」(資本金+資本剰余金)と「稼いで溜めたお金」(利益剰余金)に分かれます。配当制限や中小企業要件の判定も、この区分に基づいています。自己株式はマイナス項目で、「株主資本の返却」を意味し、配当可能額に直接影響します。
資産除去債務 ── 固定資産の除去に関する義務
定義と発生の背景
企業が有形固定資産(ビル、機械、設備等)を取得・使用する過程で、法令により「使用終了時に除去する義務」が生じることがあります。たとえば、企業が借りた土地に工場を建設した場合、契約終了時に工場を取り壊して原状復帰する義務が生まれます。環境汚染防止法で「土地の汚染を除去しなければならない」と定められていたら、その費用も対象です。この「将来の除去費用に関する義務」を 資産除去債務 として会計処理します。
発生のタイミングは「資産を取得した時点」です。なぜなら、その時点で「いつかは除去しなければならない」という法的義務が確定するからです。会計上は、この法的義務を現在価値で見積もり、B/S に負債として計上する必要があります。これは「貸借対照表の完全性」を保つための処理です。
B/S における表示と計算
資産除去債務は、B/S の 負債の部に独立した項目 として表示します。資産の控除項目ではない点がポイントです。例えば「建物の除去費用債務だから建物から差し引く」というのは誤りです。建物は固定資産として正額で計上し、その除去義務は別途「資産除去債務」として負債の部に表示します。
除去費用の現在価値(割引現在価値)を計上し、同額を有形固定資産の帳簿価額に加算します。つまり資産と負債の両側が同額増加します。これは「企業が将来支払う義務を現在価値で認識する」と同時に、「その義務が生じた資産の取得原価に上乗せする」という複式簿記の基本に従った処理です。
計算例:借地に建物を建設。契約終了時に建物取壊費用として 1,000 万円の支出が予想される。割引期間 10 年、割引率 3%。
現在価値 = 1,000 ÷ (1.03)^10 ≈ 744 万円
仕訳:(借) 建物 744 万円 / (貸) 資産除去債務 744 万円
建物の帳簿価額が 744 万円増加し、同時に将来の除去義務を負債計上します。後々建物を売却・完全償却する際、この上乗せ分も一緒に減価償却されます。
毎期の会計処理
資産除去債務は毎期、2 つの金額が増加します。この 2 つは異なる費用科目で計上されることが重要です。
利息費用 は時間経過による負債増加です。初期計上時は現在価値(744 万円)で計算されているため、毎年「割引を巻き戻す」ために利息費用が発生します。この金額は「資産除去債務残高 × 割引率」で計算されます。P/L 上では、当該有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上されます。
減価償却費 は資産側の償却です。建物は建物として、毎年通常の減価償却を受けます。資産除去債務の上乗せ分(744 万円)も、建物として 10 年で均等に償却されます。これは通常の減価償却費に含まれ、販管費の一部として扱われます。
毎年の利息費用例:1 年目は 744 × 3% = 22.32 万円。仕訳は (借) 利息費用 22.32 / (貸) 資産除去債務 22.32 です。債務残高が 744 + 22.32 = 766.32 万円に増加します。2 年目は 766.32 × 3% = 22.99 万円と増加していき、10 年目末には債務残高が 1,000 万円に到達します。この時点で建物を取り壊して 1,000 万円を支出すれば、債務が完全に消滅します。
この構造は退職給付会計の「利息費用」と似ていますが、資産除去債務は「除去すべき資産に紐付いた義務」であるのに対し、退職給付引当金は「人的資本に関する義務」という点で異なります。
法人税の基本 ── 会社の税金はどう計算されるか
課税所得と益金・損金
法人税は「会計上の利益」にそのまま掛けられるわけではありません。法人税法によって「益金」と「損金」が定義されており、その差が「課税所得」になります。
益金(えききん) は法人税法で認められた収入です。会計上の「収益」より狭いことが多いです。例えば受取配当金は、会計上は収益ですが、法人税法では一定額が益金不算入(課税対象外)とされます。
損金(そんきん) は法人税法で認められた支出です。会計上の「費用」より狭いことが多いです。例えば貸倒引当金は、会計上は費用ですが、法人税法では「実際に貸し倒れるまで損金に認めない」というルールがあります。
この違いが存在する背景は、会計と税務の目的の相違にあります。会計は「企業の真実の経営成績を利害関係者に伝える」ことが目標なので、見積りや引当金を多用して保守主義的に処理します。貸倒引当金も「将来回収できないと予想される売掛金」に備えるため、早めに費用化します。一方、税務は「国の税収を確保する」ことが目標なので、実現可能性の高い収益・費用のみを認め、見積りには慎重です。貸倒引当金は「まだ貸し倒れていない」という理由で、損金不算入(課税所得を計算する際に費用として認めない)とされるわけです。
この「会計ルール」と「税務ルール」の違いが、税効果会計が必要になる根本的な理由です。
欠損金の繰越控除
青色申告法人(税務署長の承認を受けた企業)は、過去の赤字(欠損金)を現在の利益と相殺できます。
この仕組みが存在する理由は、景気変動下の企業を保護するためです。例えば、A 社は以下のような業績推移を経験したとしましょう。
- R3 年度:赤字 1,000 万円(欠損金発生)
- R4 年度:赤字 500 万円(累積欠損金 1,500 万円)
- R5 年度:黒字 5,000 万円
青色申告法人なら、R5 年度の課税所得は 5,000 − 1,500 = 3,500 万円に圧縮できます。3 年間のトータルで赤字 500 万円しか出ていないのに、R5 年度だけで黒字 5,000 万円に対して法人税を納めるのは不公平だ、という考え方です。
ただし制限があります。欠損金は「過去 10 年以内」のもののみ繰り越し可能です。11 年以上前の欠損金は使えません。これは「古すぎる赤字にいつまでも頼るのはおかしい」という時間的な公平性の考え方です。
青色申告と中小法人軽減税率
青色申告 は、所轄税務署長の承認を受けた法人が確定申告書を「青色」で提出する制度です。この制度を選択するには、正確な帳簿記録と書類保管義務を受け入れる必要があります。メリットは欠損金の繰越のほか、特別償却や圧縮記帳などの優遇措置が使えることです。特に欠損金の繰越は企業にとって極めて大きなメリットであり、多くの企業が青色申告を選択する理由となっています。なぜなら、景気循環下で一時的に赤字になったとき、その赤字を後年の黒字と相殺できれば、企業全体の税負担を大幅に軽減できるからです。
中小法人軽減税率 は、資本金が 1 億円以下 の法人に適用されます。この制度の目的は「企業規模が小さいほど税負担を軽く」という政策です。所得額に応じて段階的に税率が変わるため、事業規模に応じた公平な課税を実現しています。
年 800 万円以下の部分に対しては 15% の税率が適用され、年 800 万円を超える部分に対しては 23.2% の税率が適用されます。この 800 万円の分岐点は「中小企業が通常営む事業で達成可能な利益規模」として設定されており、試験でも頻出の数値です。
計算例:資本金 5,000 万円(1 億円以下)、課税所得 5,000 万円の企業
- 800 万円 × 15% = 120 万円(低税率部分)
- (5,000 − 800)万円 × 23.2% = 973.6 万円(標準税率部分)
- 合計:1,093.6 万円
全額を 23.2% で計算すると 1,160 万円になるはずが、軽減税率により 66.4 万円の節税効果が出ます。これが中小企業支援の実質的な意味です。
資本金が 1 億円を超えると、この軽減税率は適用されず、全額が 23.2% になります。これは中小企業要件(資本金 1 億円以下)の定義と一致しており、税制上の重要な分岐点です。
税効果会計 ── 会計と税務の「時間のズレ」を調整する
なぜ税効果会計が必要か
企業の現金税負担(法人税等として実際に納める金額)と、会計上の「税金費用」(P/L に表示される額)がズレることがあります。このズレをそのまま放置すると、P/L が示す利益と、実際の税負担の関係が不透明になります。
会計上の利益 100 万円、実際の法人税を 300 万円支払うというケースを想像してください。利益から率直に 30% を掛けると 30 万円の税金費用になるはずなのに、なぜ 300 万円もの税金を払うのでしょうか。この矛盾は、「会計ルールと税務ルールが異なる」ことから生じています。
具体例で見てみましょう。企業が「得意先 A 社の売掛金 100 万円は回収できないかもしれない」と判断して貸倒引当金を 100 万円計上したとします。会計上はこの 100 万円は費用(引当金繰入額)として利益を減らします。ところが税務上は「まだ実際に貸し倒れていないのだから費用として認めない」というルールがあります。
この結果、同じ取引について異なる処理が発生します。会計では費用 100 万円を計上して利益が 100 万円減りますが、税務では費用と認めないので課税所得は 100 万円多くなります。税率が 30% なら、当期は会計上の利益に見合う 30 万円の税金を期待していたのに、実際には 30 万円 + (100 万円 × 30%) = 60 万円の納税を強いられることになります。
ただし「時間のズレ」という点が重要です。将来実際に貸し倒れた時点で、税務上も費用として認められます。つまり当期に多く払った 30 万円は、将来の納税時に戻ってくるわけです。このメカニズムを理解することが税効果会計の第一歩です。
税効果会計は、この「時間のズレによる税負担の差」を P/L 上で調整し、「会計上の利益に見合った税金費用」を表示する仕組みです。言い換えれば、「当期の現金税負担と P/L の税金費用を整合させる」手法であり、企業の経営成績の理解を助けます。
差異の分類 ── 一時差異と永久差異
会計と税務のズレは根本的に 2 種類に分かれます。この分類が税効果会計を理解する最も重要なポイントです。
一時差異 は「今はズレているが、将来解消される」差異です。先ほどの貸倒引当金の例がこれにあたります。当期は会計上は費用だが税務上は認められない → 将来は費用として認められる、という流れで完結します。つまり「時間がたてば帳尻が合う」わけです。
一時差異はさらに 2 つに細分化されます。
将来減算一時差異 は「当期に税務上の課税所得が多くなり、将来は少なくなる」差異です。典型的な例が貸倒引当金です。当期は会計上 100 万円の費用を計上したのに、税務上は認めないので課税所得は 100 万円増えます。つまり当期は「本来より 30 万円(100 万円 × 30%)多く税金を払う」ことになります。しかし将来この引当金が費用として認められたとき、当期に多く払った 30 万円は返ってくる(税金が減る)という仕組みです。
将来加算一時差異 は「当期に税務上の課税所得が少なくなり、将来は多くなる」差異です。代表例がその他有価証券の評価益です。有価証券を時価評価して 50 万円の評価益が出たとしましょう。会計上は「含み益として純資産に計上」しますが、税務上は「売却するまで益金に計上しない」というルールがあります。つまり当期は税務上の所得が 50 万円少なく、税金も少ないです。しかし将来売却時には、当期の含み益と売却時の実現益を合わせて課税されるため、当期に少なく払った分は将来多く払うことになります。
永久差異 は「永久に解消されない」差異です。例えば交際費は、会計上は費用ですが税務上は「定額控除額(800 万円)を超える部分は永久に費用として認められない」というルールがあります。つまり企業が 1,000 万円の交際費を支出しても、税務上は 800 万円は損金に算入されますが、残り 200 万円は「永遠に費用として認められない」のです。永久差異は将来も解消されないため、税効果会計の 対象外 です。繰延税金資産・負債を計上する対象にならないということです。
| 区分 | 解消時期 | 具体例 | 税効果処理 |
|---|---|---|---|
| 将来減算一時差異 | 将来、課税所得が減少する | 貸倒引当金、賞与引当金 | 繰延税金資産を計上 |
| 将来加算一時差異 | 将来、課税所得が増加する | その他有価証券評価差額金(評価益) | 繰延税金負債を計上 |
| 永久差異 | 永久に解消されない | 交際費超過額、受取配当金益金不算入 | 対象外(何も計上しない) |
繰延税金資産と繰延税金負債
将来減算一時差異は「当期に多く払った税金が将来戻ってくる」効果を持ちます。これは「将来の税金支払いを減らす権利」であり、現在の経済価値(現在価値)を持つため、B/S 上では 繰延税金資産 として計上します。つまり「今まで多く払った税金が将来帰ってくる」という期待が、資産価値を持つと考えるわけです。
計算式:繰延税金資産 = 将来減算一時差異 × 法定実効税率
例えば貸倒引当金 100 万円、法定実効税率 30% なら、繰延税金資産は 30 万円になります。これは「将来この 100 万円の引当金が費用として認められたとき、当期に多く払った 30 万円の税金が戻ってくる」という経済的便益の現在価値です。
仕訳は (借) 繰延税金資産 30 / (貸) 法人税等調整額 30 です。法人税等調整額がマイナス(貸方)になることで、P/L 上の税金費用が減ります。具体的には「実際に納付した税金 300 万円」から「繰延税金資産 30 万円」を差し引いて、P/L 上の税金費用は 270 万円になります。これで「会計上の利益 100 万円に対して、税金費用 30 万円(税率 30%)」という公平性が実現されるわけです。
逆に、将来加算一時差異は「当期は税金が少ないが、将来追加で払う」効果を持ちます。将来の追加税負担が見込まれるので 繰延税金負債 として計上します。これは「将来の税金支払いを増やす義務」であり、負債価値を持つと考えるわけです。
計算式:繰延税金負債 = 将来加算一時差異 × 法定実効税率
例えば有価証券評価差額金(評価益)50 万円なら、繰延税金負債は 15 万円になります。有価証券は現在含み益が出ており、将来売却時にこの利益が実現すると、当期の含み益と合算して課税されます。つまり当期は税務上の利益に含まれていないため税金が少ないですが、将来必ず追加で税金を払うことになるのです。
仕訳は (借) 法人税等調整額 / (貸) 繰延税金負債 です。法人税等調整額がマイナス(借方)になることで、P/L 上の税金費用が増えます。「実際に納付した税金」より「P/L 上の税金費用」が大きくなり、「当期の利益に対する公平な税率」が実現されるわけです。
計算の全体像 ── ステップで追う
税効果会計の計算を 4 ステップで進める典型例を示します。この例を通じて、各ステップが何を意味するのかを理解することが重要です。
【データ】
- 税引前当期純利益 1,000 万円、法定実効税率 30%
- 一時差異:貸倒引当金損金不算入 100 万、賞与引当金損金不算入 200 万(将来減算)、その他有価証券評価差額金(評価益)50 万(将来加算)
- 永久差異:交際費損金不算入 30 万
ステップ 1:課税所得を求める
ここはあくまで「税務署が見た所得」を計算するステップです。会計上の利益から始めて、税務で認められなかった費用を加算し、税務で先に認めた収益を減算します。永久差異も含めて調整します。
課税所得 = 1,000 + 100 + 200 − 50 + 30 = 1,280 万円
具体的に見ると、貸倒引当金 100 万円と賞与引当金 200 万円は「会計では費用だが税務では未認識」なので加算します。有価証券評価差額金 50 万円は「税務では未認識だが、評価益が発生している」ので減算します。交際費 30 万円は「永久に税務で認められない」が、計算上は加算してから差し引かれます。
ステップ 2:法人税等(実際の納付額)を計算
課税所得に税率を掛けて、企業が実際に納める税金を求めます。
法人税等 = 1,280 × 30% = 384 万円
これが企業が税務署に納める現金税金です。
ステップ 3:税効果を計算
ここが税効果会計の最もクリティカルな部分です。「一時差異」に対してのみ、B/S 上に繰延税金資産・負債を計上します。
繰延税金資産 = (100 + 200) × 30% = 90 万円
これは「将来、貸倒引当金と賞与引当金が費用として認められたとき、返ってくる税金」を現在価値で表したものです。当期は 300 万円の一時差異があり、そのうちの 30% = 90 万円が「将来の税金還付」として見込まれるわけです。
繰延税金負債 = 50 × 30% = 15 万円
これは「有価証券の含み益が将来実現したとき、追加で払わなければならない税金」です。当期に 50 万円の評価益が出ており、そのうちの 30% = 15 万円が「将来の追加納税」として見込まれます。
法人税等調整額 = −90 + 15 = △75 万円
法人税等調整額は繰延税金資産と繰延税金負債の差です。これを P/L に計上することで、実際の納税額(384 万円)を「期間配分された税金費用」に変換します。
※ 永久差異 30 万円は税効果の対象外です。交際費は「永遠に税務で認められない」ため、繰延税金資産・負債の対象にはならず、単に課税所得を増やすだけです。
ステップ 4:P/L の表示と実効税率の確認
P/L 上の表示は:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 法人税等 | 384 万円 |
| 法人税等調整額 | △75 万円 |
| 税金費用計 | 309 万円 |
これにより、P/L 上の実効税率は 309 ÷ 1,000 = 30.9% になります。
検証:もし永久差異がなければ、税引前利益 1,000 万円 × 30% = 300 万円とぴったり一致していたはずです。永久差異 30 万円が加わることで、実効税率がわずかに上昇し、309 万円になったということです。
税効果会計の本質的な目的:
税効果会計は、P/L に表示される税金費用を「会計上の利益 × 実効税率」に近づけることで、「利益に見合った税負担」を表示する仕組みです。一時差異による「時間のズレ」は繰延税金資産・負債で解消できますが、永久差異は永遠に解消されないため、その分実効税率が変動します。
実務で最も重要な論点 ── 試験出題のパターン
このページで学んだ内容は、試験で「判定問題」として出題されることが多いです。例えば「この項目は引当金に該当するか?」という 4 要件判定、「この差異は一時差異か永久差異か?」という分類判定です。重要なのは「暗記」ではなく「なぜそう分類されるのか」という理由の理解です。
実際の試験では、判定に到達するまでの「思考プロセス」が問われます。例えば「賃金未払金は引当金か?」という問題に対して、「給与は当期の勤務に対する対価で、当期以前の事象に起因する」「支払義務が生まれている」「金額が見積もれる」という 4 要件を順番に確認して答える、という思考の流れです。この思考プロセスは、より複雑な複合問題でも不変です。
複合問題として「社債と税効果が同時に出題される」「純資産区分と配当制限が同時に出題される」というケースも増えています。各セクションが独立しているのではなく、B/S 全体の結合性を理解することが得点につながります。例えば「自己株式を取得したとき、B/S のどこが減って、配当可能額がどう変わるか」という因果関係を即座に説明できるレベルまで理解することが理想的です。
問題を解くときの観点
- その項目は「将来支払う義務か、株主持分か」を最初に区別する。この判別ができれば、その後の処理はほぼ決まる
- 引当金の 4 要件を「全て」満たしているかを確認する(1 つでも欠けると不適格)。特に「当期以前の事象に起因」という要件を見落としやすい
- 一時差異を「将来減算」と「将来加算」のどちらで見るかを正確に判定する。判定を間違うと繰延税金資産・負債が逆になる
- 永久差異は税効果の対象外であることを忘れずに。永久差異は実効税率の変動要因になる
- B/S と P/L の両側にどう残るかを常に意識する。特に引当金と税効果は「両側が連動する」という意識が大切
実例で理解する ── 総合的なシナリオ
中小製造業 X 社の会計・税務処理を見てみましょう。X 社は資本金 5,000 万円、決算日 12 月 31 日です。
当期の事象:
- 得意先 A との売掛金 50 万円が回収不能に → 貸倒引当金 50 万円を計上
- 従業員の年末賞与 200 万円(翌年 1 月支給予定) → 賞与引当金 200 万円を計上
- 社債(額面 1,000 万円、年 2% クーポン)を初期発行価額 950 万円で発行
- 過去の欠損金(R3:300 万、R4:200 万)を活用
- 減価償却超過額:税務上は 150 万円上乗せ
- 交際費:会計上 100 万円支出だが、税務上は 80 万円まで認可
税務計算(簡略版):
- 会計上の利益 1,000 万円
- 一時差異加算:貸倒引当金 50 + 賞与引当金 200 + 減価償却超過額 150 = 400 万円
- 永久差異加算:交際費超過額 20 万円
- 永久差異減算:なし
- 課税所得 = 1,000 + 400 + 20 = 1,420 万円
- 過去欠損金 500 万円を繰越控除 → 調整後課税所得 = 920 万円
中小法人軽減税率適用:
- 800 万 × 15% = 120 万円
- (920-800)万 × 23.2% = 27.84 万円
- 法人税等 = 147.84 万円
税効果会計:
- 繰延税金資産 = (50+200+150) × 30% = 120 万円
- 法人税等調整額 = △120 万円
- P/L上の税金費用 = 147.84 - 120 = 27.84 万円(欠損金繰越控除と中小法人軽減税率の適用により、実効税率は会計利益×法定実効税率より大幅に低くなっています)
B/S表示:
- 流動負債:賞与引当金 200 万
- 固定負債:社債 950 + クーポン利息相当分
- 繰延税金資産 120 万円(資産の部の投資その他資産に表示)
このように「引当金」「社債」「自己株式」「税効果」などが現実の取引の中で複合的に絡み合っています。
典型的なつまずき
引当金を単なる費用だと思い、B/S 側を落とす → 引当金は B/S(負債) と P/L(繰入額) の両方に出現する。仕訳も両側にある自己株式を資産のように扱う → 純資産の 控除項目(マイナス)であり、決して資産ではない。自社株は「資産」ではなく「資本の返却」税効果会計を税額そのものの計算と誤解する → 会計と税務の ズレの調整 であり、税金計算そのものではない。あくまで「期間配分」が目的- 永久差異に税効果を適用してしまう → 交際費等の永久差異は繰延税金資産・負債の対象外。課税所得計算には含まれるが、繰延税金には影響しない
- 繰延税金資産と繰延税金負債の仕訳の向きを逆にする → 将来減算 → 資産、将来加算 → 負債が正解。間違えると B/S が合わなくなる
- 引当金の 4 要件を 1 つでも落として判断する → 4 要件全てを満たすことが必須。「ほぼ当期に起因」では不可、「確実に当期に起因」が必要
- 社債のクーポン利息を「帳簿価額 × 利率」で計算する → クーポン利息は「額面 × クーポン利率」が正解。帳簿価額で計算すると毎期の利息額が変動してしまう
このページで理解すべき 3 つの柱
B/S 右側(負債・純資産)と P/L の税金は、一見すると 3 つの独立したテーマに見えます。しかし実は「企業のお金の流れをどう会計処理するか」という統一的な問題です。
第 1 の柱:見積りの処理(引当金)── 「まだ払っていないが、発生した義務」を、4 要件を満たすかどうかで見積り負債として計上するか判定する。会計の保守主義の考え方が根底にあります。同じ発生主義の考え方でも、「当期の事象に基づいて」という限定が付けられているのは、債権者保護と企業の実質的な経営状況の反映を両立させるためです。
第 2 の柱:市場調達(社債)── 発行価額と額面のズレは「市場金利の変化」を反映しており、それを毎期調整(償却原価法)することで、B/S に実質的な価値を載せる。複式簿記の「実質を反映する」原則の実例です。また、社債が普通借入と異なり「市場メカニズムで価格が決定される」という点は、現代企業金融の重要な特徴です。
第 3 の柱:会計と税務の時間的ズレ(税効果会計)── 同じ取引でも、会計ルールと税務ルールが異なれば、当期の税負担と P/L の税金費用がズレる。その時間的ズレを繰延税金資産・負債で調整し、「利益に見合った税率」を表示する。この概念は「会計と税務は別の目的を持つシステムである」という理解の上に成り立っています。
これら 3 つが統合された問題が試験に出てきたときに「なぜこう処理するのか」という理由が答えられると、複雑な計算問題も自信を持って解けるようになります。
複合問題を解くための戦略 ── B/S全体を見る
実際の試験では、「引当金と税効果」「社債と純資産」など、複数のテーマが組み合わさった問題が増えています。こうした問題を効率よく解くためには、B/S 全体を「負債側」「純資産側」「税関連」という 3 つの視点で同時に追う習慣が大切です。
例えば「社債を割引発行し、期末に償却原価法で処理した。さらに、引当金を設定し、一時差異が発生した」という複合問題では:
- 負債側:社債の帳簿価額はいくらか(額面から出発し、毎期の償却額を加算)
- 純資産側:配当可能額はいくらか(自己株式の取得がある場合はここで影響)
- 税側:一時差異から繰延税金資産・負債がいくら出るか(実効税率を掛ける)
これらを同時進行で整理する力が、複合問題の得点を左右します。各セクションの「なぜ?」を理解しておくと、初見の複合問題でも論理的に対応できます。
確認問題
問1:税効果会計の計算
税引前当期純利益 800 万円。将来減算一時差異 120 万円(賞与引当金)。永久差異 20 万円(交際費)。法定実効税率 30%。法人税等と法人税等調整額を求めよ。
解答:課税所得 = 800+120+20 = 940 万。法人税等 = 940×30% = 282 万円。繰延税金資産 = 120×30% = 36 万円。法人税等調整額 = △36 万円。税金費用 = 282−36 = 246 万円。
問2:社債の償却原価法
額面 1,000 万円の社債を 940 万円で発行。償還期間 6 年、定額法。3 年目末の帳簿価額を求めよ。
解答:毎期の償却額 = (1,000−940)÷6 = 10 万円。3 年目末 = 940+10×3 = 970 万円。
問3:引当金の 4 要件判定
以下のうち引当金として計上できるものはどれか。(a) 来期の設備投資のための積立 (b) 従業員への賞与(支給対象期間が当期を含む)(c) 取引先の経営悪化に伴う売掛金の回収不能見込額。
解答:(b)(c)。(a) は将来の支出であるが「当期以前の事象に起因」しておらず、特定の費用・損失でもないため 4 要件を満たさない。(b) は賞与引当金、(c) は貸倒引当金として全 4 要件を満たす。
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